2024年 4月 30日 (火)

物価、円安加速でもっと上昇? 今週の日米中銀会議に注目...エコノミスト指摘「岸田政権打つ手なし」「物価高収まっても景気後退の波が」

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   物価上昇に歯止めがかからない。2022年9月20日に総務省が発表した消費者物価指数は、前年同月より2.8%上がった。バブル崩壊直後の1991年9月以来約31年ぶりの歴史的な高水準だ。

   折しも9月20日から22日にかけて、日本と米国の中央銀行が相次いで政策決定会合を開く。結果次第では円安が一段と加速、さらに物価上昇が進む恐れがある。

   いったい日本経済はどうなるのか。エコノミストの分析を読み解くと――。

  • 物価高はどこまで進むか(写真はイメージ)
    物価高はどこまで進むか(写真はイメージ)
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「明るい物価上昇」だった31年前との違いは?

   総務省の発表資料によると、家庭で消費するモノやサービスの値動きをみる8月の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)は、昨年同月より2.8%上昇した。消費増税の影響があった期間を除くと、バブル景気直後の1991年9月以来、30年11か月ぶりの上昇幅になる。2%を超えるのは5か月連続。

   物価上昇の主な要因はエネルギー価格の高騰で、「エネルギー」全体では昨年同月より16.9%の大幅な上昇となった。個別にみると、電気代21.5%、ガス代が20.1%、ガソリン6.9%、灯油18.0%と、それぞれ上がっている。

   また、生鮮食品をのぞく食料は4.1%上昇した。食用油39.3%、食パン15.0%、麺類5.0%、輸入牛肉10.7%、チョコレート9.3%、ハンバーガー(外食)11.2%など。いずれも原材料費や物流費の上昇を受けた。ルームエアコン12.5%、電気冷蔵庫5.9%など家電製品も値上がりしている。

高すぎてスーパーの買い物でも迷う(写真はイメージ)
高すぎてスーパーの買い物でも迷う(写真はイメージ)

   ただ、同じ2.8%の上昇率だった31年前の1991年9月と現在とでは様相が異なる。朝日新聞(9月21日付)「『明るい物価上昇』今は昔」によると、バブル崩壊直後だったが、まだ好景気の余韻があった。賃金がどんどん上がっていたのだ。

「1991年通年で見た賃金の上昇は物価上昇を上回り、実質賃金は1.1%上昇していた。(中略)だが、今年7月は1.3%減と4か月連続で前年同月を下回り、家計の負担ばかり増している」

   朝日新聞は、「明るい物価上昇」の象徴として、輸入果物卸売り社長のこんなコメントを紹介している。「業績好調で働き手が足りなかった。当時は人手不足だったため、新入社員の初任給も毎年1万円ほど引き上げた。上がった人件費の分を価格に転嫁しても、売り上げは右肩上がりだった」

インフレ収まる代わりに「景気後退」の波が

物価高、いつまで続く?(写真はイメージ)
物価高、いつまで続く?(写真はイメージ)

   さて、今回の消費者物価2.8%上昇、エコノミストたちはどう見ているのか。

   日本経済新聞オンライン(9月20日付)「消費者物価指数8月2.8%上昇 30年11か月ぶりの上昇率」という記事に付くThink欄の「ひと口解説」コーナー欄では、第一生命経済研究所首席エコノミスト永濱利廣氏が、

「背景には、これまでインフレ率押し上げの主因となってきた電気代に食料品値上げの加速や携帯端末の大幅値上げが加わったことがあり、明らかに全国のインフレ率は加速したことになります」

と説明。

「しかし、すでに1次産品の国際商品市況はピークアウトしていますので、来年以降のインフレ率は低下に転じる可能性が高いでしょう。来年にかけて世界経済は減速が強まる可能性が高く、そもそも日本は海外と異なり需要不足です。このため、来年以降は輸入物価の押し上げ圧力の低下により日本の物価上昇率は低下に転じ、全国のインフレ率も0%台まで下がるとみられます」

と、インフレが収まる代わりに、景気後退の波をかぶる可能性を示唆した。

   同欄では、学習院大学経済学部の鈴木亘教授(社会保障論)も、日本経済の需要不足の深刻さをこう強調した。

「世界的には、物価上昇率をみる基本指標は、生鮮食品とエネルギーを除くコア指数(日本ではコアコア指数と呼んでいる)である。これが、まだ1.6%の上昇率に過ぎないことこそが、驚くべきことであり、強調すべき情報である。
企業物価指数の上昇率は既に9%台で、1年近く高い上昇率が続いているにもかかわらず、消費者物価になかなかハネない。よほど需要が弱く、企業が最終財の価格に転嫁できない状況で、消費者のデフレマインドも強固であるということであろう。まだまだ、金融緩和の継続が必要なのである」

少なくとも年内は3%増の物価上昇が続く?

電気ガス代の家計負担が大きい(写真はイメージ)
電気ガス代の家計負担が大きい(写真はイメージ)

   一方、ヤフーニュースのコメント欄では、三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主席研究員の小林真一郎は物価高が長引くと予想した。

「物価上昇圧力に衰えはみえません。食料やエネルギーなど身近なものを中心に上昇が続いており、食料品で同4.7%上昇、エネルギーで同16.9%も上昇しています。ガソリン価格はピークアウトしていますが、電気代、ガス代の上昇幅が拡大したことでエネルギーの上昇幅は先月より拡大しています」

   こう指摘したうえで、

「原油価格が下落に転じるなど川上の物価上昇圧力は徐々に弱まっていますが、川下に波及するには時間がかかるうえ、足元では円安や品不足の影響もあってエアコンなど耐久財が同5.0%も上昇するなど様々な分野に価格上昇の動きが広がっています。少なくとも年内は総合で3%程度の伸びが続く可能性が高く、個人消費の回復を遅らせることが懸念されます」

との見方を示した。

   これに対して同欄では、第一生命経済研究所主任エコノミストの藤代宏一氏がやや明るい見方を示した。

「現在の消費者物価は輸入物価上昇を主因としていますので、好ましいとは言えません。他方、賃金上昇を起点とするインフレが年2%程度で進行することは理想的です。では、それをどのようにして見極めるか?それは財ではなくサービスの物価をみることが重要です」

   こう説明したうえでこんなデータを示した。

「その点、最近は意外にもサービス物価が少しずつですが上昇しています。代表例としては外食(8月は前年比プラス3.8%)、家事関連サービス(プラス2.6%)、教育関連サービス(プラス0.7%)、理美容サービス(プラス0.8%)などがあり、これらの背景には労働コスト増加があると考えられます。
人件費増加は(ミクロの)企業単位でみると好ましくありませんが、マクロでみるとむしろ好ましい事象です。現在の輸入物価上昇が一服した後に、どのようなインフレが観察されるか、細かく見ていく必要があります。必ずしも『インフレ=悪』とは限りません」

米国の利上げが一服するまで...岸田政権「打つ手なし」

パウエルFRB議長は大幅な利上げに踏み切るのか?(FRB公式サイトより)
パウエルFRB議長は大幅な利上げに踏み切るのか?(FRB公式サイトより)

   ところで、9月20日~21日(現地時間)にFOMC(米連邦公開市場委員会)が開かれ、FRB(米連邦準備制度理事会)が利上げ幅を決定する。0.75%を軸とした大幅利上げが避けられない情勢だ。一方、日本銀行も9月21日~22日に金融政策決定会合を開くが、こちらは金融緩和政策を維持するとみられている。

   日米の金利差がさらに拡大すれば、円安が加速し、物価上昇に歯止めをかけることがますます喫緊の課題となるが――。

   岸田文雄政権の物価高対策について、「もう打つ手がないのではないか」と厳しい目を向けるのは野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。

   木内氏はリポート「日銀に期待される物価高対策とは(8月消費者物価)」(9月20日付)のなかで、岸田政権が決めた輸入小麦の売り渡し価格の据え置きやガソリン補助金制度の継続、住民税非課税世帯に対する5万円給付などは、「やや消極的な対応」だし、「一時的に痛みを和らげる政策に過ぎない」と指摘する。

日本銀行は9月22日の金融政策決定会合でも金融緩和策を維持するか?(写真は日本銀行本店)
日本銀行は9月22日の金融政策決定会合でも金融緩和策を維持するか?(写真は日本銀行本店)

   そして、3月以降の円安進行が消費者物価をプラス0.4%押し上げているとして、円安対策が重要だと強調した。

「円安を通じた物価高が長期化するとの懸念も、個人の間で高まってきているだろう。賃金上昇期待が限られる中、物価高が長期化するとの懸念を個人が強めると、消費が大きく抑制されるリスクが高まる。この点から、物価高が長期化するとの懸念を和らげることも、経済の安定維持の観点からは重要だ」
岸田文雄首相は、物価対策にお手上げ状態?
岸田文雄首相は、物価対策にお手上げ状態?

   しかし、9月21日・22日に日本銀行は金融政策決定会合を開くが、金融緩和政策を頑として変えないだろう、と木内氏はみる。一方、FMOC(米連邦公開市場委員会)は9月21日(日本時間9月22日未明)の会議で大幅な利上げに踏み切るとなれば、ますます日米の金利差が広がり、円安は加速する。

   木内氏はこう結んでいる。

「円安が物価高を促し、物価対策の効果を減じてしまうことを政府は警戒している。(中略)政府に残された円安阻止の手段は外国為替市場での介入のみだ。しかし、為替介入実施に向けたハードルは高い。また仮に実施しても、単独での円買い介入は効果が限られる。
政府としては、米国で景気減速や物価上昇率低下の傾向が確認され、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ姿勢が軟化することで円安傾向が一服するのを待つしか手がないのが現状だろう」

   つまり、今のところ「お手上げ」というわけだ。

(福田和郎)

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