2024年 4月 19日 (金)

世界が注目!「ジャクソンホール会議」パウエルFRB議長、何を語る? サプライズあるか、無風か、市場は固唾を飲むが...エコノミストはこう予想

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   世界同時景気後退が懸念されるなか、注目の会議が今週末、米国で開かれる。「ジャクソンホール会議」だ。

   そこで、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が何を発言するのか、世界中の金融市場関係者が固唾を飲んで見守っている。

   いったいなぜか。世界経済はどこにいくのか。エコノミストたちの予想と分析を読み解くと――。

  • ジャクソンホール会議に注目する米ニューヨーク証券取引所
    ジャクソンホール会議に注目する米ニューヨーク証券取引所
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金融市場を揺るがすサプライズが起こる因縁の会議

パウエル米FRB議長(FRB公式サイトより)
パウエル米FRB議長(FRB公式サイトより)

   通称「ジャクソンホール会議」は、米カンザスシティー地区連邦銀行が毎年8月下旬にワイオミング州ジャクソンホールで開く経済シンポジウムだ。8月25日から27日の3日間にわたって開かれる会議には、各国中央銀行トップや経済学者などが集い、26日にパウエルFRB議長の講演が予定されている。

   金融市場が同会議のパウエル議長の発言に注目するのは、歴代FRB議長が金融政策の新たな方針について、重要なメッセージを発信する場になっているだけではない。過去に、金融市場を揺るがすサプライズがたびたび起っているからだ。

   たとえば2010年、ベン・バーナンキFRB議長(当時)が突然、量的金融緩和策の第2弾実施を示唆したため、世界の金融市場に大混乱を与えた。日本銀行の白川方明総裁(当時)が会議を中座して緊急帰国、臨時の金融政策決定会合を開いたほどだ。

   パウエル議長自身にも苦い教訓がある。昨年(2021年)の会議で、同年春から加速傾向を示してきた物価上昇率の高まりを「一過性のものにとどまる可能性が高い」と断じて利上げに慎重な姿勢を示した。

   この発言が後に「物価上昇のリスクを見逃し、FRBの利上げが遅れることにつながった」と強い批判を浴びことになった。そのこともあって、FRBは今年3月からハイペースで利上げを進めているわけだ。

   さて今回は、パウエル議長の講演にサプライズはあるのだろうか。米国の経済専門メディアの報道を見ると――。

   ロイター通信(8月23日付)「アングル:米株、ジャクソンホール無風通過へ オプション市場予想」では、「この会議では誰も大きなサプライズを予想していない」というアナリストの分析を紹介している。

   一方、ブルームバーグ(8月22日付)「パウエルFRB議長のジャクソンホール講演、市場の期待修正の好機に」では、「9月の利上げ幅を示唆することはおそらく控える見通しだ」という無風に収まるとの見方と、「議長はおそらく強硬路線を維持するだろう」という、やや波乱を予想する2つの見方を示した。

非常に強いタカ派色を打ち出す可能性は低い?

どうなる、世界経済?(写真はイメージ)
どうなる、世界経済?(写真はイメージ)

   日本のエコノミストたちの見方はどうか。

   「パウエル議長は前回の汚名を晴らすためにタカ派色の強い発言をするのでないか、という見方が金融市場で広がっているが、疑問だ」とするのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。

   木内氏はリポート「金融市場の注目が高まるジャクソンホール」(8月23日付)のなかで、非常に強いタカ派色を打ち出す可能性は低いとする理由をこう述べている。

「FRBは物価高に対する強い警戒を維持しており、景気を犠牲にしても物価高を定着させないという強い覚悟を持っていることは確かである。パウエル議長が今回のジャクソンホールで、物価高を警戒する姿勢を強調する可能性は相応に高い。
他方で、フェデラルファンズ(FF)金利が中立とみられる2.25%~2.5%の水準まで引き上げられたことで、利上げの出遅れ感はかなり解消された、とFRBは考えているだろう。そのため、後れを取り戻すための大幅利上げ姿勢から、経済指標次第で利上げ幅を調整する姿勢へと、FRBの方針が7月FOMC(米連邦公開市場委員会)で修正されたことは確かである。
また物価高騰が最悪期は過ぎたことを示す指標や、景気の減速を示す指標も確認され始めている。中国や欧州など海外の景気も下振れが見られ始めている。
これらの点を踏まえると、パウエル議長が非常に強いタカ派色を打ち出すことで、既に進んだ期待のさらなる修正を意図するかどうかは疑問である」

   ただし、9月20・21日の次回FOMCでの利上げ幅決定までには、8月分雇用統計、消費者物価統計など重要な経済指標の発表が続く。だから、現時点で利上げ幅を判断するのは難しい。したがって、パウエル議長講演後も、9月のFOMCでの政策対応を睨んで市場の観測はなお揺れ動く、と木内氏は結んでいる。

パウエル議長発言より、その後の経済指標に注目せよ

米国のインフレはピークを超えたか?(写真は米国国旗)
米国のインフレはピークを超えたか?(写真は米国国旗)

   「パウエル議長は、利上げ継続が適切、ペースはデータ次第など、従来通りの見解を示すだろう」とみるのは、三井住友DSアセットマネジメントのチーフマーケットストラテジスト市川雅浩氏だ。

   市川氏のリポート「米ジャクソンホール会議直前のチェックポイント」(8月23日付)でも、野村総合研究所の木内登英氏と同様に、今後発表される重要な経済指標に注目している。図表1のスケジュール表がそれだ。

(図表1)米の主な雇用と物価の指標とFOMCの予定(三井住友DSアセットマネジメントの作成)
(図表1)米の主な雇用と物価の指標とFOMCの予定(三井住友DSアセットマネジメントの作成)

   市川氏はパウエル発言をこう予想する。

「まず、最近のパウエル議長の発言を振り返ると、7月27日の米連邦公開市場委員会(FOMC)終了後の記者会見で、『継続的な利上げが適切と考えるが、ペースは今後の指標や経済見通し次第』、『金融政策のスタンスがさらに引き締まるにつれ、経済やインフレへの影響を評価しつつ、利上げペースを緩めていくことが適切』と述べています。
次に、8月17日に公表された7月FOMCの議事要旨をみると、7月27日のパウエル議長の発言は、FOMC参加者の考えであることが確認できます。以上を踏まえると、パウエル議長は今回の講演で、インフレ抑制のため利上げ継続は適切としつつ、利上げのペースはデータ次第で、利上げ効果浸透ならペース減速が、ある時点で適切になるという、従来通りの見解が示される公算が大きいと思われます」

   その場合、9月以降の利上げペースを推測するのに重要なのが図表1だ。市川氏はこう続ける。

「9月FOMCでの利上げ幅について、市場では 0.5%か0.75%かで見方が分かれていますが、雇用や物価のデータ次第ということであれば(=図表1参照)、今回のパウエル議長の講演だけで見方が定まることは難しいとみています」
「あくまで1つの目安ですが、期待インフレ率(=図表2参照)の安定が続けば、9月FOMCでの利上げ幅は0.5%、その後の利上げ幅は縮小に向かう可能性が高まり、上昇が続けば、9月は0.75%、その後も大幅利上げ継続となる可能性が高まると考えています」
(図表2)米期待インフレ率の推移(三井住友DSアセットマネジメントの作成)
(図表2)米期待インフレ率の推移(三井住友DSアセットマネジメントの作成)

   いずれにしろ、ジャクソンホール会議後の経済指標の動きに注目だ。

年末に向け、インフレ圧力緩和につながる兆しがみられるが...

米でさらに利上げが進むと円安が加速するが...(写真はイメージ)
米でさらに利上げが進むと円安が加速するが...(写真はイメージ)

   さて、「ジャクソンホール会議」のパウエル発言について、2本のリポートを発表、多角的に分析しているのが野村アセットマネジメントのシニア・ストラテジスト石黒英之氏だ。

   石黒氏はリポート「ジャクソンホール会議と米物価動向(上)」(8月23日付)と、「ジャクソンホール会議と米物価動向(下)」(8月23日付)の中で、さまざまな最近の米経済指標を分析している。なかでも、インフレ圧力が和らいでいく期待を持たせるデータの1つとして注目したのが、全米ガソリン平均小売価格だ=図表3参照

(図表3)全米ガソリン平均小売価格(野村アセットマネジメントの作成)
(図表3)全米ガソリン平均小売価格(野村アセットマネジメントの作成)

   石黒氏はこう説明する。

「米家計の負担となってきたガソリン価格の上昇に一服感がみられていることも支援材料です。実際、全米ガソリン平均小売価格は、6月高値から直近で20%超下落しています(=図表3参照)。 商品、財価格の視点からは、年末に向けてインフレ圧力の緩和につながる兆しがみられており、過度な金融引き締め姿勢が徐々に和らいでいく可能性を示しているといえます」

   そして、ジャクソンホール会議でのパウエル発言についてこう予測するのだった。

「ジャクソンホール会議では、FRBのパウエル議長がインフレ抑制に向け積極的な利上げを行なう姿勢を示すとみられます。ただ、一方で景気をふかしも冷やしもしない中立金利を大きく上回る水準にまで利上げを行なうことで、来年以降、FRBに利上げ停止の政策余地が生まれることも事実です。インフレや労働市場データなどを見極めながら冷静に投資していくことが求められそうです」

   さて、注目のパウエル議長の講演が始まるのは米国時間で8月26日(金曜日)午前10時、日本時間では同午後11時だ。サプライズがあるかどうか、詳細が日本に伝わるのは27日(土曜日)の未明にかけてとなるが、週明けの株式市場にどんな影響を与えるのだろうか。

(福田和郎)

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