2022年 1月 28日 (金)

今冬、もし大寒波がやってきたら...... 身の毛が凍る電力ひっ迫!? なぜ、電力不足が心配されるのか IEEIの竹内純子さんに聞く

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   今冬、電力不足が再び深刻化する懸念が高まっている。

   東日本大震災をきっかけとした東京電力・福島第一原子力発電所の事故から10年。震災後安全規制が見直され、新規制基準への適合審査に時間がかかっていることから全国のほとんどの原発は停止しており、再生可能エネルギーは急増しているとはいえ、自然頼みであるし、主力というには程遠い。現在、日本の電力は火力発電で支えられている。しかし、いま目の前にある「電力危機」の最大の要因は、その火力発電を動かす液化天然ガス(LNG)の価格高騰と調達不安である。

   中国をはじめとする世界的なLNG需要の高まりと燃料調達のサプライチェーンの脆弱化、LNGがマイナス162度の超低温輸送と貯蔵を要するので、長期保存に向かないことなどがある。

   期待された再生可能エネルギー、なかでも太陽光発電はメガソーラーがあちらこちらに設置されたものの、思っていたようには機能していない。このような時に寒波が押し寄せ、電力需要が急増。さらに積雪による日照不足で太陽光発電が「戦力外」になったとしたら。風力は、水力は......。

   いったい日本の電力はどうして、こうも脆弱になったのか――。意外なことに、自由化と再生可能エネルギー大量導入の影響もあると聞く。一般的にはわかりづらい電力問題についてNPO法人 国際環境経済研究所(IEEI)理事の竹内純子(たけうち・すみこ)さんに聞いた。

  • IEEI理事、東北大学特任教授を務めつつ、スタートアップとの協業でエネルギー産業の変革に取り組むU3innovations合同会社の共同代表でもある竹内純子さん
    IEEI理事、東北大学特任教授を務めつつ、スタートアップとの協業でエネルギー産業の変革に取り組むU3innovations合同会社の共同代表でもある竹内純子さん
  • IEEI理事、東北大学特任教授を務めつつ、スタートアップとの協業でエネルギー産業の変革に取り組むU3innovations合同会社の共同代表でもある竹内純子さん

電力不足の理由

   ――2020年12月から21年1月にかけても電力不足が懸念されました。そもそも、なぜ電力不足が起こるのでしょうか。

竹内 純子さん「原因は複合的なところがありますし、そもそも『電気が足りない』という状況には二つの側面があることを認識しなければなりません。一つはピークの時間帯に発電設備が足りなくなるということです。みんなが一斉に電気を使う時間に電気が足りなくなるという話で、昔夏になると電力会社が節電を呼び掛けるCMをやっていましたよね。平日で工場も稼働しており、暑いのでみんなが一斉にエアコンを使い、甲子園の決勝戦を見て...... といったシチュエーションが重なると、発電設備をフル稼働させても賄いきれないという状況が生じます。昔は夏にこうした状況が発生しがちでしたが、今は太陽光発電が発電をやめてしまい、照明の点灯や特に冬の暖房需要が急速に増える夕方の時間帯がかなり厳しい状況になっています。
もう一つは、燃料の価格高騰や調達不安です。昨冬電力不足や価格高騰が発生した原因は、天然ガス(LNG)の調達の問題です。発電所に発電能力があったとしても、その燃料が十分供給できなければ、発電できません。現在、世界的に天然ガスの調達合戦が激化しています。その理由はいくつかありますが、まず、2015年頃には原油や天然ガスの価格が低下して油田などの開発が減りました。加えてここ2年ほどはコロナ禍で経済活動がストップした状況でしたので、エネルギーが売れなかったわけです。飛行機やクルマなど、移動も減少し増しh多よね。なのでますます開発は行われてきませんでした。
さらに気候変動問題で、CO2を出す石油や天然ガス、石炭などは『今世紀後半にはほぼ使わないということにしよう』と言っているわけですから、開発してもあと30年もたたないうちに売ることができないという状況になりかねない。これでは誰も油田の開発なんてしませんよね。油田の開発などはCO2を出すことになる『悪いこと』としているのですから当然です。ただエネルギーの安定供給は、今を生きる人たちにとっては死活問題ですから、徐々にCO2を出さない社会に移行していくことが必要です。
こうした複合的な要因によって供給量に不安がある一方、コロナ禍からの急速な経済回復や、CO2排出量の多い石炭から天然ガスに切り替える動きが世界的に起きて、天然ガスの需要は急増しました。その上今年は、欧州で風況が良くなかったために風力発電の発電が減ってしまいそれを天然ガス火力発電で補ったり、渇水で水力発電の発電量が減ったのを同様に天然ガス火力発電で補うということになったりしたので、ますます天然ガスの需要が増えてしまったのです。わが国でもいま最大の電源は天然ガス火力発電ですので、燃料不足、すなわち『弾切れ』の発生が懸念されているわけです。

   ――その「弾」が石油や天然ガスでなく、再生可能エネルギーであれば、電力不足は防ぐことができるのでしょうか。

竹内さん「そもそも再生可能エネルギーは燃料要らずですので、弾(燃料)切れという概念はありません。代表的な太陽光発電は、日本で今、相当増えています。原発事故以降、日本はみなさんの電気代に乗せて補助金を集めて、その補助金で太陽光発電を増やしてきました。その補助制度があまりに雑だったので、みなさんの負担が年間約2.5兆円にもなっており、これはこれで問題ですが、太陽光発電は増えてはいます。ただ、太陽光発電だけで電力を安定供給することはできません。夜になったり曇ったり、雪がパネルの上に降り積もってしまえば発電できません。『必要な時に必要な量を発電する能力』が、電気という商品を安定供給するためにはどうしても必要なのです。
太陽光発電が増えてきて、日常の発電システムのなかで太陽光発電を優先的に活用すれば、火力発電所の発電能力はこれまでほど必要ではなくなります。太陽光発電が働いている間は、火力発電は『寝ている』ことを余儀なくされるので、そうした働きが悪い火力発電所を持っていることに、自由化された競争市場で事業者は耐えきれません。社会にとっては『いざというとき(太陽光発電が発電しないようなとき)に備えて必要な設備』であったとしても、競争に委ねれば廃止されてしまう懸念があります。コスト競争力に劣る事業者は潰れて市場からでていきなさい、というのが自由化です。『いざという時に必要な設備』すなわち『平常時は無駄な設備』を持っている事業者が負けることになるわけです。
再生可能エネルギーを政策的に保護して大量導入しつつ、自由化をするというのは慎重に制度設計をしなければ安定供給が脅かされる事態になることは、欧州各国の経験からもわかってはいたのですが、日本は欧州のした失敗はすべて真似しないと気が済まないのでしょうね。同じことをやったわけです。今までは太陽光発電は電力全体の1%、2%とかを賄う電力でしたので、それが仮にゼロになったとしても大きな影響はなかったわけです。あるいみ「オミソ」だった時には太陽光が発電しないときにほかの電源がカバーすることも容易にできましたが、これが急増したので、容易にはカバーできなくなりました」

再生可能エネルギーは必要な時に必要な量を発電することができない

   ――日本の電力が、すべて再生可能エネルギーに置き換わることは難しいのですね。

竹内さん「電気は瞬間瞬間で、作る量と使う量をピッタリあわせる、『同時同量』を保たないと周波数が乱れて最悪の場合大停電に至ることもあります。また、『今使いたい』のであって『あと3時間後に太陽が出てくるのでその時供給します』では意味がありません。蓄電池がものすごく安価になって大量に普及するなど、大量に電気を貯める技術ができればよいのですが、そうしたことにでもならない限り、太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーだけでやるというのは無理です。しばしば、太陽光や風力の発電能力を「火力発電所の何基分」とか「原子力発電所何基分」などと表現しますが、それは太陽光パネルが100%その能力を発揮してくれたときの発電量です。『原発〇基分の太陽光発電』は夜になれば原発ゼロ基分です。再生可能エネルギーだけで『同時同量』を満たすのは困難で、基本的には誰か(火力発電やバッテリーなどの技術)による支えがないと立っていられません」
新たな電力として期待されている太陽光発電だが......
新たな電力として期待されている太陽光発電だが......

   ―― 再生可能エネルギーも、火力発電も、一長一短あるようです。

竹内さん「どんなエネルギー源にもメリットもあればデメリットもあります。だからエネルギーは難しいんです。再生可能エネルギーは、CO2(二酸化炭素)を出さず、国産のエネルギーであるところがメリットといえますが(太陽光パネルなどはほぼ全て海外の製品なので、その点では国産ではありませんが日本に吹く風、日本に照る太陽で発電する)、まだコストが高いこと、電力の供給は人間がコントロールすることができないという欠点があります。一方、火力発電は発電をコントロールして安定的な電力供給に貢献しますが、CO2の排出量や燃料を輸入してこなければならないデメリットがあります。原子力はCO2を出さず、準国産エネルギーです(ウラン燃料は輸入ですが、燃料棒を入れれば数年間発電し続けられるので、オイルショックのような事態にも耐えられる)。安定的に供給すればコストも安いということで期待されたわけですが、事故のリスクや廃棄物の課題があります。
みんなそれぞれメリットもあればデメリットもあるので、うまくバランスさせて使っていくことが必要なんです」

   ――政府は2050年に向けて「CO2排出量を実質ゼロにする」目標を掲げました。しかし現実に、日本のエネルギー政策は大丈夫なのでしょうか?

竹内さん「そもそも、日本の使っているエネルギー全体の約7割は電気ではありません。たとえばクルマのガソリンや工場のボイラーを動かす重油など、化石燃料を燃焼させてエネルギーを得るというのが7割なんです。ここから出るCO2を減らそうと思ったらやり方は一つしかありません。高効率化です。たとえばクルマの燃費が倍になれば、同じ距離を走るために必要なガソリンは半分になるわけなので、出るCO2も半分になります。でも高効率化技術がそれほど飛躍的に伸びるとは考え難いことや、どこまで高効率化させてもゼロにはならないので、違うやり方が必要です。それは何かと言えば、いまガソリンで動いているものを電気で動くように変える、典型的なのはガソリン車を電気自動車に乗り換えるということです。
そのうえで、電気の作り方を、CO2を出さない再生可能エネルギーか、原子力エネルギーに変えていくことが必要です。とはいえ、急に再生可能エネルギーと原子力だけという訳には行きませんので、火力発電の低炭素化も進めつつやっていくことになるわけです。
ただ、わが国では低炭素電源の柱の一つである原子力発電をどうするか、方針がしっかりとしていません。脱原発と脱炭素の二兎を追うことは現実的には相当の困難ですので、今のままでは、政府が掲げる2050年のCO2排出量の実質ゼロは非常に困難だといえるでしょう。
再生可能エネルギーとバッテリーなどの蓄電技術を大量に普及させるために、どこまで電気代の上昇を受け入れられるかなど、国民全体で腹をくくる必要があります。ただ、電気は贅沢品ではありません。値上がりは生活弱者にとってより厳しい。企業で言えば海外に逃げられない中小企業への痛手が大きい。政策を持続的にしていくことが必要です」

「2050年 CO2ゼロ」の達成は相当の覚悟が必要

   ――2021年11月14日(日本時間)、気候変動対策を協議する国連気候変動枠組み条約、第26回締約国会議(COP26)で採択された『グラスゴー気候協定』には、世界の平均気温の上昇を産業革命前から1.5度に抑える努力を追求するとされました。日本も「2050年 CO2実質ゼロ」を掲げていますが、その達成は可能ですか?

竹内さん「2050年CO2排出を実質ゼロにする目標を掲げた菅前首相は、環境と経済の両立という、『発想の転換が必要』であると仰っていました。環境と経済の両立を目指す必要があることは誰も意義が無いのですが、それは発想の転換だけでできるものではありません。現実に、再生可能エネルギーは補助制度を必要としますし、ガソリン車から電気自動車の買い替えもそうです。負担もあることを政府がちゃんと説明して国民の覚悟を促し、長期的な視点でイノベーションを支援し、社会変革を進めていくことが必要です。産業革命以上の社会変革に対して、『挑戦し続けていこう』という覚悟が必要だと思います。今までエネルギーを燃やして経済成長させてきたのを、一気に違う方向に向かわせるのですから、その『痛み』は当然あります。
しかし、社会変革はリスクだけでなくチャンスでもあります。今までなかったようなビジネスが成立したり、新しい技術が増えたりする。環境問題と経済成長の両立を目指していき、そしてチャンスをものにしていくことが求められているのです」

   ――「変わっていかなければいけない時代」ですか?

竹内さん「持続可能な社会に変わっていかねばなりません。今のような火力発電に7~8割も依存するのは、やはり持続的ではありません。気候変動問題は深刻ですし、化石燃料といわれる石油や石炭、天然ガスは燃やせば、いずれ枯渇します。エネルギー消費の少ない、そして、エネルギーを持続可能な方法で作る社会に転換していかねばなりませんが、その社会にどのように移行していくのか――。それは数十年はかかることも覚悟せねばなりません。『2050年』まで、残された時間は30年弱。エネルギーインフラを総とっかえする時間としては十分ではありません。まさにいま動き出す必要があります。数十年単位での移行期間に、リスクの総和を最小化しながら、どのように移行を進めていくかが重要かと思います」

(聞き手 牛田 肇)


プロフィール
竹内 純子(たけうち・すみこ)
NPO法人国際環境経済研究所理事
U3InnovationsLLC 共同創業者・代表取締役
東北大学特任教授

専門はエネルギー・温暖化政策。慶応義塾大学法学部法律学科卒業後、東京電力株式会社入社。主に環境部門を担務。2011年の福島原子力発電所事故を契機に独立の研究者となり、国連気候変動枠組条約交渉に10年以上参加するなど、エネルギー・温暖化政策の提言に取り組む。
内閣府規制改革推進会議やなど多数の政府委員や、東北大学特任教授を務める。2017年9月に「エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ」(日本経済新聞出版社、編著)を上梓したのを契機に、多くのスタートアップと協業してエネルギー産業の変革に取り組むU3innovations合同会社を創設。政策とビジネス両面からエネルギー変革に取り組んでいる。
主な著書に、「みんなの自然をみんなで守る20のヒント」(山と溪谷社)や「誤解だらけの電力問題」(ウエッジ)、「原発は『安全』か たった一人の福島事故報告書」(小学館)、「エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ」(日本経済新聞出版)などがある。

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