「独身女性は出世を目指さないとダメなの?」 というアラフォー女性の投稿が大炎上だ。上司に「縁の下の力持ちで働きたい」というと、「管理職を目指す気がないのか!」とハッパをかけられた。
一方、既婚女性が同じことを言うと「家庭との両立で頑張っているね」と高い評価を与える。独身だからこそ、気楽に働きたいという女性の願いは間違っているのか?
「私も同じ」という共感と、「仕事に無責任」という批判で賛否激論。専門家に聞いた。
「縁の下の力持ちで働くことにやりがいを感じる」
話題になっているのは、女性向けの意見交換サイト「ガールズちゃんねる」(12月1日付)に載った「独身女性は出世を目指さないといけないの?」というタイトルの投稿。
「独身アラフォーです。あえての独身ではなく、縁がないため独身です。今の会社は平(ひら)のままなら、まあまあ居心地はよいのですが、役職に就くと罰ゲームかと思うぐらいハードになります。
上司とキャリアビジョンの確認の際に、『今の立場でできることを頑張っていきたい。縁の下の力持ちで働くことにやりがいを感じる』と伝えると、『社歴が長いのに、そのやる気のなさは評価できない』と言われました」
というのだ。
投稿者が不満に思ったのは、既婚女性に対しては会社側の対応がまったく違うことだった。
「社歴が同じくらいで、私と同じようなビジョンを伝えた既婚女性は、『家庭との両立で頑張っている。素晴らしい』と評価されていました。結婚しているだけで、こんなにも印象が違うことに愕然としています。独身女性で出世願望がないことはダメなことですか?」
と、悩みを訴えている。
この投稿に対して、寄せられていたコメントには「私も独身、気楽に仕事をしたい」という共感の声が非常に多かった。
「私も同じ年代、スタンスの独身です。しつこく『管理職目指さないの?』『あと20年くらい働くにあたってステップアップするのもいいよ』と言われます。やる気もあるし、組織貢献する姿勢も示しているのに、なんで? と思いますよね。独身だからこそ、自分の生活のために、管理職になって神経すり減らして働くよりも、細く長く、心身を壊さないように働きたいのに。自分の適性や今後のことを真剣に考えて出した答えなのに。わかってもらえなくて残念ですよね」
「むしろ独身だからこそ、からだを壊したときに頼りにできる人もいないし、無理せずほどほどに仕事したいと私は思っている」
「私も出世を断っています。アラフォーなので、これから更年期とか考えたらストレスなく、なるべく定時で帰りたい。自分さえ養えればいいのであくせく働きたくない。なかなか周りには理解されないのですが」
「私も独身です。『自分ができる範囲でやる』の『できる範囲』は狭く設定している。だって、やればやるほど評価はされるけど仕事量も責任も増える。疲れて自分の時間を楽しめなくなる。仕事でからだを壊した人もいる。長く働くことを目標にしている身としては『できる範囲』は狭く設定しないと身が持たない」
なかには「ゆるく、長く働く」というスタンスを守るために、あえて年収が低い会社に転職した人もいる。
「10年勤めて管理職候補になりかけた大手を辞めて、中規模のところに転職しました。独身で長く勤めるといろいろ任されるし、子持ちのフォローは当たり前にさせられる。独身は可哀想な目で見られるし、面倒くさくなって辞めました。年収は約半分になり、男女差別なしの大手から男社会の昭和な会社に一から新人として指示されたことだけやっています。大手からきたので何もかも簡単。お金もないけど、ゆるく働いてストレスがありません」
「あなたにずっと居座られると会社も困ります」
一方で、投稿者に対して「仕事に対する姿勢が無責任だ」「会社があなたに期待する事情もわかる」「上司の高い評価に応えるべきでは」という批判的な意見も少なくなかった。
「それだけ期待されているということじゃないかな。子持ち女性は頑張ったところで限界がある。残業をガンガンできるわけではないし、子どもの体調不良で休まざるを得ないこともある。子持ち女性が『出世したいです!』と言ったら、それはそれで『無理でしょ?』となるよ」
「(会社としてはあなたに)その立場にずっといられても困るんじゃないかな? 新しい仕事に向き合う姿勢は、独身とかに関係なく求められる気がする」
「たぶんあなたのポジションは、給料が安い、新卒2~3年目でも勤まるのでは? 新入社員が入ってきて定年で辞める人のことを考えたら、そろそろ先にいって欲しいと思うのは当然だと思う」
また、「会社は管理職を目ざせという同じ要求を既婚女性にも求めるべきだ」「シングル女性に対する差別だ」という、「既婚VS未婚」という従来からある「対立」を強調する意見も寄せられていた。
「じつは、これは複雑な悩みです」
J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部は、今回の「独身女性は出世を目指さないといけないの?」という女性の投稿をめぐる論争について、女性の働き方に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに話を聞いた。
――この投稿と回答者たちの反響を読み、率直にどのような感想を持ちましたか?
川上敬太郎さん「投稿者さんと同じような葛藤を抱えている方は多いように感じますし、決して特別な悩みではないように見えます。しかし、内容を紐解いてみると、じつは様々な要因が絡み合った複雑な悩みなのだと思います。投稿内容の中だけでも、少なくとも以下5つの問題が含まれています。
(1)出世願望がないことの是非。
(2)『縁の下の力持ち』はやる気がないのか。
(3)社歴に対する会社側の期待とのズレ。
(4)既婚か未婚かで会社側の評価が変わる。
(5)役職者の仕事がハード過ぎる。
――確かにいろいろな問題点がありますね。まず、投稿者は会社側の『向上心を持て』『キャリアアップを考えろ』という要求に対して不満を持ち、『出世なんかしたくない。気楽に細く長く働き続けたい』と訴えていますが、川上さんが研究顧問をされている、働く女性の実態を調べる『しゅふJOB総研』で、このテーマを調査したことがありますか?
川上さん「向上心やキャリアとは必ずしも出世だけを意味するものではありませんが、女性管理職比率の低さについては課題とされてきました。就労志向の女性に対し、しゅふJOB総研で『あなたは管理職になることを希望していますか?』と聞いたことがあります。
◇ 女性の管理職比率について、女性自身はどう思っているのか?
『管理職を希望する』『条件によっては管理職を希望する』のいずれかを選んだ人の比率は36%。一方、『管理職は希望しない』と答えた人は53%と過半数でした。同じ質問を男性にも行ったところ、管理職希望の人が57%と6割近くに及んだのとは対照的です。
これまでの社会認識や家庭内での制約などが影響を与えている可能性があるものの、全体傾向としては管理職を希望する女性は少ないのが実情です。しかし、だからといって、管理職を目指さない人たちには向上心がないと決めつけるのもヘンだと思います」
――投稿者は、「役職に就くと罰ゲームかと思うほど、仕事がハードになる」と述べていますね。
川上さん「先ほど挙げた5つのうち(1)の問題(=出世願望がないことの是非)に関連しますが、管理職は職業キャリアにおけるステップアップの一つに過ぎないと思います。管理職にならずとも、専門性を高めたり、ミスなく仕事をこなすことを追求したりと、目指すステップアップの道は人それぞれでよいのではないでしょうか。
また、(5)の問題(=役職者の仕事がハード過ぎる)として挙げたように、目前の管理職の仕事がキツ過ぎては、自分も目指そうという気持ちにならないはずです。会社側も管理職を目指す人を増やしたいのであれば、日々の職場の中で、管理職が魅力的な存在として映っているのかを確認する必要があります。
――なるほど。キャリアアップの道は、管理職だけでなく専門家の道もあるということですね。ところで、投稿者の「気楽に働きたい」という願いには、多くのシングル女性が共感しています。
川上さん「女性に限らず、仕事に対する考え方や向き合い方は人それぞれです。そこに正解も不正解もなく、それぞれの考え方は尊重されてよいはずです。これは(2)の問題(=『縁の下の力持ち』はやる気がないのか)に関連すると思います。
仕事には貴賤などありません。あらゆる仕事は誰かの役に立っており、貴い存在です。『気楽に働きたい』という願いが、仕事はいい加減でもよいという意味ならば、やる気がないと見なされても仕方ありません。しかし、ガツガツと出世を目指すのではなく、与えられた職務はしっかりとこなすので高い給与がなくても相応の待遇で構わない、という意味であれば、決してやる気がないわけではないはずです。そんな選択肢も尊重されてよいのではないでしょうか」
(福田和郎)