2024年 4月 19日 (金)

最新2022年「借りて住みたい街」に見るユーザー意識の変化《前編》 コロナの影響でランキング激変「首都圏」(中山登志朗)

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   先日、筆者が所属するLIFULL HOME'Sから2022年版の「借りて住みたい街&買って住みたい街」ランキングの発表がありました。今回は、このランキングデータの分析から、とくに「賃貸ユーザー」のコロナ禍における意識の変化を探っていきたいと思います。《前編》では、首都圏を中心にランキングとその背景を探っていきます。

  • 通称「本気で住みたい街」ランキングを読み解く
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コロナ禍が変えた賃貸ニーズの向かう先はどこか

   ご存じの通り、オミクロン株の感染拡大で、再び新型コロナウィルスの新規感染者が急増する状況が続いています。マスク着用および消毒や手洗いなどの身近な対策と、人の移動・接触をできるだけ少なくすることによって、感染拡大を防ぐことが求められますが、その有効な手段とされるのがテレワークやオンライン授業などです。

   とくに東京都は、感染者が全国一多いこともあって、テレワークおよびオンライン授業の進捗・定着が進み、相対的にほぼ毎日通勤・通学する人は漸減している状況です。こうなると、事実上自宅でオンとオフを同じく過ごすことになり、自宅内での棲み分けは家族ほか同居する人がいると、思ったほど簡単ではないのが実情です。

   したがって、コロナを恐れて転居するというよりは、コロナ禍で働き方が変わり、毎日出勤する必要がなく、かつ、オンとオフとをある程度家庭内でも分ける必要(明確に分けるのは極めて困難です)が出てきた際に、住み替えの必要性を感じることになります。

   このような状況下で公表されたLIFULL HOME'Sの「借りて住みたい街&買って住みたい街」ランキングにも、その影響が明確に表れていると言えるでしょう。

首都圏の賃貸ユーザーの意向は明確に「郊外化」

   そもそも「借りて住みたい街」ランキングは、憧れの住んでみたい街を尋ねるアンケート調査ではありません。

   実際にユーザーがLIFULL HOME'Sに掲載された物件を検索し、問い合わせるなどのアクションを起こした物件を対象に、集計しています。つまり、「いま実際に住むことをイメージして探している街」のランキングで、社内では通称「本気で住みたい街」ランキングと言われています。

   首都圏は、昨年(2021年)兆しがあった「郊外化傾向」がさらに鮮明になりました。

   前回初めてトップになった神奈川県央部の「本厚木」が2年連続1位となり、コロナ禍での人気と注目度の高さが一過性のものではなかったことが明らかです。2位も「大宮」(前回2位)、3位「柏」(同9位)、4位「八王子」(同4位)、5位「西川口」(同12位)と、ベスト5にこれまで人気の高かった都心・近郊の街は皆無です。ベスト10を見ても、東京23区内の街は「葛西」のみとほぼ準近郊・郊外の駅で占められていて、「賃貸は、郊外で住宅を探しているユーザーが増えている」ことが浮き彫りになりました。

   上位にランクされている郊外の街は、いずれも都心方面にほぼ鉄道の乗り換えなしでダイレクトアクセスが可能なところばかり。ということは、通勤・通学の便を考慮した現実的な選択がなされていると見ることができます。

   反対に、2020年まで4年連続1位だった「池袋」は前回の5位からさらに順位を下げて12位でした。これまで交通と生活の利便性で圧倒的優位だった都心・近郊の駅が、今回も順位を下げる結果となりました。

   都心・近郊の駅では6位に「葛西」(前回3位)、12位に「池袋」(同5位)、18位に「高円寺」(同11位)、21位に「三軒茶屋」(同16位)がランクインしていますが、いずれもランクを下げており、この点でも賃貸ユーザーの意識が「郊外」方面に向かっていることがわかります。もう少し広げてベスト30を見ても、都心近郊がわずか7駅しかランクインしていないことも、コロナ禍での象徴的な状況を示しています。

コロナは「住む場所の自由」を拡げた

   賃貸需要は本来、どこに移動するにも便利であること、生活利便施設が揃っていて買物や飲食などに困らないこと、通勤・通学だけでなく余暇を過ごす際にも便利であること......などが人気の条件として挙げられます。

   ところが、コロナ禍が継続していることで、利便性よりもコストや居住性が優先されているようです。テレワークやオンライン授業が定着したことから、賃料相場が比較的安価で部屋も広く、のびのび暮らせる郊外エリアでの生活をイメージするユーザーが増えているものと考えられます。

   これまでのように、自宅とオフィス、自宅と学校、といった最も重視すべき「動線」を考慮せずに、比較的自由に住むところを選ぶことができるようになった、と見ることもできます。

   この点では、コロナは人々の「移動の自由」を奪ったというより、「住む場所の自由」を拡げたという見方もできそうです。

   皮肉なことに、いくら笛を吹いても一向に踊る気配のなかった「働き方改革」はコロナ禍で急速に進捗しました。また、この首都圏での都心から郊外方面へのニーズの動きを、「地方創生」の文脈で語るケースまで出てきて、都市部に一極集中したヒト・モノ・カネを是正する契機としたい、との話も伝わってきています。

   便利で効率的で快適な生活が実現可能であるからこそ、人は都市部に集中するわけです。そのような生活装置が地方に少ないことが根本原因であるにもかかわらず、その解決は図らずに、コロナを是正に活用するのは本末転倒のそしりを免れません。

   次回の《後編》では、首都圏以外の各圏域のランキングとその背景を探っていきます。

(中山登志朗)

中山 登志朗(なかやま・としあき)
中山 登志朗(なかやま・としあき)
LIFULL HOME’S総研 副所長・チーフアナリスト
出版社を経て、不動産調査会社で不動産マーケットの調査・分析を担当。不動産市況分析の専門家として、テレビや新聞・雑誌、ウェブサイトなどで、コメントの提供や出演、寄稿するほか、不動産市況セミナーなどで数多く講演している。
2014年9月から現職。国土交通省、経済産業省、東京都ほかの審議会委員などを歴任する。
主な著書に「住宅購入のための資産価値ハンドブック」(ダイヤモンド社)、「沿線格差~首都圏鉄道路線の知られざる通信簿」(SB新書)などがある。
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