原材料費高騰で価格転嫁できず...「泣き寝入り」企業多すぎ! 3%賃上げなんて無理筋では?

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   ガソリン、灯油、小麦、木材、鉄鋼......と世界的に原材料の価格上昇が広がっている。企業の中には製品価格を寝上げするところも増えているが、値上げできずに我慢を強いられている企業も少なくない。

   帝国データバンクが2022年1月26日に発表した「企業の価格転嫁の動向調査」で、原材料価格の高騰に苦しむ企業の実態が明らかになった。

   企業の苦渋の背景を調査担当者に聞いた。

  • どんどんモノの値段が上がっている(写真はイメージ)
    どんどんモノの値段が上がっている(写真はイメージ)
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リーマン・ショック時並みの原材料費の高騰

   調査結果によると、仕入単価が前年同月と比べて上昇した企業が全体の64.2%に達した。これは、リーマン・ショックがあった2008年9月(65.5%)以来となる水準だ=図表1参照

(図表1)仕入れ単価が上昇した企業の割合(帝国データバンク作成)
(図表1)仕入れ単価が上昇した企業の割合(帝国データバンク作成)

   業種別にみると、鉄鋼や石油卸売が含まれる「鉄鋼・非鉄・鉱業製品卸売」が最も高く、92.7%で仕入単価が上昇した。さらに「化学品製造」(83.3%)や「飲食店」(83.1%)、「機械製造」(82.0%)、「電気機械製造」(81.4%)、「建材・家具、窯業・土石製品製造」(80.3%)といった業種でも、8割超の企業で仕入単価が上昇している=図表2参照

(図表2)業種別の仕入れ単価上昇と、製品価格に反映できた割合(帝国データバンク作成)
(図表2)業種別の仕入れ単価上昇と、製品価格に反映できた割合(帝国データバンク作成)

   また、仕入単価が上昇した企業のうち、上昇分を販売単価に反映できたかどうかを見ると=図表3参照、販売単価も上昇したとする企業は43.8%となった。一方で、販売単価が変わらない(47.9%)、低下した(6.3%)とする企業は合わせて54.2%となり、半数を超える企業では価格転嫁できていない状況にある。「企業努力」という名前の元で、いわば「泣き寝入り」をしている企業が多いのだ。

(図表3)仕入単価が上昇した企業の販売単価(帝国データバンク作成)
(図表3)仕入単価が上昇した企業の販売単価(帝国データバンク作成)

   「しっかり元を取っているか」「泣き寝入り」をしているかを業種別にみると、バラツキがあることがわかる=再び、図表2参照

   それによると、「鉄鋼・非鉄・鉱業製品卸売」(87.2%)、「専門店小売」(85.4%)、「再生資源卸売」(83.3%)では、8割以上が販売単価も上昇している。また、「建材・家具、窯業・土石製品製造」(52.7%)や「化学品製造」(51.1%)も半数を上回った。

   一方、「出版・印刷」(10.9%)、「運輸・倉庫」(19.2%)、「農林水産」(29.3%)「飲食店」(28.6%)、「農林水産」(29.3%)などでは、販売単価が上昇した割合は3割以下にとどまった。これらの業種では「泣き寝入り」を強いられる傾向にあった。

「泣き寝入り」建設、農林水産、飲食店の悲痛な声

   それぞれの企業の声を紹介しよう。まず、「元を取った」企業の声は――。

「品薄な商品の値上げが浸透してきている」(鉄鋼卸売)
「ウッドショックと称される原木価格の高騰によるコスト増は否めない。しかし、製品の引合いは好調で、製品単価の引き上げにより収益は確保できている」(合板製造)
「原材料価格の上昇は痛手も、これを理由とした製品価格の値上げが比較的受け入れられている。また需要も堅調に推移し、顧客の買い控えなどは起きていない」(石油化学系基礎製品製造)

   一方、価格転嫁ができず「泣き寝入り」した企業からは悲痛な声が多く聞かれた。帝国データバンクに詳細を求めたところ、以下のような声も届いていたという。詳しく見ていこう。

「仕入先の中国が天候不順により、関係作物の不作で原料が高騰。また、コンテナ不足などによる海上運賃高騰、輸入仕入取引上で円安傾向にあり仕入高が昨年より10%アップも。しかし販売価格に転嫁できず、業績悪化に繋がっている」(食料品卸売)
「燃料の高騰を受けて、また時間外労働の罰則付き上限規制施行に向けて労働環境整備のため価格転嫁(運賃の改定)を進めなければならないが、コロナの影響や原材料高の状況下、なかなか荷主企業に理解を得られない」(運輸)
「コンテナの運賃は高いまま。本船が遅れたまま。船会社だけが儲けており、荷主は運賃の高騰分を転嫁できず。荷物は若干動き出したが...」(倉庫)
「半導体不足、東南アジアのロックダウンに伴う部品入荷の遅延に加え、材料費高騰、燃料費高騰、尿素・油脂類の入荷未定などにより、予定が立ちません」(化学)
「飼料価格が高騰しているが、鳥インフルエンザ後の生産回復とコロナ禍の需要減により、コストに見合わない相場となっている」(農林水産)
「遊ばない程度の仕事はこなしているが、年度末に向けて、受注物件が少ない状況。当社と協力関係業者も同じ状況。資材の高騰、オミクロンの今後の影響による、経済の循環が悪い状態と耐えている」(建設)
「建築材料(木材)の仕入れに関してウッドショックの影響をダイレクトに受けており、またコロナの影響で海外製品が品薄なため工期終了までに納品できない。材料高騰を顧客へ反映できないため、大幅な利益の減少になっている」(建設)
「大手の過当競争で、販売単価が原料資材高騰の中でも上がらず、むしろ低下している。量販店スーパーの思うつぼにはまり、抜け出せない状況が続いている」(飲食料品卸売)

   このように、苦境を訴える声が相次いでいるのだ。

賃上げは仕入れ価格高騰を製品価格に反映できるかに...

   J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部では、調査をまとめた帝国データバンク情報統括部の杉原翔太さんに話を聞いた。

――原材料費の仕入れ単価が上がった一番大きな原因は、やはりガソリンなどの石油価格の高騰ですか。

杉原翔太さん「それもありますが、半導体不足の問題や、新型コロナの感染拡大で2020年後半から、世界的にコンテナ不足になって原材料輸入が滞っていることが大きいです。昨年(2021年)後半には解消されるという話でしたが、オミクロン株の急拡大で港湾労働者の人出不足となり、いまだに米国の港湾では沖合に荷物を待つ船が並んでいる状態です。
   木材が入ってこない『ウッドショック』も深刻です。コンテナ不足に加えて米国の住宅需要が伸びたため、カナダ産の木材が米国に集中して日本に入ってこなくなり、木材価格が高騰して建材・家具業界に大きな影響を与えています。最近は、H形鋼、厚鋼板といった鉄の鋼材が値上がりする『アイアン・ショック』という言葉も生まれています。こちらは、中国の需要拡大が原因と言われます」
コンテナ不足が響いている
コンテナ不足が響いている

――日本を素通りして、米国や中国に原材料が行ってしまうわけですか。

杉原さん「消費が大きい国にモノが流れるのが原則ですから、仕方ありません。米国でクリスマス商戦が盛んな時期は、中国からコンテナでモノが大量に米国に運ばれて、日本が品不足になりました」

――しかし、業種別に仕入れ単価に反映できたところと、泣き寝入りしたところのバラツキが大きいですね。「アイアン・ショック」の中でも、「鉄鋼・非鉄・鉱業製品卸」は87%が販売価格に上乗せしてしますね。一方、飲食店や出版・印刷は我慢を強いられています。これはなぜですか。

杉原さん「鉄鋼関係は、いわば『川上』産業。鉄がなければ自動車も作れませんから、強い立場です。一方、飲食店はコロナ禍では営業時間短縮を強いられるうえ、競争も激しく弱い立場です。運輸・倉庫には観光旅行業者も含まれており、GoToトラベル再開もできなくなり、苦しい状況です。
   出版・印刷にはイベント関係のチラシや広告業者が多く、コロナの影響を強く受けています。農林水産業は、牛乳の過剰生産問題のような供給過多と、昨年秋からの天候不順による野菜の高騰と、ダブルパンチの状態が響いています」

――消費者庁の今月の調査では、生活必需品の物価が軒並み上がっています。

杉原さん「製品の価格に反映できるところはいいですが、多くの企業が価格に転嫁できずに苦しんでいます。政府は3%の賃上げを企業に求めていますが、個々の企業にとって賃上げできるかどうかは、仕入れ価格の高騰を製品価格に反映できるかどうかにかかっています」

   調査は2021年12月16日~2022年1月5日、全国2万3826社にアンケートを行い、1万769社(45.2%)から回答を得た。

(福田和郎)

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