2024年 4月 24日 (水)

岸田首相の「緊急経済対策」にエコノミストの厳しい目...「ウクライナ情勢利用の選挙対策」「痛み止めの一時的効果」

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   円安の進行とエネルギー価格高騰による物価高などに対応するため、岸田文雄政権が緊急経済対策の策定を進めている。が、7月にある参議院選挙を見据えてのことだろうか、「バラマキ」的な対策案情報が流れてくる。

   これに対して、「痛み止めの一時的な効果しかない。長期的な対策を行わなくては!」「そもそも今、緊急経済対策が必要なのか?」...エコノミストたちの目は厳しい。

  • 岸田文雄首相はどんな緊急経済対策を打ち出すのか?
    岸田文雄首相はどんな緊急経済対策を打ち出すのか?
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補正予算を組むと...自民党には気がかりな「ジンクス」が

   政府は、2022年4月末までに物価対策を中心とする緊急経済対策を発表する見通しだ。報道をまとめると、(1)原油高への対応、(2)食料やエネルギーなどの安定供給に向けた調達先の多様化、(3)中小企業への資金繰り支援、(4)コロナ禍で困窮する人への支援強化――の4つが柱となるとみられる。

   与党の自民・公明両党からはさまざまな提案が出ている。たとえば、自民党は困窮世帯を対象に一律1人10万円の給付を求めている。また、電力の安定供給の確保に向け、「原子力を含め、あらゆる電源の最大限の活用を進めるべきだ」と、現在9か所で再稼働している原子力発電のさらなる拡大に踏み込んだかっこうだ。

   さらに、自民党はガソリン価格の上昇に備え、4月末までとしている補助金制度を5月以降も継続したうえで、必要に応じた補助金の増額も要求している。しかし、国民民主党などが要求している、ガソリン税などを免除する「トリガー条項の凍結解除」は見送られる公算が強いという。法改正が必要なうえ、国と地方に税収減をもたらすからだ。

日本経済はどこへいく?(写真はイメージ)
日本経済はどこへいく?(写真はイメージ)

   一方、公明党は緊急経済対策の財源確保のため、「しっかりした対応が必要だ」(山口那津男代表)として補正予算の編成を強く求めている。しかし、自民党側はあくまで「予備費の活用」で行いたい考えだ。というのも、国政選挙前に補正予算を組むと、選挙対策との批判を浴び、選挙結果が厳しくなるという「ジンクス」があるからだ。

   過去、選挙前に補正予算を編成した宮沢喜一政権は1993年衆院選で過半数割れに追い込まれ、日本新党を中心とした野党勢力が結集して細川護熙政権が誕生した。橋本龍太郎政権も1998年参院選で惨敗、橋本首相の退陣につながった。また、麻生太郎政権は2009年衆院選で大敗、民主党に政権交代を許した...といった案配なのだ。

   そんなわけで、岸田文雄首相が焦点になっている補正予算を組むのかどうか。また、緊急経済対策がどんな中身になるのかが注目されているが、エコノミストの目は...。

長期金利の変動幅拡大のメリットとは

   ガソリン対策の補助金などを使った物価支援では「痛み止めを飲むような一時的な効果しか見込めない」とするのは、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏だ。熊野氏のリポート「政府の物価対策の考え方~1回切りの財政支援では限界~」(4月15日付)のなかで、その理由をこう述べている。

「参議院選挙が7月にあるとしても、もっと長い期間を視野に入れた物価対策であったほうがよい。インフレは一時的ではなく継続的なものだからだ」

   そして、賃上げが遅れている中小企業を対象に具体策を提案した。

「昨年(2021年)末に決めた賃上げ促進税制を拡充することは一案として考えられる。今、中小企業は仕入コストの上昇によって赤字転落の懸念を抱いている。現状、赤字企業には還付されないことになっている。だから、賃上げによって法人税が還付される仕組みを、たとえ赤字の場合であっても繰り越しで還付できるようにすればよい」

   ちなみに、賃上げ促進税制とは今年4月から始まったものだ。従業員の給与支給額が前年度より一定程度多くなった企業が、法人税などの税額控除を受けることができる制度である。しかし、もともと中小企業の大半は赤字で、法人税を払っていないところが多いから、メリットに乏しいという問題点があった。

日本銀行は長期金利の変動幅拡大を
日本銀行は長期金利の変動幅拡大を

   また、熊野氏はこう続ける。

「中小企業の賃上げを促進しようとすれば、赤字の不安を抱えている企業でも、減税効果を使えるようにすることが望ましい。最近のサービス業の状況をみると、人手不足がさらに深刻化している。まん延防止措置の解除後も、営業時間を21時から22時までしか延長しない飲食店も目に付いた。その理由を聞くと、従業員が集まらず、やむを得ず営業終了を早めているという」

   もう1つ、熊野氏が起爆剤として提案するのは、長期金利の変動幅拡大だ。

「エコノミストのほとんどは、日銀が物価上昇を促して、政府が財政支出を増やして物価対策を打つのは矛盾していると思っている。(中略)一発で即効性がある対応は、日銀は長期金利の変動幅を0.25%から0.50%へと拡大することだ。円安ペースは間違いなく鈍る」
「長期金利上昇にはメリットがある。個人の資産運用の利回りを上げることだ。2022年度は、年金生活者への支給額が前年比マイナス0.4%も下がる。年金生活者は、年収以上の金融資産を保有する人が少なくない。例えば、個人向け国債の利回りが、0.4%程度まで上がっていくと、その運用益で年金不足をいくらかは穴埋めできる。資産を持っている高齢者には、1人5000円を配るよりも、運用益の恩恵が大きい人がいるかもしれない」

   最近発行された個人向け国債145回債の利回りは0.13%しかないから、0.4%まで上がれば御の字だろう。

ウクライナ情勢にかこつけた参院選挙対策なのか?

   一方、「そもそもこのタイミングで緊急経済対策が必要であるかは疑問だ」と指摘するのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。

   木内氏のリポート「緊急経済対策ではトリガー条項と補正予算が大きな争点に」(4月15日付)のなかで、いま緊急経済対策を行っても「経済効果は限られる」として、こう説明する。

「緊急経済対策のうち、最も多くの支出があてられ、経済効果も大きくなるのはコロナ禍で困窮する人への支援強化、だろう。そこで、5兆5000億円の予備費から仮に3兆円程度がこの生活困窮者への給付金にあてられると考えよう。内閣府の試算によれば、2009年の『定額給付金』では、給付金のうち25%程度が消費に回った。一時的な所得は、給与所得などと比べて消費に回る割合は小さくなるのである」
ガソリン税の補助金支援は「一時的な痛み止め」?(写真はイメージ)
ガソリン税の補助金支援は「一時的な痛み止め」?(写真はイメージ)

   過去(2009年)の「定額給付金」のケースから推計すると、給付金の約4分の3が貯金に回ってしまう。結局、自民党案のように困窮世帯に一律1人10万円の給付金を支給しても、1年間の名目GDP(国内総生産)を0.13%押し上げる効果を持つだけだ。

   また、緊急経済対策に含まれる可能性が高いガソリン補助金制度のGDP押し上げ効果は、プラス0.01%~0.03%と試算される。「両者を足し合わせても、その景気浮揚効果は限られよう」というわけだ。

   木内氏が、いま緊急経済対策を行ってもあまり意味がないとしてあげる理由はほかに3つある。

   (1)オミクロン株の拡大で今年1~3月期の実質GDPは前期比でマイナスに陥ったとみられるが、まん延防止等重点措置の解除を受けて、4~6月期にはプラス成長に戻る可能性が見込まれる。

   (2)ウクライナ問題という予想外の事態が生じたが、物価高の問題はそれ以前から続いてきた。しかも原油価格は、コロナ問題を受けて昨年から上昇してきた幅と比較すると、ウクライナ問題で上昇した幅は決して大きくない。

   (3)本来、生活困窮者への支援は、常設の社会保障制度の中で行われるべきで、一時的な給付金はあくまでも例外的な措置のはずなのに恒常化しているのではないか。常設の社会保障制度がセーフティーネットとして十分に機能していないのなら、その制度を見直すことを優先すべきだ。

   そして、こう指摘している。

「これでは、ウクライナ情勢を機会として捉え、参院選挙を意識した経済対策を実施しようとしていると批判されても仕方ないのではないか」「いたずらに財政支出を拡大させ、財政環境を一段と悪化させないためには、せめて予備費の範囲内での経済対策にとどめて欲しいところだ」

(福田和郎)

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