2024年 4月 25日 (木)

年金受給者一律5000円給付案に怒りの声! 選挙で高齢者の「反乱」怖い?

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   「高齢有権者の買収」「年寄りによる年寄りのためのシルバー民主主義」......インターネット上では「怒りの声」が相次いだ。

   これは2022年3月15日、政府与党内に急浮上した「年金受給者に一律5000円の臨時給付金」を支給する案のことだ。

   いったいどういうことか。専門家の見方をまとめると――。

  • 岸田文雄首相は「バラマキ作戦」に打って出るのか
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公的年金の支給額、2022年度はマイナス改定

   報道によれば、年金生活者に一律5000円の「臨時給付金」を支給する案が政府と与党内に急浮上したのは2022年3月15日のことだった。

   参議院選挙を今夏に控えるなか、新型コロナウイルスによる経済の悪影響に加え、ロシアのウクライナ侵攻による原油と小麦価格高騰などで物価が急上昇している。自民・公明の与党内では、新たな「バラマキ」による経済対策を求める声が高まっていた。

年金生活のお年寄り2600万人に5000円配るというが...(写真はイメージ)
年金生活のお年寄り2600万人に5000円配るというが...(写真はイメージ)

   そこで3月15日、自民党の茂木敏充、公明党の石井啓一両幹事長が首相官邸で岸田文雄首相と会談。新型コロナの影響が長期化するなかで、年金生活者を支援する「臨時特別給付金」の支給を要請したのだった。

   公的年金の支給額は、物価と賃金変動を考慮し毎年改定する。賃金が下がれば連動して減る仕組みで、2022年度はマイナス改定となり、6月に受け取る4月分から減額される。こうしたこともあって、自公両党側では給付金の支給額を「新型コロナの影響による賃金低下が与える影響を払拭する水準」で要望したのだった。これに岸田首相は「しっかり受け止めて検討したい」と述べたとの話も伝わっている。

   いったい誰に、いくら給付するのか。対象は、所得が低い住民税非課税世帯向けの10万円給付を受け取った人を除く高齢者や障害・遺族年金の受給者で、1人あたり5000円とする案が有力視されている。財源には2021年度予算の予備費をあてる。両党幹部によると、対象者は約2600万人になり、総額約1300億円規模が見込まれるという。

   しかし、主要メディアの多くは「参議院選挙へのアピール」と指摘する。朝日新聞(3月16日付)「『選挙対策として重要』 自公にバラマキムード」によると、給付金案は自民党から浮上、公明党が同調したそうだ。「自民重鎮は『選挙対策として重要だ』と、参院選を見据え支給のタイミングを気にかける」とある。一方で、朝日新聞は「与党内では『5000円もらって有権者は喜ぶだろうか』『(バラマキ)批判を浴びる』と懸念する声が出ている」とも伝えている。

参院選での「トラウマ」ある自民党

   インターネット上でも専門家から批判的な声が相次いだ。

   日本経済新聞(3月15日付)「新型コロナ:年金受給者に臨時給付金、政府・与党検討 1人5000円案」という記事につくミニ解説の「Think欄:分析・考察・ひと口解説」コーナーにはこんな意見が掲載された。

   早稲田大学政治経済学術院の深川由紀子教授は「エマニュエル・トッド『老人支配国家 日本の危機』(2021年)の指摘を思い出した」として、「『この選挙を乗り切れば』を繰り返して一体、どれだけの時間を失い、どれだけの改革、どれだけの成長機会を放棄してきたのか」と呆れた。また、「若く、才能ある人材たちの海外移住、という形で若年層の静かな反乱が既に始まっている」と危機意識の欠如を指摘した。

   同欄で、みずほ証券チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏は「財政規律」の観点から、「参院選対策の色彩が濃い、高齢の有権者へのバラマキ的な動きだという受け止め方が、金融市場の側ではされやすい」と批判した。つづけて、参院選に向けては野党の一部からも、積極的な景気対策を求める声が出ているとしたうえで、近くガソリン税の「トリガー条項」発動に向けて、原油高対策を協議する自民・公明・国民民主の幹事長会談が行われるとの報道をひにあいに、「財政規律は引き続き緩んでおり、それは与党と野党の双方にまたがる話である」と述べている。

   そのほか、日本経済新聞社編集委員・論説委員の斉藤徹弥記者は、高齢有権者に対する自民党の「トラウマ」を取り上げ、「参院選で高齢者の反乱を懸念しているのでしょう」と指摘した。「2007年は年金記録や後期高齢者医療制度で高齢者にそっぽをむかれ、自民党は歴史的な大敗でした。これがトラウマになり、後期高齢者医療の自己負担2割への引き上げはずっと先送りされてきました。昨年ようやく決め、引き上げ時期は念を入れて参院選後の今年10月にしましたが、団塊の世代が後期高齢者になり始めることもあり、自民党は不安なのでしょう」

現役世代が困っているのに、なぜ?

年金生活者にとって5000円はありがたいか?(写真はイメージ)
年金生活者にとって5000円はありがたいか?(写真はイメージ)

   ヤフーニュースのヤフコメ欄でも批判の意見が相次いだ。

   社会学者で東京工業大学准教授の西田亮介氏は、本当の生活困窮者にこそ給付すべきだと書いている。「『新型コロナウイルスの感染拡大の影響による賃金低下が年金の支給額に及ぼす影響』を憂慮するなら、普通に賃金生活者における生活困窮者、家計急変世帯向け給付を中心に考えるのが筋」としたうえで、5000円給付の効果に疑問を投げかけ、「現役世代から批判を買わない程度の給付水準で、年長世代には『やっている感』を印象づけようとしている」と評した。

   同欄で、若者の声を政治に届ける一般社団法人「日本若者協議会」代表理事の室橋祐貴さんは、与野党とも高齢者の票をあてにする現状に、「なぜ今現役世代が困っているのに、実質的に国債発行を増やしてまで、今の高齢世代を支援しなければならないのか意味不明です」と怒りを込めた。さらに、「これではただの選挙前の『買収』でしょう」「これを批判する政党がいなさそうなのが残念なところです。この国は、いつになったら、現役世代や将来世代を重視するようになるのでしょうか?」といった厳しい言葉が並んだ。

   また、働きたいけれど働けずにいる若者の「自立」をサポートする認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓さんは「5000円」という給付額に注目した。それによると、シングルマザー支援では「ひとつの目標は5000円多く収入を得られることで、それがあればお米代になるという言葉もあります」として、「年金受給者のみならず、5000円で命が救われるひとたちもいるはずで、こういう申し入れが選挙前に出るのは心から残念です」と述べた。

   たしかに5000円で救われる人が、年金生活者、現役世代を問わずにいることは認めるが、「5000円」という額が選挙に利用されることが残念でたまらない、というのであった。

(福田和郎)

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