2024年 5月 7日 (火)

銀行取引のない世界...「金融排除」とは何か?

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   本書「金融排除」(幻冬舎新書)のタイトルを見て、初めて「金融排除」という言葉を知る人も多いだろう。

   担保と保証がない事業者に金融機関が貸し出さないことを指すが、顧客基盤が先細り、自らの収益力さえも失いつつある地方銀行や第二地銀、信金信組の問題につながっているという。

   銀行取引のない世界とはどのようなものか。そこから回復した実例を紹介、事業者と金融機関双方に示唆を与える内容だ。

「金融排除」(橋本卓典著)幻冬舎新書

   著者の橋本卓典さんは共同通信社経済部記者。金融庁などを担当。著書に「捨てられる銀行」などがある。

「救う金融があれば、人は何度でも立ち上がれる」

   本書の最大の特徴は、地方の多くの事業者の実例を紹介していることだ。

   肥料、農薬(酢以外)、除草剤を使用しない自然栽培による「奇跡のリンゴ」で知られる青森県の木村秋則さんを支えたのは、みちのく銀行のある行員だった。

   収入ゼロ、失敗を重ねるリンゴの自然栽培には何の見通しもない。他行からは「排除」された木村さんの熱意に負け、最適のアドバイスをして、融資を続けた。橋本さんはこう書いている。

「捨てる金融があったとしても、救う金融があれば、人は何度でも立ち上がれる」

   こんな実例もある。

   愛媛県今治市のタオルメーカー「IKEUCHI ORGANIC」は、オーガニック・コットン製品で知られるが、10年に及ぶ「金融排除」を経験した。売り上げの9割を占めるOEM(相手先ブランドによる生産)のうち、主要な卸先が倒産したため、代金が回収できず、民事再生法の適用申請を余儀なくされたのだ。

   メインバンクの支店長が変わると態度は豹変し、見捨てられた。一切の借り入れができなくなり、前金の支払いに応じてくれる取引先からの資金で、自転車操業を続けた。OEMを辞め、自社ブランドに絞り、付加価値の高い製品をつくることで、投資会社からの出資を受け、生き延びた。

   こうした実例を読むと、金融機関の「人」によって、貸し出す=「金融包摂」、貸し出さない=「金融排除」が行われているように思えるが、実態はどうだろうか?

「金融排除」が広がった3つの理由

   金融庁が「金融排除」に関心を持ち、調査を始めたのは、2016年、森信親長官時代のことだという。企業へのヒアリングとアンケート調査から、「信用保証協会の保証が得られなかったことで、金融機関から融資を断られたことがある」という回答が数%あったのだ。

   言い換えれば、「自分のところで融資(プロパー融資)することなどみじんも検討していない」ことを意味する。橋本さんはこう憤っている。

「自分だけが都合の良い条件で貸し出し、経営改善に何ら手を貸すことなく、状況が悪くなれば保証協会に弁済させて逃げ出す。さらに、その結果、保証協会も回収できなかった分は国民負担にツケを回す金融とは一体何か」

   金融排除はなぜ広がったのか。地域金融に詳しい一般社団法人地域の魅力研究所の多胡秀人代表理事の証言を紹介している。

1 不良債権問題で痛手を負い、その反動でリスクを取らない体質になった。
2 信金信組といった協同組織金融機関の数が減ることで、零細層への貸し手がいなくなってしまった。
3 大盤振る舞いの政府保証 信用保証制度が肥大化し、金融排除の温床になった。

   次に、近年存続が問われる機会の多い第二地銀について論じている。

   無尽会社→相互銀行→第二地銀と形を変えてきたが、金融排除を広げる一つの要因になっているという。その理由をこう説明している。

「本来、第二地銀がメインターゲットとしていた、中小企業のうち比較的小規模な事業者や零細事業者のゾーンの経営改善や売り上げ貢献などの活動が曖昧となり、多くの第二地銀が担保と保証のある顧客に対して低金利融資競争を仕掛けるだけの存在になってしまったからだ」

「見捨てない金融」の好例...広島の地域金融エコシステム

   後半は、「見捨てない金融」に焦点を当て、驚異のスピードで融資決済をする広島市信用組合などを紹介している。

   「シシンヨー」と呼ばれる同信組の融資決済は、3日以内だ。多くの金融機関では、稟議書作成、決裁印、会議、担保手続き、信用保証協会の手続きと数週間はかかるのに、なぜそんなに早く決済が可能なのか?

   全国のサービサー(債権回収会社)を活用して不良債権をまとめて売却する「バルク売却」を活用。回収業務を捨て去るという思い切ったビジネスモデルの特化に踏み切ったことを挙げている。

   広島銀行が100%出資した「しまなみサービサー」が、広島の地域金融エコシステムを支えているという。広島銀行から債権の管理・回収を受託しつつ、収益のほとんどを広島銀行以外からの債権買い取りによって稼ぎ出しているのが特徴だという。

   さらに、事業再生も手掛けているのが特徴だ。破綻状態にはないものの、融資契約通りに返済が困難になった債権「危険債権」を買い取り、事業再生のサポートやリファイナンス」に力を入れている。

   しまなみサービサーに債権を売却された企業に対して、その返済資金を融資し、事業再生につなげているのが広島県信用組合だ。サービサーを介したエコシステムが機能しているのが広島の地域金融の強みだ、と指摘している。

   このほか、中小企業の再生に取り組む京都信用保証協会や営業ノルマを排した京都信用金庫などを紹介している。

   ビジネス誌に登場するのはメガバンクや地銀の話が多い。第二地銀や信金・信組にふれた本書によって、地域金融の姿がほんの少し垣間見えたような気がする。

   橋本さんは、いま地方経済の問題は、「オーバーバンキング問題」に集約されて論じられているが、果たしてそうか、と問題提起する。地域金融機関を必要とする事業者は少なくない。コロナ禍のいま、その役割はさらに増しているのではないだろうか。

(渡辺淳悦)

「金融排除」
橋本卓典著
幻冬舎新書
924円(税込)

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