2024年 5月 1日 (水)

アフターコロナの価値観、明らかに...野村総研「1万人アンケート」で判明、これからの消費動向

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   野村総合研究所が継続的に行っている「生活者1万人アンケート調査」により、コロナ禍における消費者の価値観・意識・行動の変化が明らかになった。

   本書「日本の消費者はどう変わったか」(東洋経済新報社)は、調査結果をわかりやすくコンパクトに紹介したものだ。

「日本の消費者はどう変わったか」(野村総合研究所 松下東子・林裕之著)東洋経済新報社

   著者は野村総合研究所マーケティングサイエンスコンサルティング部・プリンシパルの松下東子さんと、同部・シニアコンサルタントの林裕之さん。

   「生活者1万人アンケート調査」は、1997年から3年ごとに行ってきた長期時系列調査で、2021年調査は9回目となり、足掛け24年にわたり、日本人の価値観・意識・行動の変遷をみてきた。

約1500万人がテレワーク経験 本格的テレワーカーは約340万人

   本書から、ビジネスパーソンの仕事にかかわることを中心に紹介しよう。

   調査では就業者6700人(15~79歳までの就業者)に対して、直近1年間のテレワーク実施日数を調査した。テレワークを1日でも実施した人は22%。総務省統計局の労働力調査によると、2021年8月時点(「生活者1万人アンケート調査」が行われた時期)における日本の就業者は約6700万人であることから、約1500万人がテレワークを行っていたことになる。

   年間120日以上、つまり週に2日以上、テレワークをしたという人は就業者全体の5%以上存在したので、人数に換算すると約340万人の本格的テレワーカーが生まれた、と見ている。

   テレワークによって自由になる時間は、ヘビー層で年間200時間になると推計した。そして得られた時間は、プライベート時間の充実だけに留まらず、会社への貢献意識、就業満足度を上げた、と分析している。

   野村総合研究所では新型コロナウイルスの感染拡大が始まった時期から、別途の影響調査も行った。それによると、2020年3月から5月にかけてテレワーク実施者は大きく増えたものの、平常時に戻った後もテレワークを取り入れた働き方をしたいと希望する人の割合は、3月には66%だったが、5月には46%へと減少していた。

   また、「テレワークを取り入れた働き方はしたくない」とテレワーク業務を否定する声も8%から13%に増加していた。

   だが、その後テレワークを希望する割合は増え続け、2021年12月には62%となった。本書では、

「テレワーク導入による仕事の効率低下は一時的なものであり、永続的に続けることの効用の方が大きい。ニューノーマルは働き方(時間的にも空間的にも縛られない働き方)が戻ることはなく、就業者側のニーズおよび企業側の都合が加味された上で、今後も継続するだろう」

とまとめている。

   ただし一方で、商売が立ちいかなくなったり、解雇・雇い止めにあったりして収入が立たれてしまう人も少なくない、と見ている。テレワークによって生まれたビジネスチャンスについてのポジティブな議論に加え、困窮世帯への支援策も重要な課題だとしている。

   家庭の収入の見通しでは、「悪くなる」と答えた人が、2018年に比べ、8ポイント増えていた。勤務先の業種で最も「悪くなる」の増加幅が大きかったのは、「建設業」と「不動産業」。このほか、「商業」「運輸・通信業」でも悲観が大きく増えており、小売業へのダメージがうかがえるという。

買い物で高まる「コスパ」志向

   景気や家庭の収入の先行きへの悲観が強まれば、当然、消費意識・行動にも影響が出てくる。

   「とにかく安くて経済的なものを買う」という低価格志向が下がり、「価格が品質に見合っているかをよく検討してから買う」というコストパフォーマンス志向が高まっている、と分析している。

「コロナ禍で本当にダメージを受けた層は、『とりあえず安いものを買おう』というようなあいまいな節約の仕方はしないのである」

   価格に見合っているかどうかを検討して、そうでなければ「買わない」といった、よりシビアな「取捨選択」が起こっているのだ。

   生活満足度の項目では、2012年以降一貫して増え続け、コロナ禍を経験した2021年にはさらに上昇していることに注目している。生活満足度が上昇に転じる潮目となった2012年は、東日本大震災の翌年である。平穏な日常生活に感謝し、再評価するようになった人が多いと見ている。

   一方、コロナ禍の自粛生活は若者から生活の充実感を奪っている、と指摘する。10代の若者だけは生活の充実度が下がっているからだ。学園祭や修学旅行などの行事も制限され、生活の充実感を構成する経験がコロナ禍によって大きく阻害された。

街レジャー減り、デジタルレジャー拡大

   コロナ禍の巣ごもり生活がデジタル化を浸透させたという。少し前は伸びていた街レジャーが減り、デジタルレジャーがさらに拡大した。

   その背景にはシニア層中心にスマートフォン保有率が大きく伸び、そのスマートフォン利用によるインターネット利用時間の増加、そして、インターネット利用用途が多岐にわたって増えたことにある。

   今や男女とも70代でも半数以上がスマートフォンを保有。1日の利用時間は30代では2018年より50分伸びて194分に、60代でも30分伸びて87分になった。

   有料動画配信サービスの利用率は跳ね上がり、数年分のデジタル化がコロナ禍では、たった2カ月で進んだ、と書いている。

   アフターコロナの新マーケティングという項目では、2018年と2021年を比較して、増えたものと減ったものを挙げている。

   増えたものでは「アマゾンプライム」「宅配ボックス」「オンラインでのDVD、CDレンタル」「美容院(1万円以上のカット・カラーリング)。減ったものでは「カラオケ」「スパ、日帰り温泉・入浴施設」「コンサート・ライブ」などの街レジャーが目立つ。

   また、9割の人が「生活様式は完全には元に戻らない」と回答したのも目を引く。積極的にお金を使いたい費目として、「食料品」「家電製品」「家具・インテリア、寝具」などの「おうち時間」を充実させるものを挙げている。

   とはいえ、「外食」「旅行」も高位安定しており、解禁時にはリベンジ消費が起こりやすいと予想している。また、「投資」も大きく伸びており、収束後も大きな伸びが予想できるという。

   一方で、「人とのつきあい・交際費」は大きく減少。「やめてみたら(意外に)いらなかったもの」だったのか、と見ている。

   コロナ禍で伸びた新サービスについても詳細に分析しており、マーケティングに携わる人には必読の本になるだろう。(渡辺淳悦)

「日本の消費者はどう変わったか」
野村総合研究所 松下東子・林裕之著
東洋経済新報社
2200円(税込)

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