いじめ、不祥事...公務員は「危機」に際してどうメディア対応すべきか?

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   自然災害や感染症のまん延、学校のいじめなど、公務員や教職員たちもクライシス(危機)への対応を求められる、そんな時代になってきた。

   企業は日頃から、こうしたメディア対応には慣れているが、官公庁の職員は不慣れだ。本書「公務員の危機管理広報・メディア対応」(学陽書房)は、広報だけではなくリスクマネジメントの観点から、危機に際して新聞、テレビ、SNSなどあらゆるメディアへの対応を提案した本である。

「公務員の危機管理広報・メディア対応」(宇於崎裕美著)学陽書房

   著者の宇於崎さんは広報・危機管理広報コンサルタント。官庁、企業、大学において広報や講演、メディアトレーニングを行っている。著書に「不祥事が起こってしまった!」「クライシス・コミュニケーションの考え方、その理論と実践」などがある。

「クライシス・コミュニケーションはフィギュアスケートに似ている」

   クライシス・コミュニケーションとは、組織が危機的な状況に直面した際、その被害を抑えるためにおこなうコミュニケーション活動のことだ。それがどうして、フィギュアスケートにたとえられるのか。

   フィギュアスケートの得点は、「技術点+演技構成点-減点」で構成される。それにならってクライシス・コミュニケーションの「技術点」は、現状・原因・対応策・再発防止策など情報の公表・説明にあたる。また、「演技構成点」は発表のタイミング・謝罪の有無や仕方・説明者や司会の服装・態度など。そして、「減点対象」は遅刻・マイクの故障・不手際などが該当する、というわけだ。

  • メディア対応にそれほど慣れていない公務員に向けた一冊
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同じ事故でもなぜ報道のされ方は違ったのか

   さらに理解を深めるために本書では、同じ事故でも報道のされ方が違った具体例を挙げている。2010年夏に起きた2つのヘリコプター墜落事故の報道を比較したところ、原因不明、死亡者5人と共通点はあるが、報道のされ方は全く違ったという。

   1つ目の「7月の事故」についての報道は墜落当日と翌日の2日間で終息し、事実関係のみを伝え、当事者を責めていなかった。一方、2つ目の「8月の事故」の報道は長期化した。発表内容が事実と異なることが判明、「隠ぺい」「改ざん」とメディアは非難を続けたのだ。

   著者の宇於崎さんは、長年、事件・事故の報道を観察し、マスコミやネットで騒がれる事柄は決まっていると断定する。以下の要素だ。

「情報公開の遅れ、隠ぺい、放置、偽装、改ざん、態度を変える、内向き体質、組織の論理、過剰な組織防衛」

   そして、メディア対応は「最初の3時間、最初の3日間が勝負」と書いている。不祥事発生時の発表で大事なのは、「スピード、わかりやすさ、正確さ」だという。求めている情報は4つだ。「何が起きたか(現状)、なぜ起きたか(原因)、今、どうするのか(対応策、補償)、将来どうすればよいのか(再発防止策)」である。

立場を見極め、方針を決める

   そのため、クライシスが起きたら、自分たちはどんな責任があるかをまず考えることだ。次の3つのいずれかになる。

   A 自分たちに落ち度がある→早期情報公開と謝罪が必要
 B 自分たちに落ち度はない→落ち度がないことを説明すべき
 C どちらともいえない、わからない→現状説明(「不明です)と情が大切

   お悔やみやお見舞いは「謝罪」ではない。むしろ言わないことが問題だと指摘している。

   立場が決まったら、ポジション・ペーパーを作成する。自分たちに落ち度があるAの場合は、お詫び文書も必要だ。

   ポジション・ペーパーには上記の4つの情報(現状・原因・対応策・再発防止策)を盛り込む。客観的事実を時系列に示し、組織側の対応プロセスや主張を簡潔にまとめる。A41枚程度が望ましい、とも。

   記者会見を開くときは、プレスリリースとしてプリントアウトを配る。開かないときはコピーを記者クラブに配布するか、報道各社にFAXやメールで送る。また、会見の有無にかかわらず、記者に送付し終わったら、直後にホームページや公式SNSにも掲載する。

   記者会見での質疑応答や住民からの問い合わせに備えて、想定問答集も準備することも重要だ。これとは別に「絶対に言ってはいけないことのリスト」も用意する。

   報道対応に際しては、「記者に話したことはすべて報道される可能性がある、毅然とした態度も重要、どの記者にも公平に」。「不明です」「未定です」も立派な説明だと書いている。

誹謗中傷には毅然とした対応を

   想定事例ごとの対処法のポイントも挙げている。たとえば、新型コロナウイルスなど感染症患者についての公表については、「感染者が特定されないよう注意した上で、『公共の利益』と『感染者個人が背負うリスク』を常に比較する」ことが大切だ、としている。前者を優先し公表せざるを得ない場合は、感染者個人が不利益を被らないように注意が必要だ。

   このほかに、職員・関係者の犯罪、内部告発で不正が表に、ハッカーによる攻撃、いじめ、自然災害、学校給食のアレルギー事故、学校・管理施設での食中毒などへの対応も紹介している。

   SNSへの対応にも触れている。炎上は長引くので、非難報道よりもやっかいだと書いている。SNSユーザーは自由になる時間が多いので、ターゲットと決めた組織や個人を何度でもいつまでも攻撃することができるからだ。

   そのため、炎上が起きたら、まず書き込みが事実かどうか、自分たちに関係があるのかないのかを確認したうえで、メッセージを表明することが重要。誹謗中傷には毅然とした態度も必要だ。

   情報通信手段が発達し、感情が伝達する速度も速くなってきた。公務員も前例主義にとらわれず、スピーディーでわかりやすい対応が求められているということがわかった。

   実は、評者もあるトラブル対応で当事者になったことがある。著者の宇於崎さんも模擬記者会見などのメディアトレーニングを勧めているが、日頃からの備えも必要だ。

(渡辺淳悦)

「公務員の危機管理広報・メディア対応」
宇於崎裕美著
学陽書房
2750円(税込)

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