2024年 4月 19日 (金)

チームの成果を早く出そうとするほど成果は遠のく!? マジメな上司のジレンマ(前川孝雄)

   【リモートワークで働きがいある職場を創る〈第2回〉】今回は、前回取り上げたリモートワーク下で急増している上司の悩みや、「部下の仕事ぶりが見えない」「部下の人事評価が難しい」などのストレスをどのようにとらえ、いかに克服するか、解説していきます。

   参考リンク:リモートワークで働きがいある職場を創る【第1回】「リモートワークで管理職の悩み急増? 問われる本物の上司力(前川孝雄)」(J-CASTニュース 会社ウォッチ2021年10月26日付)

  • リモートワークでマジメな上司が陥るリスクとは?
    リモートワークでマジメな上司が陥るリスクとは?
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マジメな上司が陥るクイック・ウィン・パラドックスのリスク

   まず、リモートワーク下で職責意識が高くマジメな上司ほど陥りがちなリスクを、どのように理解すればよいでしょうか。

   ハーバード・ビジネススクールのリーダーシップを教えるリンダ・ヒル教授が、新任管理職にありがちな問題行動を調査分析して明らかにした「5つの落とし穴」が、そのヒントになります=図1参照

図1:成果を上げられない管理職が陥る5つの落とし穴
図1:成果を上げられない管理職が陥る5つの落とし穴

   具体的には、(1)隘路(あいろ)に入り込む ―狭い路地に迷い込んだように周囲が見えなくなり、自分ですべてを解決しようとする(2)批判を否定的に受け止める―部下の異なる意見を自分への批判と受け止め、聞き入れられなくなる(3)威圧的である―管理職の自分に権限があるからと、一方的に命令や叱責を行う(4)拙速に結論を出す―部下の意見や状況を顧みず早く解決しようと、決めつけて判断する(5)マイクロ・マネジメントに走る―部下を自分の操り人形のように微に入り細に入り指示し、動かそうとする...という行動です。

   こうなると、部下の心は余計に離れてしまい、やる気を失い、マネジメントは空回りし始めます。すなわち、早い成果を出そうとの焦りが、かえって成果を遠のかせるジレンマ―クイック・ウィン・パラドックスに陥ってしまうのです。

   アメリカの政治学者でリスク分析の専門家であるイアン・ブレマーは、この世界的コロナ禍は私たちの一生で最大の危機であり、今まで認識はしつつも、きちんと対処してこなかった課題が一気に噴出すると指摘します。そして、1~2年の間に、5年から10年分の変化に直面することになると予言しています。

   クイック・ウィン・パラドックスはコロナ禍以前に打ち出されていたコンセプトですが、部下の仕事ぶりが見えづらい焦りから、さらに起こりやすくなっているといえます。 つまり、リモートワークの急速な普及によって、本質的なマネジメントの変革が、正に待ったなしの急務になったといえるのです。これを機に、上司に求められる本来の役割を正しくとらえ直し、自己変革を果たし、リモートワーク下でも上司の本領を発揮することが望まれます。

管理職から支援職へ ~「支援型マネジメント」を進める心構えを持つ

   変革すべき方向を先に述べれば、こらからの上司は管理職から支援職を目指すべきでしょう。リモート環境下でも、部下一人ひとりが自律的に仕事に向き合えるようにしていく、「支援型マネジメント」が求められているのです。そのためには、部下の「やる気」の構造を理解することが大切です。

   人の動機づけには「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」があります。「外発的動機づけ」は、いわば外側から働きかける動機づけです。たとえば、職場の上司が業務目標を部下に一方的に押し付け説得すれば、部下は物事を強制されるだけの自分に無能感を募らせます。そして、上司の統制と管理のもとに行う仕事には「やらされ感」が蔓延していきます。

   これに対して「内発的動機づけ」は、自分の内面から湧き上がる動機づけです。まさに「やる気」の源泉といえます。これにはまず、部下に自分の仕事の目的を共有し納得させることから始めます。

   そして、仕事の目標と計画を自ら立てさせ上司が承認することで、有能感が得られます。決めた目標は部下の自己統制(セルフ・マネジメント)に任せ、上司は要所要所で支援します。こうして部下は任された仕事の当事者となり、「やる気」が醸成されていくのです=図2参照

図2:「やる気」の構造を理解する
図2:「やる気」の構造を理解する

   この「支援型マネジメント」は、部下のキャリア自律を後押しすることになり、自律型人材として育て上げることにつながります。自律型人材とは、他者から管理・支配されるのではなく、自分の立てた規律や規範に則って働き続けられる人材です。とりわけウィズコロナの厳しい時代には、あらゆるビジネスパーソンが会社依存から脱却し、自らのキャリアを探求しながら、社会に貢献できる仕事を創出しやり遂げることが必要なのです。

   こうした「支援型マネジメント」の心構えを踏まえたうえで、次回からは、リモートワーク下で求められる上司力として、次の5つの「コミュニケーションのポイント」を順番に解説していきます。

   ※マネジメント改革を実現する「上司力」の詳細をさらに詳しく知りたい方は、拙著「本物の上司力 ?『役割』に徹すればマネジメントはうまくいく」(大和出版、2020年10月発行)をご参照ください。

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