2024年 5月 8日 (水)

「東芝」経営再建、JIP中核とする国内連合と「優先交渉」...最大の焦点は、資金調達できるかどうか?

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   混迷を続けてきた東芝の再建の道筋が定まるのだろうか。

   東芝が公募で検討している経営再建策について、国内ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)を中核とする企業連合に、優先交渉権を与えたことが明らかになった。

   JIPは複数の日本企業に東芝再建に向けた出資を要請しており、中部電力とオリックスが応じる方向と伝えられる。

   株価が再編を見越して高値で推移するなか、2兆円台半ばともいわれる資金を調達できるかが焦点となる。

  • 「東芝」経営再建の行方は?(写真は、東芝本社ビル)
    「東芝」経営再建の行方は?(写真は、東芝本社ビル)
  • 「東芝」経営再建の行方は?(写真は、東芝本社ビル)

9月30日、2次入札の複数候補から、詳細な意向表明書受け取る

   東芝は2015年の不正会計発覚以降、迷走を続けたのは文末の年表の通りで、J-CASTニュース 会社ウォッチも、末尾のバックナンバーのように報じてきた。

   これまでの経緯を振り返ると、債券の過程において、2017年に債務超過による東証上場廃止を回避すべく実施した6000億円の巨額増資で、アクティビスト(物言う株主)と呼ばれる海外ファンドが、大株主に名を連ねた。

   だが、経営陣はそうした株主との対話に失敗し、紆余曲折の末、実質的に自主再建を断念。その後、海外ファンドが株を売り抜けられる非上場化=第三者による買収の方針に転換した。

   22年5月には、外部から8件の再建計画の提案(1次入札)を受け、審査を経て9月30日、2次入札に進んでいた複数の候補から、詳細な意向表明書を受け取った、と発表していた。

   今回、そのうちJIPと先行して交渉に入ることにしたということだ。

JIP、20社程度での企業連合を提案か...中部電力、オリックス以外にも出資要請

   JIPは2002年に設立され、国内企業を対象に、事業の一部を切り出す「カーブアウト(事業分離)」に強みを持つ投資ファンドだ。

   ソニーのパソコン事業を買い取り、14年に「VAIO(バイオ)」を設立するなどの実績がある。みずほフィナンシャルグループ傘下にあったが、2012年3月期にグループから外れ、独立系ファンドとなっている。

   とくに、これまでの記事でも指摘してきたように、原発や防衛関連事業など、日本の安全保障に重要な事業を抱える東芝のような企業の買収は、改正外為法に基づく政府審査の対象になる。

   このため、外資だけの買収は事実上、困難とされる。そこで、国内勢として、官民ファンドの産業革新投資機構(JIC)中心に展開するとの見方が強かった。

   実際に、JIPも当初は、JICと連合を組んで1次入札をクリアした。

   しかし、非公開化後の経営を巡る考え方の違いから、連合を解消。JIPは今回、東芝との関係が深い日本企業を中心に、20社程度で企業連合を組む提案をした模様だ。

   具体的には、発電用の設備を東芝から調達するなど、取引がある中部電力が1000億円規模を出資する方針とされる。そのほか、オリックスは3000億円規模の出資の意向を示しているという。

   JIPはこのほか、JR東海や東レ、日本生命保険などにも出資を要請しているとされる。また、2次入札に進んでいる英投資ファンド、CVCキャピタル・パートナーズとの連携も検討しているという。

プレミアムを上乗せし、買収には2.5~3兆円必要か?

   そこで、最大の問題は、巨額の買収資金の確保になる。

   東芝の株価は2021年4月、英投資ファンドの買収構想を受け、3000円台後半から4000円台に水準が切りあがった。22年になってからは、非上場化=買収の可能性が高まるにつれて上昇基調をたどり、6月には6000円目前をつけるなど、すでに高水準にある。

   直近10月21日は5352円、時価総額は2兆3181億円。買収の場合、一定のプレミアムが上乗せされるのが常で、買収総額については、2兆5000億~3兆円の幅で、さまざまな報道が飛び交っている。

   JIP陣営が出資分をどれだけ積み上げているかは不明だが、金融関係者らは、出資が1兆円プラスアルファ、これ以外に必要になる借り入れが1兆5000億円プラスアルファと見ている。出資で不足する分は、金融機関の融資にめどをつける必要がある。

JIPに与えられたのは、「独占交渉権」ではない...官民ファンドのJIC巻き返しも

   ただ、JIPに与えられたのは優先交渉権で、「独占交渉権」とは異なる。

   東芝は他陣営とも並行して交渉でき、「現時点では、どの候補とも合意に達することを確約するものではない」との姿勢だ。

   JICは、やはり2次入札に進んでいる米投資ファンドのベインキャピタルと連携する考えとされる。ほかに、カナダの投資会社ブルックフィールド・アセット・マネジメントも2次入札に進んでいるが、外為法の規制を考えると、JIP陣営とJIC陣営の争いという構図になる。

   両陣営の再建計画の内容は不明だが、両陣営ともインフラ事業を中心にした再建を図る点は共通するとみられる。

   JIPはインフラ事業の取引先を中心に出資を募り、事業基盤を安定させる考えとみられる。一方、JIC陣営にベインが参画した場合は、ベイン主導で買収されたNAND型フラッシュメモリ製造の世界的大手、キオクシアホールディングス(旧東芝メモリホールディングス)を含む事業再編が視野に入ってくる可能性も指摘される。

   JIPに優先交渉権が与えられたとはいえ、最終的な落ち着き先は、まだまだ見通せない状況といえる。(ジャーナリスト 済田経夫)

<東芝年表>
2015年 4月 不正会計が発覚
2016年12月 米原発事業での巨額損失を公表
2017年12月 6000億円の第三者割当増資
2020年 1月 子会社で不正会計が発覚
2021年 4月 英投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズによる買収提案が判明/車谷暢昭社長辞任、綱川智会長が社長に復帰/CVCが買収提案を事実上撤回
2021年 6月 20年の株主総会の運営が不公正だったとの調査報告書公表/株主総会で永山治・取締役会議長らの取締役再任否決
2021年11月 会社を3分割する方針を公表
2022年 2月 3分割計画を2分割に修正
2022年 3月 綱川智社長が事実上引責辞任、島田太郎氏が後任に就任/臨時株主総会で2分割計画否決
2022年 5月 再建計画の提案締め切り、非上場化8件などの提案
2022年 6月28日 定時株主総会でファンド幹部2人を含む13人の取締役を選任
2022年 7月19日 国内ファンドなど4陣営が2次入札に進む
2022年 10月 JIPに優先交渉権

<J-CASTニュース バックナンバー>
「東芝」経営再建...「物言う株主」経営陣入り、非上場化の流れ加速か 企業価値高める「最善策」の模索続く(2022年07月3日付)
「東芝」経営再建、投資家から8件の「非上場化」提案...このまま買収の方向で進むのか? 今後を左右する3つの「論点」とは(2022年06月12日付)
いばらの道続く「東芝」経営再建の行方 「2分割」「非上場化」否決...またも戦略練り直し急務(2022年4月3日付)
可決するか? 東芝「2分割」案 臨時株主総会に向けて続く関係者間の激しい駆け引き(2022年2月22日付)
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東芝経営陣の正念場 「物言う株主」が揺さぶる「不利益な議決権行使」の実態解明のゆくえ(2021年3月27日付)
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