2024年 4月 18日 (木)

医療業界のDX化で見えた「これからの薬局」の姿 アフターコロナ時代をイントロン 増子治樹社長が語る

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   「医薬分業」の進展で、街には医師から処方箋を受け取り、院外の薬局で調剤を受ける患者が増えてきた。日本薬剤師会によると、医薬分業率は76.9%(2020年度)に達している。そんな調剤薬局チェーンの一つ、イントロン株式会社(埼玉県川越市)は1993年の創業以来、「選ばれる薬局」をモットーに医薬分業時代を邁進してきた。

   加速度が増している超高齢化社会、またアフターコロナ時代に向けて、今後は医療や介護の需要の増加や予防医療の充実がますます重要になってくる。薬剤師が正しい知識を地域住民に提供して、病気の予防や再発を防ぐための生活指導を行いながら、「セルフメディケーション」の拠点として、地域に密着していくことが求められているのだ。

   そんな「新しい薬局」の姿を、イントロンの増子治樹社長に聞いた。

  • 「セルフメディケーションの拠点として地域密着を図る」と話すイントロンの増子治樹社長
    「セルフメディケーションの拠点として地域密着を図る」と話すイントロンの増子治樹社長
  • 「セルフメディケーションの拠点として地域密着を図る」と話すイントロンの増子治樹社長

調剤薬局の店舗数はコンビニより多い!

――「イントロン」の2代目社長です。まずは、働くことになったきっかけを教えてください。

増子治樹社長「当時はまったく違う業種の会社に就職予定だったのですが、当社の創業者である妻の父が、ただ本当にひと言、『結婚させないぞ』って。(笑)ビジネス的な条件などまったくなく、それで当社に一般社員と同様に入社したのです。創業者は、MR(Medical Representatives=医療情報担当者)のバリバリの営業出身でしたので、有無を言わせない強さがありましたね。ただ、私の父もMRでしたので、薬局業界に無縁だったわけではなく、とても身近な業界ではありました」

――実際に薬局業界に飛び込んでみて、いかがでしょうか。

増子社長「薬局業界は安定した業界というイメージを持っていました。規制業種であることで、景気の影響が少ないこともありますが、何より『規制があることによる伸びしろ』が多いのでは、と感じていました。実際、規制によって、できることが制限されていますが、時代の変化に伴い法律が改正され、規制が緩和されるにつれて、できる範囲が広がって今日に至っています。
調剤薬局の数はドラッグストアも含めると、約6万件でコンビニエンスストアの店舗数より多くあります。しかし、ほとんどが中小店舗で、上位10社のシェアでも20%に満たない状況です。それは支配的な強者のいない業界といえます。現在は大手薬局チェーンによるM&Aが積極的に行われていますが、現在の勢力図はまだしばらくは続くと思います」

――調剤薬局の課題はどこにあるのでしょうか。

増子社長「みなさんは薬をもらうのに『なぜ薬局に行かなければならないのか』『薬局に行く時間がもったいない』と感じることはありませんか? 処方された薬をもらえるのは薬局だけなので、『仕方がない時間だと割り切っている』のではないのでしょうか。
正直、私も薬局に行くのは面倒だと感じます。さらに今後、規制緩和で薬の受け渡しがインターネットでも可能になれば、大手通販会社も参入してくるでしょう。人の健康にかかわることですからクリアしなければならない問題はありますが、ネット供給が可能になると従来の調剤薬局では太刀打ちできなくなるのは必至です。
先日、ジェネリック薬で亡くなった事故がありました。直接の要因とは違いますが、やはり、飲んではいけない薬の組み合わせはあるのです。薬剤師はよく理解していますが、そのことを、薬を服用している方々にどう伝えていけばよいのか――。そういった調剤薬局の存在意義を継承しつつ、『いかに患者さまが便利に利用できるか』というテーマを突き付けられています」

薬局は「モノ」から「人」へ

――これからの薬局の役割を教えてください。

増子社長「国・厚生労働省は2015年に『患者のための薬局ビジョン』を制定しています。薬局は『モノからヒトへ』、人をケアすることを目指して、コミュニケーションを通じて健康管理を促すということを、国は薬局に期待しています。さらに薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律。旧薬事法)も2019年に改正され、薬剤師は薬を渡すだけでなく、その後の体調変化の有無や飲み忘れの防止等の服薬中のフォローをする内容が盛り込まれました。
ただ現状では、薬局でそれが実施できているかというと、できていません。なぜなら、従来、受身で待っているだけだった薬局が、急に能動的に変わろうとしても動けないのが現実です。
そこで私たちは、国による『電子処方箋管理サービス』の運用開始を視野に入れて、患者さまのフォローを進めるシステムを開発し、患者さまが薬をきちんと飲めているか、体調変化の有無、薬がなくなる前の受診勧奨などを定期的に配信するサービスを始めました。これにより患者さまへのケアをしやすくしたのです」
「患者さまが薬をきちんと飲めているか」イントロンは、定期的に情報を配信するサービスを開始した(写真は、増子社長)
「患者さまが薬をきちんと飲めているか」イントロンは、定期的に情報を配信するサービスを開始した(写真は、増子社長)

――国による「電子処方箋管理サービス」とは、どのようなものですか。

増子社長「いま国では、医療機関、薬局による処方箋情報を管理する『電子処方箋管理サービス』が進められています。国では国民一人ひとりの処方箋情報や特定健診情報などをマイナポータルを通じて、セルフメディケーションのための情報として利用者に提供していきます。この『電子処方箋管理サービス』では、直近3年分のデータを引き出すことができ、3年分の飲んでいた薬と健診データが医師にも調剤薬局にも行くようになるので、薬のリスクを軽減させることにつながります。
実際、医療現場では、医師は医師自身の専門分野の薬は知っていますが、専門以外の薬については詳しく知らないケースもあります。しかし、患者さまが複数の薬剤を服用している場合、アドヒアランス(治療や服薬に対して患者が積極的に関わり、その決定に沿った治療を受けること)の把握やその薬の併用リスクの判断が困難になることも考えられます。そこで、医師、薬局が連携することでそのようなリスクを回避することができるようになります」

――薬剤師や調剤事務の評価制度も変わりました。

増子社長「調剤薬局は成績評価の付け方が難しい業界ですが、仕事の中身が変われば仕事の評価制度も変わります。国が求めるアクションを起こせば、それは点数につながりますので、私の会社では、国が期待する患者さまへのケアに向けて、業務のタスクシフトを進めており、調剤事務も、処方箋を受け取って入力するだけでなく、薬剤師の指示に従い調剤業務を手伝います。それにより、薬剤師の患者さまとのコミュニケーションの時間をつくる。薬剤師が何回患者さまとコミュニケーションを取ったのか、調剤事務が何回、調剤室を手伝ったのか、などの定量で評価できる人事評価制度にしました。そのようなマインドで動ける調剤薬局になることが重要になります」

これからの薬剤師に必要なのはコミュニケーション力

――これからの調剤薬局に求められる人材像とは、どのようなものでしょうか。

増子社長「調剤薬局に求められる人材像も変わります。これからは、新しいシステムなどもどんどん使用していかないと大きく変化した薬剤師及び薬局を取り巻く環境に対応できません。そのためにも、ITリテラシーの高い人、新しいものへの抵抗感がない人、行動できる人が求められます。そして、これからの薬剤師はなによりもコミュニケーション能力が求められるのではないでしょうか。経営ビジョンにある『選ばれる薬局』も、基本的には患者さま、地域、薬剤師、社員、医師、取引業者のステークホルダーとの立ち位置を考えた『人との繋がり』だと思っています。ビジネスは外向けのことですが、やはり社内の人から始まって、外部の周辺の人へ繋がっていく。『人の繋がりのための環境づくり』。会社が大事にしなければいけないのは、そこだけじゃないかな。やはり、人材が一番の大きなカギですね」
増子社長は「調剤薬局に求められる人材像は変わっていきます」と話す。
増子社長は「調剤薬局に求められる人材像は変わっていきます」と話す。

――イントロンの強みは、どこにありますか。

増子社長「国の通達や改正薬機法への対応は業界においても、上場会社の決算報告を見ると、トピックスでしっかり報告されています。その中で、私たちの一番いいところは、店舗数が40店舗ほどですので、教育と会社の考えがスムーズに現場に伝わるところだと思います。フットワークの軽さは、スピードにつながります。大手薬局チェーンでは、意思の伝達に時間がかかったり、M&Aなどにより異なる企業文化が加わったりすることで、会社の意思統一に困難さが増してしまうことが考えられます。業界の潮流や国の動向や情報を、協会などを通じて入手しながら、何をすべきかを見極めていきます。
調剤薬局に求められているものは、どんどん増えていきます。業務量も加速的に上がっていくはずです。その中で、システムなどをいかに使ってこなしていくかが大事になると思います。近い将来、調剤薬局はシステムで繋がって、それを利用したセルフメディケーションや調剤薬局のオンライン化が加速して、どんどん便利になります。その一方、高齢者に対しては、個人情報の保護やコロナ禍の感染の危険がないような動線の確保、コミュニケーションの場の創出などの地域密着が進んでいくと考えています。これらを全店舗で統一したシステムで、同じ考えで運営していくのです。
どの店舗でも、同じ品質、同じサービスを提供していくことが、会社の成長につながっていくと思います」

(聞き手 牛田肇)

プロフィール
増子 治樹(ますこ・はるき)
イントロン株式会社 代表取締役社長
1979年生まれ。大学卒業後2003年にイントロン入社。2019年から現職。IT事業本部長を兼務し、社内のデジタルトランスフォーメーション(DX)化を先頭に立ち推進。趣味はキャンプ。

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