さまざまな日用品を本体価格100円で販売する「100円ショップ」に対して、流通大手が触手を伸ばしている。イオンは業界3位の「キャンドゥ」を子会社化。セブン‐イレブンの一部店舗では「ダイソー」の商品を並べたコーナーを設けている。
商品開発力が高いはずの流通大手が100円ショップに頼るのはなぜか――。
イオンがキャンドゥを買収
イオンは2021年10月以降に実施したキャンドゥ株への友好的な株式公開買い付け(TOB)に加え、22年1月に創業家の資産管理会社を買収することで、キャンドゥ株の約51%を取得し、連結子会社として傘下に収める。総投資額は約210億円。キャンドゥの東証1部上場は維持し、創業家の城戸一弥社長も続投する。
キャンドゥは、1993年に城戸一弥社長の父親である博司氏が100円ショップのフランチャイズ店への卸売りと直営店の運営を担う会社として埼玉県戸田市に設立。1997年に1号店を埼玉県蕨市にオープンさせた。
2000年には本社を東京都内に移し、その後は同業の買収などにより、経営規模を拡大していった。社長だった博司氏が2011年に亡くなると、一弥氏が後を引き継いだ。
イオンがキャンドゥの買収に踏み切った背景には、やはり新型コロナウイルスの感染拡大に伴う消費行動の変化がある。
感染の可能性をできるだけ抑制するため、消費者はなるべく1か所で買い物を済ませようとする傾向が強まっており、小売業は既存店舗の品ぞろえを充実する方向に動いている。
日常生活で必要な商品を扱っている100円ショップは、コロナ禍の中でも消費者から支持されており、スーパーマーケットやドラッグストア、ホームセンターへの出店が相次いでいる。
このように、さまざまな業態に適応できる特徴は、まさにイオンがグループで展開している多様な小売業態との親和性が非常に高い。100円ショップは消費者ニーズをタイムリーに捉える商品開発力やマーケティング力を培っており、イオンに欠ける部分だった。
流通大手とのタッグで新たな販売拠点を確保
キャンドゥにとっても今回の買収は「渡りに船」だった側面もある。100円ショップ業界は、「ダイソー」を展開する大創産業が5000億円を超える売上高で首位に君臨し、2位のセリアも2000億円をたたき出す。続く3位のキャンドゥは700億円程度とケタが違い、上位との逆転は難しい状況だ。
加えて、足元の原油価格の高騰でプラスチック製品などの仕入れ価格が上昇すれば、経営にボディブローのように効いてくる。
イオンのグループに入れば、全国に新たな出店場所を確保でき、イオンの資材調達力を活用することも可能だ。筆頭株主の城戸社長ら創業家は持ち株をイオンが買い取ってくれたことでキャッシュも手にできた。
コンビニ最大手のセブン‐イレブンの一部店舗でダイソーの商品を取り扱うようになったのも、100円ショップの品ぞろえを欲したセブン‐イレブンと、新たな商品販売先を求めたダイソーの思惑が合致した結果だと言えよう。
競争が激しい100円ショップ各社は、本体価格が200円、300円、500円などの商品も開発して、小売業の中で存在感を高めている。流通大手とタッグを組むことで、消費者には、日常生活の中で100円ショップに接する機会が一段と増えそうだ。(ジャーナリスト 済田経夫)