円安加速1ドル147円突破! どうなる世界経済? エコノミスト「米株価下落、リーマン・ショック時そっくり」、「ドル1強、金融危機招く」?

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   これでもう何度目だろうか、米ウォール街に衝撃が走った。2022年10月13日、米国労働省が発表した9月の消費者物価指数(CPI)が、金融市場の予想以上にインフレが深刻であることを示したからだ。

   ニューヨーク証券取引所の株価は乱高下を繰り返し、ドルが買われて円安が一気に進行、1ドル=147円後半をつけた。

   円安はどこまで加速するのか。また、米国経済、いや世界経済はどこまで減速するのだろうか。エコノミストの分析を読み解くと――。

  • 世界経済同時減速となるのか?(写真はイメージ)
    世界経済同時減速となるのか?(写真はイメージ)
  • 世界経済同時減速となるのか?(写真はイメージ)

ウォール街の前途に待ち受けている「波乱要素」

   米国労働省が9月の消費者物価指数(CPI)を発表した2022年10月13日、米国の経済ニュースメディアはウォール街の住人の驚きの声を紹介した。

   ロイター通信によると、JPモルガン・チェースのダイモン最高経営責任者(CEO)が、今のところ消費者の懐具合はしっかりしているので、あと9か月は経済の堅調が見込めるとしながら、「(4.5%を超える量的引き締めと、心もとないエネルギー供給が)非常に大きな波乱要素としてまさにわれわれの前途に待ち受けており、たやすくリセッション(景気後退)の原因となりかねない」と述べた。

   ブルームバーグによると、ナットアライアンス・セキュリティーズのインターナショナル債券責任者のブアンドルー・ブレナー氏が、「ぞっとするようなCPIの数字だ。米金融当局は1%の利上げを実施するのだろうか」と語っている。

経済指標発表のたびにパニックに陥る米ウォール街
経済指標発表のたびにパニックに陥る米ウォール街

   9月の消費者物価指数(CPI)は前年同月より8.2%上昇した。これは、事前の市場予想(8.1%上昇)を上回り、約40年半ぶりの大きさとなった6月の9.1%から3か月連続で縮んだ。だが、なお高い水準にあることは間違いない。

   とくに、変動の激しいエネルギーと食品を除く指数の上昇率は6.6%(市場予想は6.5%上昇)と、2か月連続で伸びが拡大した。1982年8月以来、40年1カ月ぶりの伸び率だ。賃金の上昇とともに家賃などのサービス価格が上昇しており、インフレは一段と根深くなっていることを裏付けた。

財務省幹部、介入について「言う時もあれば、言わない時も...」

ハイペースで利上げを続けるパウエルFRB議長(FRB公式サイトより)
ハイペースで利上げを続けるパウエルFRB議長(FRB公式サイトより)

   このため金融市場場では、米連邦準備理事会(FRB)が11月に0.75%、さらに12月にも0.75%と大幅利上げを継続するとの見方が強まり、日米の金利差が意識されて一気にドル買い円売りの動きが広まった。

   10月13日の外国為替市場では円安が加速、一時1ドル=147円66銭を付けた。政府・日本銀行が9月に円買いドル売りの為替介入に踏み切った1ドル=146円前後の「防衛ライン」を突破してしまった。

   1ドル=147円66銭は1990年8月以来、32年ぶりの円安・ドル高水準となる。日本経済は1991年にバブル崩壊を経験しているが、その入り口となった1990年の水準まで円の価値が落ち込んだわけだ。

   目下の焦点は、政府・日銀が再び為替介入に踏み切るか、あるいはすでに実施したのかだ。日本経済新聞の報道によると、財務省幹部は10月14日、記者団から「介入を実施するのか、もう実施したのか」と問われたが、「言う時もあれば、言わない時もある」と介入の有無の明言を避けたという。もっとも、市場関係者の間では「介入を実施しても効果は限定的なものになる」との見方も出ている。

「円安がスパイラル的に加速しそうな状況」

日米の金利差拡大が円安の大きな要因だ(写真は日本と米国の国旗)
日米の金利差拡大が円安の大きな要因だ(写真は日本と米国の国旗)

   さて今回の事態、エコノミストたちはどう見ているのか。

   ヤフーニュースのコメント欄では、日本総合研究所上席主任研究員の石川智久氏が、

「投資家の円売りドル買いの動きが足元で活発化してきました。また海外の記事などでは『グローバルな金利引き締めの中、日銀のみが金融緩和している』とするものも増えてきました。金利差に着目した円売りは当面続くと見られます。
また、円安を背景に海外の株や債券に関心を寄せる国内投資家も増えています。円安と国内投資家の外国金融商品投資がスパイラル的に加速しそうな状況です」

と、円安はさらに加速するとの見方を示した。

   日本経済新聞(10月13日付オンライン版)「米物価、9月8.2%上昇 エネ・食品除くと40年ぶり水準」という記事に付くThink欄の「ひと口解説コーナー」では、日本経済新聞社特任編集委員の滝田洋一記者が、

「クリーブランド連銀が発表しているインフレーション・ナウキャスト(足元予測)が、よく当たるとして注目を集めています。それによれば、10月の米コアCPIは前月比0.54%、前年同月比6.54%を予測しています。9月のコアCPIはそれぞれ0.6%と6.6%ですから、インフレ圧力は衰えないことを意味します」

と、今後の見通しを予測。つづけて、

「かくしてFRBは11月の0.75%利上げに続いて、12月の利上げ幅も0.75%となる、との見方が増えているのもむべなるかな。それにつれて、ドル相場が上昇するのも自然です。日本は金融緩和の我が道を行きますが、米国に追随利上げしている国々はあごが上がっています。国際金融市場には緊張が走ります」

と説明した。

米株価下落は「リーマン・ショック時に非常によく似ている」

株価が乱高下したニューヨーク証券取引所
株価が乱高下したニューヨーク証券取引所

   国際金融市場の緊張といえば、米国の株価の動向が世界的な金融危機を招いたリーマン・ショック時(2008年9月)に似ていると指摘するのが、三井住友DSアセットマネジメントのチーフマーケットストラテジスト市川雅浩氏だ。

   市川氏はリポート「過去の歴史的な下落局面と似た動きをたどる米国株」のなかで、現在の米国株は「弱気相場入り」をしているという。

   一般に、株価が直近の高値から20%下落すると「弱気相場入り」と解釈される。「コロナ・ショック時」も、米S&P500指数は20%を超えて、33.9%下落した。今回もこの約9か月間で25.3%下落しているが、値動きが「コロナ・ショック時」とはかなり異なり、「リーマン・ショック時」に「非常によく似ている」というのだ=図表参照

(図表)リーマン・ショック時のS&P500種株価指数(三井住友DSアセットマネジメントの作成)
(図表)リーマン・ショック時のS&P500種株価指数(三井住友DSアセットマネジメントの作成)
「(リーマン・ショック時には)S&P500指数は、2007年10月9日から2009年3月9日まで、約1年5か月にわたって下げ続け、下落率は56.8%に達しました。その後、S&P500指数がこの下げを埋めて、2007年10月9日の高値を更新したのは 約4年1か月後の2013年3月28日で、株価の回復までにかなり長い時間を要しました」

   そのS&P500指数の値動きと、今回の値動きを重ねると、よく似ていることが分かる=再び図表参照

   ただ、市川氏はこう指摘する。

「単純に値動きを比較しただけですので、ここから先、リーマン・ショック時のように、株価がさらに下落するとは限りません。しかしながら、特にアメリカでは今回、インフレはかなり粘着的で、なかなか落ち着く兆しがみられません。このような状況のなか、米金融当局も、手探り状態で大幅な利上げを継続しているため、ここから先、米金融当局や市場の想定以上に、米国の景気が悪化してしまう恐れはあります」

   リーマン・ショック時は、金融システム機能が著しく低下したため、株価の回復に4年超の時間を要した。

「今回は、インフレの問題はかなり深刻ですが、金融システムは正常であり(中略)S&P500指数が一段安となるリスクは残るものの、その後の株価の回復は、リーマン・ショックの時ほど長い期間はかからないとみています」

世界同時不況の危機をさらに招くドル1強状態

「強すぎるドル」にG7各国から不満の声が相次いだ(写真はイメージ)
「強すぎるドル」にG7各国から不満の声が相次いだ(写真はイメージ)

   リーマン・ショックといえば、国際通貨基金(IMF)が10月11日、世界経済が想定以上に減速している最新の「世界経済見通し」を公表した。来年(2023年)の実質成長率を前年比プラス2.7%になるとした。これは、リーマン・ショック(2009年)や新型コロナ(2020年)でマイナスに転じた年をのぞくと、2001年以来の低成長率だ。

   コロナから回復した昨年(2021年)のプラス6.0%に比べると、大幅の減速だ。世界経済を牽引して来た米国・中国・欧州の失速ぶりが目立つ。IMFは「2023年の成長率について、25%の確率でプラス2.0%を下回る」というより厳しいシナリオも示した。

   そんなデータから、「足下に世界同時不況が来ているのに、米国に金融政策が危機を招いている」と批判するのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。リポート「近づく世界同時不況の足音:強まるドル高の弊害と国際協調の揺らぎ(IMF世界経済見通し)」(10月12日)のなかで、FRBのタカ派姿勢によってドルの1強状態になり、金融の国際協調が揺らいでいるとの論調で、こう指摘した。

「物価高を助長してしまう自国通貨安に何とか歯止めをかけようと各国は躍起になっている。日本を除く主要国は、米国の急速な利上げに懸命に付いていくことで、対ドルでの自国通貨安を食い止めようとしているのである。
しかし多くの国、特に欧州の国々は、米国よりも景気情勢が厳しい。そうした中で米国の急速な利上げに追随すれば、国内景気は犠牲となってしまう。一方で、金融引き締めを控えて通貨安を容認すれば、それがもたらす物価高によって、やはり国内経済に打撃が及ぶのである。各国の政策はディレンマに直面している」
円安加速に手を打たない日本銀行本店
円安加速に手を打たない日本銀行本店

   そして、こう結んでいる。

「今後は、米国に対して急速なドル高やそれを引き起こしている大幅利上げ策の修正を求める声が、先進国からも高まるのではないか。しかし米国は、当面そうした声に耳を貸すことはないだろう。その場合、国際金融の分野では、先進国間の国際協調は揺らいでいく可能性がある」
「他方、ロシアのウクライナ侵攻以降、新興国と先進国の間には分断化の傾向が強まっており、世界経済の安定のために両者が協調する傾向は一気に薄れている。この2つの面での国際協調の揺らぎ、あるいは機能不全が、世界経済の見通しを一段と厳しいものとしている」

   「最悪はこれからだ」というわけだ。

(福田和郎)

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