2024年 4月 25日 (木)

AI時代は「バブル」が増える...どういうこと?! 資本主義の未来予測

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   AI時代に資本主義について論じる本書「AI時代の資本主義の哲学」(講談社選書メチエ)が気になった。いったい、どういうことなのか? 企業で働くビジネスパーソンにとって、「資本主義」は大前提であり、空気や水のような「当たり前」のこととして受け入れているに違いない。本書は、資本主義の概念の変遷をたどりつつ、その未来を展望した本である。

「AI時代の資本主義の哲学」(稲場振一郎著)講談社選書メチエ

   著者の稲場振一郎さんは、1963年、生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得満期退学。岡山大学経済学部助教授などを経て、明治学院大学社会学部教授。専門は社会哲学。著書に「不平等との闘い」「経済学という教養」などがある。

   「AI時代の~」という枕詞に魅かれて手に取ったが、「はじめに」で、主題はAI時代の「資本主義の哲学」だと書いている。少し肩透かしだったが、「AI時代の資本主義」についても論じている。

資本主義とは「イノベーションが恒常化した市場経済」

   前半は、アダム・スミスやマルクスの議論を紹介しながら、資本主義の概念について、まとめている。マルクスは資本主義的市場経済が資本主義的階級社会を生み、資本家が支配階級となって労働者を搾取する、と論じた。そこでは「マイナスの評価語」の意味すら帯びていた。

   この資本主義vs.社会主義の対立の図式は、冷戦崩壊まで続いた。いまや、より価値中立的な言葉になり、資本主義は同時に、近代社会そのものと同一視されるようになったという。

   経済学者シュンペーターは、イノベーションつまり技術革新こそがダイナミックな経済としての資本主義の中核をなすものとして捉えた。

   さらに、稲場さんは社会主義体制の崩壊という歴史的経験を踏まえて、資本主義を「イノベーションが恒常化した市場経済」と位置づけている。

   なぜ、社会主義は資本主義に匹敵するイノベーションの実績を上げられなかったのか。こう説明する。

「資本主義体制での民間営利企業部門における、競争圧力からくるイノベーションへの動機づけが、社会主義におけるそれを大いに上回ったのだ」

独占的地位を享受したいという企業の動機が、イノベーションの源泉になったと指摘する。

AIやロボットによって「労働者のいない資本主義」になったら?...思考実験の結果

   後半ではいよいよ、AI時代の資本主義について論じている。そこで、「労働者のいない資本主義」の可能性を問うている。

   稲場さんは、前著「AI時代の労働の哲学」で、「機械に仕事を奪われる」という危惧は歴史上、何度も浮上したが、それらの予測は基本的に外れたと指摘。そして、人工知能があくまで「道具」に留まるなら、従来の機械化と同様に、私たちの社会を根本的に変えることはない、と結論づけた。

   本書ではさらに推し進めて、AIやそれを搭載したロボットによって、人間の単純労働だけでなく、「知的労働」までもがある程度代替されるような状況が出現したとき、私たちの社会はどう変化するのだろうか? という思考実験をしている。

   「労働者のいない・資本家ばかりの資本主義」においては、階級としての労働者は存在せず、不動産所有者と資本家ばかりがいるとしよう。ごく少数の無産者には、ベーシック・インカムのような最低生活保障がある。

   このとき、どんな問題が生じるのか?

   このような社会では、激減した労働需要に合わせて、労働供給も減る。つまり、かなり人口が減少すると予測する。人口が減少すれば、社会の中の文化的多様性は減少し、イノベーションの量も減り、生産性の上昇率も低下する。あまり、望ましくない未来のようだ。

「ギグ・エコノミー」での請負労働者が搾取されかねない問題

   最後に、機械学習が本格的に実用化されて以降の第3次AIブーム下での資本主義について考察している。

   そこで、浮上してきたのが、いわゆる「ギグ・エコノミー」の問題だ。「ギグ・エコノミー」とは、オンライン上のプラットフォームなどを通じて、短期的な労働を受ける市場のことだ。

   この「ギグ・エコノミー」の下では、ネットワーク上の外部労働市場のデータが潤沢となる一方で、企業内の仕事のシステム化と柔軟なロジスティックがAI化によって洗練されれば、外部から必要な人材を迅速に調達できる。そして、その人材にあらかじめ決まった仕事を確実に割り振ることも可能になるだろう。

   ここで個別の仕事を請け負う労働者は、雇用労働者とは異なり、指揮命令に服従する必要はない。結果だけを求める請負契約で、十分ということになる。しかしその代わり、生活を保障されることもない。

   請負契約による労働取引が今よりもさらに一般化すれば、情報的に不利な立場にある受注者たる労働者が搾取されかねない。

   さらに、このような請負労働者、新たな時代のフリーランサーたちは、かつての雇用労働者に比べて、企業から保護を受けられない半面、個人情報の方はもれなく吸い出されるだろう、と予想している。

   プライバシー保護のため、フリーランサー組合が必要になってくるかもしれないという。インボイス制度の導入をめぐり、フリーランサーが団結する動きがあるが、こうした事態を先取りしているのかもしれない。

   稲場さんはもう1つ、ある予想をしている。

   株式投資の最も合理的な方法として、インデックスファンドを買うのが流行している。しかし、機械学習によって個人投資家のほかに、大口投資家まで含めて、みんなが同じことをしたら......。AI時代にはそうやって、「バブル」が発生する可能性が増えるというのだ。稲場さんは哲学者だ。経済学者の予測を知りたいと思った。

(渡辺淳悦)

「AI時代の資本主義の哲学」
稲場振一郎著
講談社選書メチエ
1870円(税込)

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