どうやったら仕事や生き方に自信を持てるのか、悩んでいる人は多いだろう。本書「一生使える『勝ちメンタル』のつくり方」(青春出版社)は、人気YouTuberがビジネスパーソンにブレない生存戦略を説いた本である。「一生使える『勝ちメンタル』のつくり方」(宋世羅著)青春出版社著者の宋世羅(そん・せら)さんは、早稲田大学野球部、野村證券を経てフルコミッション(完全歩合制)の保険営業の仕事をしながら、YouTuberとして活動している。2020年2月に「宋世羅の羅針盤ちゃんねる」を開設、チャンネル登録者は21万人を超える。宋さんのこれまでは、決して平たんな道ばかりだったわけではない。中学時代は不良グループにいじめられ、早稲田大学野球部では厳しい上下関係と無茶なシゴキに苦しみ、野村證券時代はノルマに追われ、声をあげて泣いたこともあったという。そんな宋さんが必ず立ち直り、次のステップに行くたびに強くなったのは、ビビらず、ブレずにいられる「勝ちメンタル」を培ったおかげだと、確信している。無名で実績もない宋さんがYouTubeを始めて、どうやって人気を集めたのか――。最初に、自分のポジション取りを考えたのだという。「営業論」「証券」「保険」「ドブ板経験」「話芸」、この5つを組み合わせれば勝てる、と思ったのだ。複数の合わせ技で勝負せよ!1つのテーマだけでは戦うのが厳しい時代。複数の合わせ技で勝負することを勧めている。それが「五角形理論」だ。こういう風に説明している。「軸足を複数持ち、その場その場で自分のポジションを移動していく。それにより『負け』がなくなる→心に余裕が生まれる→圧倒的に生きるのがラクになる」「不遇が続いても、自信を持ち続ける極意」について、宋さん流の処世術を多数披露している。なるほど、と思ったいくつかを紹介しよう。「こんなことやって意味あんの?」「なんで俺だけこんな扱い?」という理不尽な目にあうことも多いだろう。宋さんも、意味不明なルールとシゴキだらけの大学野球部時代や証券マン時代、さまざまな理不尽を経験してきた。振り返って思うのは、「若いうちに理不尽なことも経験しておいたほうがいい」ということだ。なぜなら、そのほうがあとあとラクだからだという。過去に一回でも理不尽なことを経験しておくと、無茶苦茶なことを言われたときに、「ハイハイハイ、理不尽、コレ来たな」と余裕を持って行動できるのだ。というわけで、「理不尽を理不尽と判断できる」ことが大事だと説く。そして、理不尽なことであっても、それなりの対処法はあるし、「意味と目的が明確で納得できれば、全力で突っ込んでいくことができる」とも。頑張ることはダサいという風潮に対して、「頑張らない」という選択にはあとあと弊害がある、と書いている。頑張らないという選択肢を取ることは、組織の中で後手に回される、軽んじて扱われる可能性があるからだ。さらに、他人から評価されたい、モテたい、一目置かれたいといった欲望を放棄することになってしまう。「頑張るにはストレスや不安、痛みと戦う必要があります。これを跳ね返す力は、自分の意思からしか生まれません」「本当は教えたくない『人にウケる』コツ」を書いた章では、逆説的に話が面白くない人の4つの特徴を挙げている。1 知識差のギャップに気がついていない。相手と自分の頭の中にある知識、情景は異なる。2 伏線の欠如。話の面白さや結論やオチにあると誤解している。3 話し手のドヤり。「いまから言ったるぞ」感を我慢できるか。4 擬音語が大きい。擬音語単品で面白くしてはいけない。評者の周囲にいる「話の面白くない人」の特徴を言い当てていて、納得した。「3年は続けろ」に意味はない!?いまの職場を辞めようかどうか悩んでいる人に参考になることも書いている。「ある程度の年数を重ねて経験を積まなければ、何も身につかないし、成長しない」「諦めグセ、辞めグセがついてしまし、地道に頑張ることができなくなる」などの理由から、「3年は続けろ」と言われる。だが、宋さんは本当にそうだろうか、と提起している。「同じ場所であれば、成長は鈍化する。そして、フィールドを変えたほうが早く能力を身につけて輝ける場所がある」と説明する。「逃げ」にするのか、それとも「勇気ある損切り」にするのかは、その後の本人の頑張り次第だからだ。これからの時代に必要なのは、「発想力」や「未知のものにチャレンジする勇気」「軽やかな方向転換力」の方が、成果につながりやすいともあった。宋さん自身も野村證券を4年で辞めたときは、勇気が必要だったと書いている。また、フルコミッションの営業で起業して大成功した人もいれば、反対に、大企業で10年以上働いた後に起業して苦しんでいる人もいるので、勤務年数は関係がないと考えている。付録として、「ビジネスユーチューバーの戦略論」が載っている。宋さんはノウハウより「エピソード」に価値があるという。実際、宋さんは野球部時代の話、野村證券時代の体験談をよく披露している。もう1つのポイントは、視聴者の予測する「斜め上」の興味深い考察や見解を意識することだという。1年半で20万人の登録者を集めたノウハウが書かれているので、これから始めようという人の参考になるだろう。エピソード満載の本なので、笑って読んでいるうちに、元気が出てくる。そんな効用もある本だ。(渡辺淳悦)「一生使える『勝ちメンタル』のつくり方」宋世羅著青春出版社1584円(税込)
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