2024年 4月 19日 (金)

一人でも多くの人救いたい...若き日の「思い」から生まれた!「陽子線がん治療装置」開発秘話(前編) ビードットメディカル社長の古川卓司さんに聞く

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   三大疾病のひとつ、がん――。

   現代日本では、がん患者の3人に1人が就労世代とも言われ、早期発見などによって、働きながら治療にのぞむケースもいまや少なくない。

   いくつかある治療法のなかで、放射線治療の一種である「陽子線治療」への期待度は高いという。しかし、既存の陽子線治療を受ける場合、高額な費用がかかるケースがあるうえに、治療装置自体の数が少ない、といった課題があった。

   そこで、こうした課題を解決して、一人でも多くの人を救えないだろうか――。そんな信念のもと会社を立ち上げ、小型・低価格な「陽子線がん治療装置」の開発を手掛けるのが、ビードットメディカル(東京都江戸川)だ。代表取締役社長で、理学博士の古川卓司さんに、その思いを聞いた。

  • ビードットメディカル代表取締役社長で、理学博士でもある古川卓司さん
    ビードットメディカル代表取締役社長で、理学博士でもある古川卓司さん
  • ビードットメディカル代表取締役社長で、理学博士でもある古川卓司さん

自分の研究は「人のためになっているだろうか?」

――まずは、「がん」や「がん治療」を取り巻く現状を教えてください。

古川卓司さん「日本人の死因の第1位といえばがんで、一昔前はよくTVドラマなどで、がんになることがショッキングなテーマとして扱われていたものです。......が、これはいまや昔。自分自身も含めて、いつかがんになるかもしれない、と思っていたほうがよいほど、身近になってきています。一方で、治療技術の進歩などによって、5年相対生存率が、この30年ほどで伸び、いわゆる『不治の病』のイメージから少しずつ変わってきました。そして、がん患者の高齢化も進んでます。いまは定年の年齢が引き上げられていますから、がんになる人の3人に1が就労世代(20歳~64歳)という状況です。場合によっては、働きながら治療を受けるケースも少なくありません」

――がんの治療法にはどのようなものがあるのでしょうか。

古川さん「日本では、外科的治療(手術)、化学的治療(抗がん剤治療)、放射線治療が三大治療法で、標準的ながん治療となっています=図表参照。このうち放射線治療の割合は約3割。日本は先進国のなかでは低く、アメリカでは6割近い状況です。なお、放射線治療の一種が『陽子線治療』です」
(図表)がんの治療法の種類(ビードットメディカル作成)
(図表)がんの治療法の種類(ビードットメディカル作成)
古川さん「一般の患者さんへのアンケート結果を見ると、高齢になるほど5年相対生存率が多少下がっても、痛くない(切らない)治療法を望む、という回答が目立ちます。陽子線治療のよさは、切らずに、治療を進められること。いまは外科手術では切るところを最小化する動きが進んでいますし、高齢になると切開する手術はしづらくなるものです。そういう意味でも、患者さんのクオリティ・オブ・ライフ(QOL)を保ちながら進められる陽子線治療への期待は大きいように思います」

――なるほど、「がん」や「がん治療」の背景がわかりました。ところで、ビードットメディカルを立ち上げ、陽子線治療の装置開発を手掛ける古川さんはどんなきっかけで、がん治療に興味を持たれたのでしょうか。

古川さん「そのためには、私の学生時代の話にさかのぼります。少し長くなりますがよろしいですか?」

――はい、ぜひお願いします!

古川さん「では、少し昔話をさせてください。
   大学時代、私は理学部で、物理学専攻でした。自然科学の基礎研究を担うのが『理学』と呼ばれる分野で、物理学もここに含まれています。たとえば、いまは亡き小柴昌俊先生のように、科学的な真理を探求するのです。ご承知のように小柴先生は、素粒子物理学で功績を上げ、2002年にはノーベル物理学賞を受賞。私も基礎研究に関わる一人として、憧れるところがありました。
   ところが、です。科学の根幹を成す『基礎研究』は大事だと思う半面で、科学的な知見をもとに実用化につなげ、社会に役立てていくような『応用科学』と比べると、どこか縁遠い気がしていました......。物理学は好きですが、それだけに私の研究は『人のためになっているだろうか?』という思いがないわけではありませんでした。
   転機となったのは、千葉大学で卒業研究を選ぶ時、放射線医学総合研究所(放医研)での研究に思いきって手を挙げたことでした。放射線の取り扱いには、物理学の知識を必要とします。その知識を活かし、科学のチカラで社会に貢献できる放射線がん治療と出合えたことは幸運だったように思います」
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