2024年 5月 3日 (金)

参議院選、各党「場当たり的」物価対策にエコノミストが逆提案! 「円安メリット活用」「従業員持ち株で賃金アップ」を

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NISAやiDeCoより、従業員に株式報酬制度

   ところで、岸田文雄政権が参議院選挙の旗印にした「新しい資本主義」の中には「賃上げ」と「資本所得倍増」の2つが掲げられているが、企業経営者の立場からは矛盾するという。はたして実現可能なのだろうかと、疑問を投げかけるのが東京財団政策研究所研究主幹の森信茂樹氏だ。

   森信氏のリポート「『新しい資本主義』、『賃上げ』と『資本所得倍増』の二兎を追うことは可能か~株式報酬の可能性」は、この二律背反するテーマをこう説明する。

「『新しい資本主義』と『骨太2022』を注意深く読むと、前者は、企業行動として従業員優先・賃上げを志向する一方、後者は株主優先・資本所得倍増を志向しており、方向が異なるようにも読める。(中略)『新しい資本主義』にはしっかりした総論がないので、企業経営者としては、賃上げか配当増加か、どちらを優先させるべきか迷ってしまう」

   図表は2000年度と2020年度の大企業の財務の動向を比較したものだ。これを見ると、人件費はまったく増えていないことがわかる。しかし、株主への配当金は5.8倍に増え、内部留保も2.8倍に増加した。大企業は従業員より株主を大事にしているわけだ。

(図表)大企業の財務の動向(東京財団政策研究所の作成)
(図表)大企業の財務の動向(東京財団政策研究所の作成)

   そこで、森信氏はこう続ける。

「賃上げも行い、資産所得(配当)も伸ばすという、企業から見れば方向の定まらない行動を矛盾なく行う方法がないわけではない。それは、従業員持株会制度の拡充、さらには従業員への報酬として株式を支給することである。従業員が、退職まで売却できない譲渡制限付き株式を賃上げ分として受け取れば、勤労インセンティブも高まるうえ、企業の利益分配の受け手になるので、『賃上げも資産所得増加も』ということになる」

   経営陣に対しては、東京証券取引所も「自社株報酬」の導入を推奨しており、取締役以外の一部従業員にも広がりつつあるという。また、従業員持株会と信託を組み合わせたESOP(Employee Stock Ownership Plan)信託を採用する企業も出ている。

   森信氏は、日本経済新聞(2021年11月1日付)が報じた、化学メーカー「ダイセル」(大阪市北区)が管理職に自社株を報酬の一部として与える制度を導入した例を紹介した。記事によれば、生涯賃金が1000万円増になるという。

   森信氏は、

「従業員持ち株制度や株式報酬制度は、税制と極めて密接な関係にある。税制優遇などのインセンティブが必要ということであれば、勤続年数 20 年以上で退職所得控除額が優遇される退職金税制を見直し、勤続年数に関連付けることのない仕組みに改めることとセットで行えばよいのではないか。(中略)NISAやiDeCoの拡充だけで個人の資産所得が倍増するとは思えない。視野を広げて見直すことが必要だ」

と、岸田政権に注文をつけることを忘れなかった。

(福田和郎)

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