2024年 4月 26日 (金)

「ワリエワ・スキャンダル」は五輪史上最大のスキャンダル?! 「最後に笑うのはプーチン大統領」の現実味(井津川倫子)

   2022年2月20日に閉幕する北京オリンピックは、すっかりロシアの15歳の少女・カミラ・ワリエワ選手に話題を奪われてしまいました。

   女子フィギュア界の新星によるそのドーピング疑惑は、「ワリエワ・スキャンダル」と称されて世界中のメディアを席巻! とりわけ米メディアの過熱ぶりが目立ちます。メディアの矛先はワリエワ選手を取り巻く大人たちに向けられていますが、「結局、ロシアの一人勝ち」との声も。「ワリエワ・スキャンダル」の背景を追ってみました。

  • 「ワリエワ・スキャンダル」の背景とは(写真はイメージ)
    「ワリエワ・スキャンダル」の背景とは(写真はイメージ)
  • 「ワリエワ・スキャンダル」の背景とは(写真はイメージ)

ロシア人記者まで脅しに加担?「ずたずたに引き裂いてやるぞ!」

   4年の一度のスポーツの祭典が、ワリエワ選手一色になってしまいました。スピードスケートやアルペンスキー、アイスホッケーといった人気競技の話題をかき消すように、連日のようにトップニュースを飾る「ワリエワ・スキャンダル」。各国メディアが一様に、「渦中のワリエワ選手」について報じています。

Valieva has been at the center of a storm of controversy
(ワリエワ選手は、激しい論争の渦中にいる:ドイツメディア)
at the center of:~の真ん中に、渦中に、まっただ中に

   論争どころか、まるでワリエワ選手が世界の中心にいるのではないかと思わせるような加熱報道に驚くばかりですが、意外なほどにワリエワ選手の責任を追求したり、非難したりする声は聞こえてきません。報道が深まるにつれて浮き彫りになったのは、ワリエワ選手を取り囲む大人たちの異様さ。まるで「ワリエワ狂騒曲」といった様相です。

   たとえば、英紙ガーディアンが報じたのは、「ワリエワ・スキャンダル」の第一報を報じたジャーナリストへの殺害予告です。

The journalists who broke the story of Valieva's positive drugs test say they have faced death threats
(ワリエワ選手のドラッグテスト陽性を報じたジャーナリストが、殺人の脅迫を受けていると語った:英紙ガーディアン)

   さらに、五輪のメディアセンターでワリエワ選手に「ドーピングをしたのか?」と問いかけた別の英国人記者が、ロシア人記者に取り囲まれて「15歳の少女にふさわしくない質問をするな」と迫られたことや、「Our Russian journalists can tear you to pieces!」(俺たちロシア人ジャーナリストは、お前をずたずたに引き裂くこともできるんだぞ)と脅されたことなどを明らかにしています。

   それにしても、ジャーナリストを名乗る立場の人間が、「ずたずたに引き裂いてやる!」といった脅し文句を吐くとはにわかには信じられませんが、米メディアはロシア政府の「介入」も伝えています。

   米ネットメディアは、ロシア政府高官が「英国人記者が、まるでパブで仲間に話すような強い口調で、まだ子どもにすぎないワリエワに野蛮な質問を投げつけた」と批判。さらに、ワリエワ選手に対して「go proudly and beat everyone」(誇りを持って、みんなをやっつけてしまえ!)という強いメッセージを送ったと報じています。

   「ワリエワ・スキャンダル」は国家を巻き込んだ騒動に発展するのでしょうか。「まだ子どもにすぎない」はずのワリエワ選手や、競技の成果を超越した世界での出来事に、スポーツのあり方を改めて考えさせられました。

ワシントン・ポスト紙「ワリエワ騒動で唯一の勝者はロシアだけだ」

   今回の「ワリエワ・スキャンダル」では、米メディアの強い報道ぶりが目立ちます。スポーツメディアだけでなく、ニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙といった高級メディアが連日大きく取り上げていることに驚きますが、ドーピング疑惑を通じてロシアという国の問題点を浮き彫りにしていることに気がつきます。

   ワシントン・ポスト紙は「ワリエワ騒動」の唯一の勝者は「ロシアだけだ」と伝えています。 

Russia Is the only winner in the Kamila Valieva mess
(カミラ・ワリエワ騒動の唯一の勝者はロシアだけだ:ワシントンポスト紙)
mess:騒動、騒ぎ

   各国のメディアが伝えているように、ワリエワ選手に代表される「ロシアの若年女子フィギュア選手」の活躍は、2014年のソチ五輪から始まりました。その前のバンクーバー五輪では、韓国のキム・ヨナ選手や浅田真央選手、カナダのロシェット選手が女子シングルの表彰台を占めたことから分かるように、ロシアの女子選手はしばらく低迷していました。

   ところが、自国開催となったソチ五輪では、15歳(当時)のユリア・リプニツカヤ選手が団体戦で金メダルを獲得。2018年の平昌五輪では、これまた15歳(当時)のアリーナ・ザギトワ選手とエフゲニア・メドベージェフ選手が女子シングルの金・銀メダルを独占して、その後も「ロシア若年選手」の快進撃は続いています。

   海外メディアは、3大会連続して「15歳の新星」が登場していることは、決して偶然ではないと指摘しています。これらの選手を育てているエテリ・トュトベリゼコーチの存在に注目が集まっていますが、ワシントン・ポストはさらに一歩踏み込んで、トュトベリゼコーチも「国家の影響を受けている」と示唆しています。

   ロシアでは、五輪のコーチも国家情報機関にコントロールされていることや、ドーピング疑惑の背景にも国家の存在があることを赤裸々に伝えていて、まるでスパイ小説のようなおどろおどろしい展開ですが、たとえ選手が短命に終わったり、コーチに批判が集まったりしても、国家としては「想定内」だということでしょうか。

   たしかに、プーチン大統領にとっては、今回の「ワリエワ・スキャンダル」でロシア国内の反欧米感情が高まり、自身のカリスマ性を示すことができれば満足な結果でしょう。ウクライナ情勢もしかり、ドーピング疑惑もしかりですが、世界のメディアが騒げば騒ぐほど存在感を増すプーチン大統領。不気味に微笑む姿が目に浮かびます。

   それでは、「今回のニュースな英語」「at the center of」(~の渦中で)を使った表現を紹介します。

Valieva is at the center of doping scandal
(ワリエワ選手は、ドーピングスキャンダルのまっただ中にいる)

He is at the center of bribery scandal
(彼は、贈賄疑惑の渦中にいる)

Macron visit Putin at the center of Ukraine crisis
(マクロン大統領がウクライナ危機のまっただ中にプーチン大統領を訪問した)

   世界中が固唾をのんで見守るウクライナ騒動。女子フィギュアに対するプーチン大統領の強い思いを考慮すると、少なくとも決勝が終わるまでは大きな動きは無いように思えますが......。答えは、プーチン大統領のみぞ知る、のでしょう。

(井津川倫子)

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井津川倫子(いつかわりんこ)
津田塾大学卒。日本企業に勤める現役サラリーウーマン。TOEIC(R)L&Rの最高スコア975点。海外駐在員として赴任したロンドンでは、イギリス式の英語学習法を体験。モットーは、「いくつになっても英語は上達できる」。英国BBC放送などの海外メディアから「使える英語」を拾うのが得意。教科書では学べないリアルな英語のおもしろさを伝えている。
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