2024年 5月 7日 (火)

「歴史的な成果」COP27、地球温暖化の被害支援「基金」設立へ...避けられてきた先進国の「責任と補償」が前進 だが、詳細は先送り、誰が負担するかも未定

   国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)が、地球温暖化の被害支援の基金設立に合意した。

   気温上昇を産業革命前から「1.5度」に抑えるための対策に関する議論では大きな進展はみられなかったが、地球温暖化の被害支援に特化した国際的な基金の設立は初めてで、温暖化の悪影響が世界中で顕在化する中で「歴史的」な成果とも評価される。

   ただ、基金の中身は今後の議論に先送りされ、どこまで実効あるものにできるかは見通せない。

  • COP27の成果は?(写真はイメージ)
    COP27の成果は?(写真はイメージ)
  • COP27の成果は?(写真はイメージ)

温暖化の悪影響から生じる「損失と被害」、議長国エジプト主導で主要議題に

   エジプト・シャルムエルシェイクで開催されていたCOP27は2022年11月20日、当初の予定から2日間延長し、合意文書「シャルムエルシェイク実行計画」を採択し、閉幕した。

   温暖化の悪影響に伴って生じた被害は「損失と被害(ロス&ダメージ)」と呼ばれる。

   先進国が先に二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスを大量に排出して経済成長し、豊かな生活を送る一方、途上国はほとんどCO2を排出していないし、経済的に貧しいまま。それなのに、温暖化の被害は多く受けている――という途上国の深刻な実態を示す言葉だ。

   途上国は1992年の条約締結当時から、海面上昇による水没の危機を訴える島しょ国などを中心に、損失と被害への対応(資金支援)を求めてきた。だが、先進国は「責任と補償」を恐れ、一貫して拒否してきた。

   そうした背景からか、これまではCOPの正式議題にすることも避けられていたが、今回は初めて主要議題にした。干ばつなど温暖化の影響を多く受けるアフリカの「代表」として、議長国のエジプトが主導したからだ。

合意した基金は、すでに発生した被害に対する支援に特化

   気候変動の問題に関しては、2015年のCOP21で、加盟国がCO2を削減していくことを約束したパリ協定が採択された。その中に、損失と被害への対応の重要性をうたう条項が設けられた。ただ、COP21の合意文書には、責任と補償の問題とは切り離して議論することも盛り込まれた。

   これまでも、途上国への資金支援の枠組みはあったが、CO2排出削減に重点を置くほか、温暖化に伴う被害の防止・軽減策に対する支援が中心だった。これらは、いわば、被害を避ける、あるいは被害に適応するための資金といえる。

   しかも、先進国側は2020年までに気候変動対策に1000億ドル(14兆円)を拠出すると約束しながら、実際の拠出額は20年に833億ドルにとどまるという「公約違反」もあり、途上国の不満が高まっていた。

   今回合意した損失と被害に対する基金は、すでに発生した被害に対する資金支援に特化した仕組みだ。温暖化に適応できず、避けられない被害に対し、代償を支払うということになる。

   先進国は「保障や責任につながる法的構造は作らない」(ケリー米気候変動問題担当大使)として、公式には認めていないが、実質的に「損害賠償」を認めたと考えていいだろう。

対象となる「特に脆弱な途上国」の線引き、「損失と被害」の定義など...論点多く

   ただ、新基金の詳細は何も決まっていない。

   基本枠組みを詰める専門の委員会(先進国10か国と途上国14か国で構成)を12月に発足させ、支援対象となる国や資金拠出の方法などを検討し、2023年11~12月のCOP28での採択をめざすが、議論の行方は不透明だ。

   今回の決定では、支援の対象を「気候変動の悪影響に対して特に脆弱な途上国」としたのは、対象を限定したい先進国側の主張を受け入れたものだが、具体的な線引きは未定だ。

   基金の対象になりそうな温暖化の影響に脆弱な途上国55か国が試算した過去20年のインフラなどの被害は総額5250億ドル(74兆円)に達し、これらの国々の国内総生産(GDP)の20%に相当するという。

   ただ、損失と被害の定義も、インフラや不動産だけでなく、生態系の被害も対象にするかなど、論点は尽きない。

EUは、中国の資金負担を主張も...各国の利害調整も課題

   最大の問題は、誰が資金を負担するかだ。

   第一義的には、先進国が出すのは当然。だが、欧州連合(EU)はCOP27の議論の中で、世界第2の経済大国で、CO2排出量世界1の中国も費用を負担すべきだと主張した。もっとも、中国は途上国のまとめ役を自認し、支払いを約束していないなど、各国の利害調整は一筋縄ではいきそうもない。

   そもそも、温暖化対策自体は、COP27ではほとんど進展はなかった。産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑える目標については、「さらなる努力を追求する」とのCOP26の表現を踏襲するのが精いっぱいだった。

   国連環境計画(UNEP)によると、現在、各国が掲げる目標を達成しても、気温上昇は1.5度を大幅に上回る2.4~2.6度に達する可能性が高い。

   そもそも、1.5度上昇でも、洪水にさらされる人口は世界で2倍に増えるとされる。また、世界銀行はこのままでは2050年までに、気候が原因の災害で避難を強いられた人は2億人超に膨らむと予測している。

   温暖化対策に残された時間は少ない。(ジャーナリスト 白井俊郎)

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