2024年 4月 25日 (木)

岸田首相の「新しい資本主義」実行計画、「アベノミクス回帰」の評価もっぱら 格差是正、「分配」重視はどこへ?

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   岸田文雄首相の看板政策「新しい資本主義」の実行計画が決まった。人への投資、資産所得倍増などを打ち出し、経済成長に重点を置く内容で、政権発足当時に強調した「分配」重視の姿勢が後退し、「アベノミクスへの回帰」との評価がもっぱらだ。

  • 「新しい資本主義」の行方は?(写真はイメージ)
    「新しい資本主義」の行方は?(写真はイメージ)
  • 「新しい資本主義」の行方は?(写真はイメージ)

人、技術、新興企業、脱炭素・デジタル化...4本柱への重点的な投資

   2022年6月7日、「経済財政運営の基本方針(骨太の方針)」とともに閣議決定された新しい資本主義の中身を確認しておこう。

   格差拡大や気候変動などの社会問題について、「新たな官民連携」で解決を目指しながら経済成長にもつなげるとの目標を掲げた。そのために、(1)人、(2)科学技術・技術革新、(3)スタートアップ(新興企業)、(4)脱炭素・デジタル化――の4分野に重点的に投資する方針を明記した。

   人への投資では、企業に賃上げを促すのに加え、貯蓄に偏る個人金融資産を投資に振り向け、「企業価値の向上の恩恵が家計に及ぶ好循環を作る」と強調。「資産所得倍増プラン」を年末に策定するとして、少額投資非課税制度(NISA)の抜本的改革や、個人型確定拠出年金(iDeCo)制度の加入上限の65歳以上への引き上げなどの検討を盛り込んだ。

   さらに、成長分野に人材が集まりやすくするため、転職やキャリアアップを後押しする体制整備も重視し、3年間で計4000億円規模の施策パッケージをまとめ、非正規雇用ら100万人を対象に学び直しや再就職支援を実施するとした。

   スタートアップ支援では、5か年計画を22年末に策定。また、脱炭素は、新たな国債「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」(仮称)を創設。政府が調達した資金で再生可能エネルギーなどの分野の民間投資を支援し、10年間で官民合わせて150兆円の投資を目指すことも盛り込んだ。

   分配については、すでに取り組む賃上げ税制の拡充に触れたが、富裕層を想定した金融所得課税の強化などには触れなかった。

総裁選などで言及した「金融所得課税強化」に市場反発

   首相は就任前後には、格差是正を明確に語っていた。

   2021年10月8日、衆参両院の本会議で、初めての所信表明演説に立ち、「私が目指すのは新しい資本主義」だと宣言。新自由主義的な政策が、「富めるものと、富まざるものとの深刻な分断を生んだ」と指摘し、「成長と分配の好循環」を訴えた。

   成長と効率を優先する新自由主義的な経済政策とされたアベノミクスによって、非正規雇用が4割を占めるまでに増えるといった日本経済のひずみを是正しようという意気込みを語ったのだ。

   ところが、その「目玉」の金融所得課税の強化でつまずく。

   分配政策として、総裁選などで言及したが、これが投資にはマイナスと受け止められた。日経平均株価は新政権発足を挟んで8営業日連続で下落、ツイッターで「岸田ショック」がトレンド入りした。このため、金融所得課税は棚上げされ、引き続き検討課題としてはいるが、今回の実行計画にも入らなかった。

   この間、安倍晋三元首相は、自身の経済政策であるアベノミクスを否定するような動きを強くけん制し、財政運営などに直々に注文を付けてきた。

   今回の実行計画は、そうした圧力に押された結果といえる。「人への投資」も、分配政策の一つとの位置づけだが、「政策の重点が非正規など弱者の不安解消より、成長戦略の一環に変質していった」(大手紙政治担当論説委員)との見方もある。

参院選で勝ったら、岸田カラーは発揮されるか?

   今回の実行計画は、閣議決定に先立って5月31日の政府の「新しい資本主義実現会議」で実質的に決まった。

   大手紙は、6月7日の閣議決定の際は、骨太の方針、特に防衛費増強などを大きく扱い、新しい資本主義については「実現会議」での決定を受け6月1日朝刊で大きく報じた。

   ここで、各紙が一斉に指摘したのが「格差是正の後退」だ。

   与党支持の論調が目立つ産経新聞が「『分配』後退『投資』前面/アベノミクス追従 市場は安堵」(3面)、読売新聞も「成長力底上げ重視/分配戦略 影ひそめ」(3面)などの見出しを掲げたほど。

   他紙も、「新しい資本主義 変質/安倍・菅政権と差別化 『分配』は――成長に重点」(朝日新聞3面)、「分配かすみ成長回帰」(毎日新聞3面)、「『資産所得倍増』に転換/格差是正 かけ離れ」(東京新聞3面)といった具合だ。

   社説でも各紙論じている。

   たとえば、産経新聞の「主張」は

「より抜本的に格差是正を図るには、高所得層への富の偏在を抑制できるよう、税制などを通じた所得の再分配を併せて講じる必要があろう。岸田政権はそこまで踏み込もうとはしない。......これで『新しい資本主義』といえるのか。看板ばかりが先行するようでは国民の理解は得られないと厳しく認識しなくてはならない」

と、異例ともいえる書きぶりだ。

   唯一、日本経済新聞だけは、金融市場を代弁する形で、

「分配政策に偏重しがちだった岸田政権が経済の底上げを重視し、競争力を高める投資を促す方針を出したことは一定の評価ができる。......分配の原資となる成長の実現を優先する姿勢は正しい」

と、評価したのが目立った。

   岸田首相の姿勢について、「いまは安倍氏に恭順の意を示し、参院選で勝ったら、岸田カラーを発揮していこうということではないか」(政界筋)との分析もあるが、格差是正にどこまで取り組むのか。

   逆に、「金融所得課税への市場の警戒心はなお根強い」(市場関係者)とも言われ、かじ取りは予断を許さない。(ジャーナリスト 岸井雄作)

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