2024年 4月 25日 (木)

もうひとつの「ワリエワ・スキャンダル」...管理者の「責任意識」欠如に喝!(大関暁夫)

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   新型コロナ・オミクロン株が猛威を奮う状況下で開催された北京冬季オリンピック大会は、コロナ関連では大きな問題が起きることなく無事閉幕を迎えました。しかし、別の側面では大きな問題が物議をかもしました。

   ロシアオリンピック委員会(ROC)の女子フィギュアスケート選手で優勝候補筆頭だったカミラ・ワリエワ選手(15)が、12月のドーピング検査で陽性となり、今大会の個人戦の出場を認めるか否かという問題が噴出。問題を解決すべく介入したスポーツ仲裁裁判所(CAS)が、同選手が16歳未満の「要保護者」であることを理由に参加を認めたために、疑問の声が世界中から上がる中での個人戦出場となりました。

  • ドーピング疑惑で世界をざわつかせた「ワリエワ・スキャンダル」(写真はイメージ)
    ドーピング疑惑で世界をざわつかせた「ワリエワ・スキャンダル」(写真はイメージ)
  • ドーピング疑惑で世界をざわつかせた「ワリエワ・スキャンダル」(写真はイメージ)

トゥトベリーゼコーチの「言葉がけ」に非難相次ぐ

   ワリエワ選手は、社会的批判渦巻く中でまともな演技などできるはずもなく、フリー演技では失敗に次ぐ失敗で優勝はおろか4位でメダルにすら届かない、という結果になりました。15歳の少女には、あまりに辛すぎる世間の冷たい風だったのではないでしょうか。

   個人的な問題の焦点はここからです。

   私が気になったのは、ワリエワ選手に対するコーチ、エテリ・トゥトベリーゼ氏の管理者としての対応でした。演技を終えてコーチの元に戻り泣き崩れたワリエワに、氏は情け容赦なく「なぜ途中で諦めたの? 理由を言いなさい」と、ロシア語で問い詰めといいます。この事実が報じられると、世界中から非難が集まりました。管理者として自身の立場や責任を考えていないこの姿勢は非難されて当然であり、管理者失格であると言っていいと思います。

   ワリエワ選手がなぜまともな演技ができなかったのか。その根本原因がどこにあるのか。さらに、その責任は誰が負うべきなのか。トゥトベリーゼ氏はそれを全く理解していないということを態度で示してしまったといえます。ドーピングで陽性になったことが組織ぐるみでおこなわれたか否かに関わらず、15歳の選手本人にその責任を帰することはあまりにも酷です。まともな感性を持った管理者ならば、絶対にしない行為であったと断言できます。

   技術を指導し教えることだけが監督・コーチの役割ではなく、選手が最良の条件で試合ができる環境を整えることもまた、管理者としての監督・コーチの役割です。

   今回は陽性の判定が出て、国際オリンピック協会(IOC)のワリエワ選手の個人戦出場を認めない方針にROCが反発し、CASに仲裁を求めた結果として出場が認められたわけです。選手本人の精神的動揺や過大なプレッシャー考えれば、IOCの判断に反対してまで、ワリエワ選手の出場を望むことが管理者として正しい判断であったのか。チーム管理の観点から大きな疑問を感じます。

管理者には、働きやすい「環境づくり」への責任もある!

   ROCほどではないものの、似たような管理者の責任意識の欠如を感じさせる所作が、日本選手団の管理者にもありました。

   スキージャンプ混合団体戦で、高梨沙羅選手がスキーウエアのサイズ規定違反で失格をするという、メディアでも大きく取り上げられた、あの一件でのことです。マスコミ報道やネットメディアのトーンは概ね、主催者側の検査の方法がいつもと違ったことや、ジャンプ後の抜き打ち検査自体を批判する見地から、検査実施側に問題ありとするトーンがみられました。でも、それはちょっと違うと私は捉えています。

   通常とは異なる検査方法であろうとも、あるいは、ジャンプ後の抜き打ち検査であろうとも、規定違反の事実があったのならば、それは失格扱いとすることに抗弁できない事実であり、今後の検査方法の是正を求めることはよいとしても、主催者を悪者扱いするのはどうかと考えます。すなわち、違反はどこまでいっても違反であり、失格という事実に対し求めるべき責任の所在は、フィギュアスケートのROCチームと同じく、選手が万全の態勢で試合に臨む環境を整えるべき管理者たる監督・コーチ陣にもあったと考えるべきでしょう。

   試合後、メディアのインタビューに応じた女子ジャンプチームの横川朝治ヘッドコーチは、「選手は僕らの用意したスーツを着てそのまま飛ぶので。スタッフのチェックミスです」と選手の責任こそ明確に否定したものの、管理者としての責任を感じさせるような失格に対する謝罪の言葉は一切ありませんでした。

   その結果、高梨選手は大きな責任を個人的にしょい込むこととなり、その翌々日に自らのSNSで黒い画像と共に悲痛な謝罪コメントを掲載するに至ったのです。スタッフのミス、管理者の管理不行き届きともいえる事態でありながら、選手をここまで追い込んでしまったのは、管理者の責任意識の薄さに尽きると言えるかもしれません。ここまで選手にさせてしまった責任を、監督・コーチ陣は重く受け止めるべきだと思います。

   ROCのケースと日本チームのケースではレベル感の違いはありますが、ひとつ間違えば一人の有能な選手の選手生命を奪いかねないような、管理者の役割誤認と責任認識の欠如という点では同根の問題であったと私は捉えています。

   スポーツチームであろうと、企業組織であろうと、組織活動に変わりはなく、管理者には相応の責任が課せられます。世のあらゆる組織活動における管理者の方々には、自身が成果にのみ責任を負うのではなく、活動環境づくりにも責任を負っているのだということを、この機会にいま一度認識してほしい。そして、自身の責任感のありようを確認する機会にしていただけたらと切に願うばかりです。

(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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