2024年 4月 19日 (金)

岐路に立たされる「総合小売り」の看板! セブン&アイHDが百貨店部門のそごう・西武を売却へ

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   大手小売りグループのセブン&アイ・ホールディングス(HD)が、傘下の百貨店を運営するそごう・西武の売却に動き始めた。

   「売却検討」と報じられた2022年2月1日、「あらゆる可能性を排除せずに検討を行っている」と発表した。関係者によると、2月中にも1次入札をする予定という。

   2006年にそごう・西武を傘下に収め、スーパーやコンビニにとどまらない「総合小売り」を目指してきた経営戦略は転機を迎える。

  • 百貨店、インバウンド消費が消えて……(写真はイメージ)
    百貨店、インバウンド消費が消えて……(写真はイメージ)
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そごう・西武「地域1番店」になれなかった悲哀

   一般に業態を超えた経営統合が目指すのは「シナジー効果」。つまり、相互に補完し合い、相乗効果を生むことだ。セブン&アイHDがそうごう・西武を手放すのは、シナジーを生めなかったということに尽きる。

   セブン&アイHDは、ミレニアムリテイリング(現そごう・西武)を子会社化した2006年当時、伸び盛りのコンビニ「セブン―イレブン」とスーパー「イトーヨーカドー」に百貨店を加え、商品の共通化などによる相乗効果を狙った。

   その前提は、社会の階層化がはっきりして、階層により利用する業態が固定化している米国と比べ、日本は各顧客が時と場合によって百貨店から専門店、スーパー、コンビニなどを使い分けるという分析だった。そうであれば、各業態が結びつき、顧客情報を共有していけば相乗効果を生むという計算だ。

   その柱の一つが、セブン&アイHDの商品開発力を示すプライベートブランド(PB)の活用だった。コンビニで扱うPB「セブンプレミアム」をデパ地下に導入したり、カシミアセーターをスーパーと百貨店で共同調達したりした。

   しかし、「百貨店としての個性がかえって薄れた」(関係者)ともいわれ、いずれにせよ、 売り上げの底上げにはつながらなかった。

   そもそも、百貨店の地盤沈下は加速している。インターネット通販が広がるなか、インバウンド(訪日外国人)消費での巻き返しに期待したが、新型コロナウイルスのパンデミックで大きな打撃を受けた。

   百貨店の強みは衣料品を中心としたファッションだが、国産の中堅アパレルは不振が目立ち、売れているのは海外の高級ブランドぐらい。その高級ブランドは地域1番店に集中し、池袋と横浜を除くと2番店以下が多いそごう・西武は厳しい状況に追い込まれた。結局、地方の店は持ちこたえられず、2006年のセブン&アイHD傘下入り時点の28店舗が、いまや10店舗にまで激減していた。

「物言う株主」がセブン&アイHDに突きつけた課題

   では、そごう・西武をどこが買うのだろうか――。百貨店を取り巻く厳しい環境を考えると、同業、あるいは他の流通業態が食指を伸ばすのはなかなか考えにくい。ある業界関係者は「少なくとも、10店舗丸ごと引き受けるのは難しいのではないか」と指摘する。

   そうなると、ファンドなどが買ったうえで店ごとに切り売りする可能性がある。痩せても枯れても、駅前という好立地は魅力で、不動産としての利用価値に着目して大手不動産が名乗りを上げるとの観測もある。ファッションなどの専門店ビル化、オフィスを含む複合ビルへの再開発なども検討対象になるだろう。

   セブン&アイHDとしては、今回の百貨店売却の方針は、「時間の問題だった」(業界関係者)ともいえる。2021年7月に発表した26年2月期までの中期経営計画では、事業構成に関する考え方として「重点成長分野へ経営資源をシフトさせる」などとして、事業売却も含めて検討する構えを見せていたからだ。

   こうした方針は、「物言う株主」に押されている面もある。その代表格で、セブン&アイHD株式の4.4%を保有する大株主の米バリューアクト・キャピタル・マネジメントは22年1月、社外取締役で構成する「戦略検討委員会」を設置して事業売却などを検討するよう求める書簡を送付。2月8日には「提案書」を公表し、コンビニ事業に注力し、そごう・西武の早期売却に加え、「祖業」である総合スーパーのイトーヨーカ堂についても、売却や独立などにより、食品小売事業(食品スーパー)に集中することなどを主張している。

   バリューアクト・キャピタル・マネジメントは、5月の定時株主総会に向けて経営陣への圧力を強める構えで、コンビニ集中は既定路線としても、イトーヨーカ堂のほか、多角化路線で傘下に収めてきたロフト、赤ちゃん本舗、ニッセンHDなどを含め、グループの将来像をどう描いていくか、厳しい議論になりそうだ。

(ジャーナリスト 済田経夫)

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