2022年 1月 28日 (金)

他人にやさしくない日本では「ベーシック・インカム」が現実的かもしれない

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   日本は「おもてなしの国」と言われ、自分たちもそう思っている。ところが、「世界人助け指数」では、日本は126か国中107位。また「国は貧しい人々の面倒を見るべき」と答えたのは、イギリス91%、中国90%、韓国87%、アメリカ70%だったのに対し、日本は59%と、調査対象の中で最低だった。

   本書「やさしくない国ニッポンの政治経済学」は、他人に対してやさしくない日本人の真相を歴史的、社会的な視線で探った本だ。副題は「日本人は困っている人を助けないのか」とさらに厳しい。

「やさしくない国ニッポンの政治経済学」(田中世紀著)講談社
  • 日本人の中間層は貧しくなっている……
    日本人の中間層は貧しくなっている……
  • 日本人の中間層は貧しくなっている……

日本人は困っている人を助けない

   著者の田中世紀さんは、オランダ・フローニンゲン大学助教授。専門は政治学・国際関係論。冒頭の「世界人助け指数」は、イギリスのチャリティーズ・エイド財団が、全世界の130万人以上の人を対象に2009年から2018年まで行った調査の総合ランキングだ。全世界での最下位は中国で、台湾は48位、韓国は57位だが、日本は先進国では最下位だった。

   日本は本当に「他人に対してやさしくない自助の国」になったのか、という疑問が本書の出発点だ。

   一方で、一人あたり国内総生産は、先進国中(OECD加盟国)18位(2019年)に落ち込んでいる。厚労省の調査では、一世帯あたりの平均所得は552万3000円(同年)で、ピーク時の1994年の664万2000円から緩やかに減少している。所得が平均を下回る世帯が6割に及び、日本は「貧しい人が多い国」だとしている。

   中間層が貧しくなっているなか、コロナ禍のいま、より多くの人が「貧しい人」のカテゴリーに入る可能性は否定できない。そのとき、誰も助けてくれなかったらどうなるのか、という問題意識が根底にある。

   日本人が他人を思いやるというのは幻想ではないか――。社会心理学者・山岸俊男氏らの先行研究を紹介し、「日本人はお互いを信頼しない社会」であり、相互監視と制裁がない状態では、日本人は日本人同士で信頼し合えないという仮説は、他の社会学の研究ともつじつまが合うという。

   集団に帰属し、集団のルールを守る限り、安定的な生活も保証されるが、集団のルールがなくなれば助け合いもなくなってしまうのだ。

なぜ人は他人を助けるのか

   そこから、「そもそも、なぜ人は他人を助けるのか」という議論を展開している。人は程度の差はあれ、「見返りを期待しない」ピュアな利他主義を持っているという「共感・利他主義仮説」や、日本人は共感力が欠けているという「共感仮説」、高収入の人や高学歴の人ほどボランティアに参加しやすいという「資源仮説」、宗教的な人ほどボランティアに参加しやすいという「宗教仮説」などを検討。どれも一長一短があり、これが正解という結論は出なかった。

   そして、献血、寄附、ボランティア活動など、利他的な行動を促すには、「その行動が社会に役立っている」、「効果がある」と人々が実感することが重要である、としている。日本には潜在的に人を助けたいと思っている人は少なからずいるが、実行に移さないのはなぜか、という問いが浮かび上がってきた。

   新型コロナウイルスの影響で、日本政府は、特別定額給付金、持続化給付金など、さまざまな救済政策を講じてきた。中でも特別定額給付金は、収入による制限がなく、住民基本台帳に記録されている人なら誰でも10万円の給付を受けることができるという、ベーシック・インカムの考えに近いものだった。そこで、にわかにベーシック・インカムが注目されるようになった。

   そこで、田中さんは今年(2021年)2月に日経リサーチの協力のもと、日本人1800人を対象に独自に意識調査を行った。他人を信頼するかどうかについては、80.7%が「他の日本人を信頼していない」「用心するにこしたことはない」と回答。ベーシック・インカムについては56.6%が賛成だった。低所得者のみへの限定給付に賛成したのは52%で、ベーシック・インカムのほうが、支持率が高かった。

半数以上がベーシック・インカムに賛成する理由

   半数以上の人がベーシック・インカムに賛成しているという意味は大きい。日本でもベーシック・インカムについての合意形成は不可能ではないようだ。

   賛成の理由としては、「生活に困窮しているから」、「これから困窮する可能性があり、もらえるものはもらいたい」など。また、年配の人より若者のほうが、賛成する傾向にあった。特に60歳代で支持率が低く、すでに年金をもらっているので必要がない、あるいはベーシック・インカムをもらうと年金がもらえなくなる、と考えた人が多いかもしれない、と見ている。

   日本人は限定給付をもらうのを「恥」と考える人も少なくない。そこで、「給付を受けた場合、市町村のホームページに受給者の名前が掲載される予定です」という文言を付け加えたところ、応募率が87%から27ポイントも下がった。給付を受けていることを隠したいと感じ、給付を公にされるくらいなら「もらえるものももらわない」と考える傾向が強いことがわかった。

   日本の将来について、田中さんは悲観的な見方も持っている。10年後の日本がより利己的で、さらに自己責任の国になっていた場合、国の経済の成長が停滞し、所得が伸びなくなることで、多くの人が豊かさや満足度を享受できず、利他主義がさらに後退して、社会のためではなく自分のために、と考える不寛容が拡大する可能性がある、と指摘している。

   そうなると、自助や自己責任論とも親和的なベーシック・インカムは、日本の公助の一つの形として、短期的・中期的には、より現実的な政策だと言えるかもしれない、と結んでいる。

   ベーシック・インカムの社会実験は、フィンランド、オランダ、ドイツ、スペインの4か国ですでに行われたことも紹介している。給付を得たことによって働かなくなる、というモラル・ハザードの懸念はあまりなかったそうだ。

   生活保護や年金など現行の社会保障や財源の問題で、導入にはさまざまな壁があるだろう。だが、「日本人は助け合う」ということが幻想であることがわかった今、国が積極的に介入する必要があるかもしれない。貴重な一石を投じた本である。

「やさしくない国ニッポンの政治経済学」
田中世紀著
講談社
1100円(税込)

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