2024年 4月 23日 (火)

岸田首相、脱炭素社会の実現へ「基本方針案」...原発活用&カーボンプライシング導入も だが、実行への道筋は見通せないまま

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   岸田文雄政権が2050年の脱炭素社会の実現に向けた総合的な政策パッケージを22年末にまとめた。

   原発の運転期間延長とリプレース(建て替え)など、原発の積極活用を前面に打ち出すとともに、脱炭素の取り組みを促すために、二酸化炭素(CO2)排出に応じて企業にコスト負担を求める「カーボンプライシング(CP)」を23年度から段階的に導入することも盛り込んだ。

   政策としてはきれいにまとまったが、果たして実効性はどうなのか。

  • 岸田首相の目指すGXとは?
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原発の政策転換、2つの柱...運転期間の延長、新増設・リプレース

   新政策は、脱炭素社会への政府の司令塔である「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」(議長=岸田首相)が2022年12月22日に「GX実現に向けた基本方針案」としてまとめた。意見公募(パブリックコメント)を経て、23年2月に閣議決定し、関連法案を通常国会に提出する段取りだ。

   基本方針案の大きな柱は、原発活用とカーボンプライシング(CP)だ。

   原発については、J-CASTニュース 会社ウォッチでは、これまでの記事で、政策の転換に向けて議論を急いでいることを詳報してきた。

◆参考
岸田政権が着々と進める『原発回帰』...半年も満たずに、原子力政策大転換 新増設・建て替えまで踏み込んだ『新政府方針』の是非(2022年12月10日付)
岸田政権の原子力政策、原発推進へ『政策転換』...再稼働、新増設、そして運転期間の延長着々(2022年10月14日付)
政府期待の『革新軽水炉』...経産省、2030年代運転への『工程表』示す だが、『新増設せず』の従来方針と矛盾...原子力政策の見直し進むか?(22年8月19日付)

   原発政策については、22年7月の参院選後の8月、岸田首相がGX実行会議で検討を指示してから4か月の短時間で、経済産業省の審議会などの議論なども一応経て、一気に年末に決着させた。

   原発の政策転換の柱は2つ。第1に、原発の運転期間の延長で、東京電力福島第1原発事故を教訓に、原則40年、20年延長できると定めたルールを変える。

   60年という基本は維持しつつ、再稼働に必要な審査などで、長期停止した期間を運転期間から除外できるようにした。仮に5年間停止した場合は、運転開始から65年まで運転できるようになる。

   第2に、原発の新増設・リプレースだ。

   政府はこれまで「想定していない」としてきたが、「将来にわたって原子力を活用するため、建設に取り組む」と明記。まったくの新規立地は現実的には想定しにくく、廃炉になる原発の建て替えを想定し、「次世代革新炉」と呼ばれる、現行の原発の改良型を開発する方針だ。

炭素排出の有料化...カーボンプライシングの2本柱は「排出量取引」と「炭素賦課金」

   カーボンプライシング(CP)は、炭素排出の有料化といえるもので、2つの狙いがある。企業のCO2排出に実質的に課金することで排出削減に誘導するとともに、それによって得られる財源を脱炭素への投資に充てるという考えだ。

   具体的には、「排出量取引」と「炭素賦課金」の2本柱で取り組む。

   排出量取引は、企業が毎年のCO2排出削減目標を設定し、目標より多く削減した企業は余った削減分(排出権)を市場で売り、目標を達成できなかった企業は排出権を購入することで、未達分を埋め合わせる仕組み。

   22年9月から有志企業による排出量取引市場「GXリーグ」のテスト運用が始まっており、国内CO2排出量の4割を占める約600社が参加しているので、これを発展させ、23年度に市場を正式にスタートする。

   もう一つの炭素賦課金は、原油や天然ガスなど、化石燃料を扱う企業から徴収するものだ。具体的には、28年度から電力会社や石油元売りなどを対象に始める。賦課金により化石燃料を利用した電気やガソリンの価格が上昇すれば、代替となる再生可能エネルギーや電気自動車への移行が進むという狙いだ。

   こうした新制度が重すぎて、経済成長に水を差さないよう、企業負担が増えないようにする方針で、炭素賦課金は、原油や天然ガスなどにかかる石油石炭税(21年度約6000億円)が電気自動車の普及などで減少する範囲内で徴収を始める。

脱炭素に向けた投資、23年度から「GX経済移行債」で20兆円確保

   一方、脱炭素に向けた投資では、原発関係を含め、今後10年間に官民合わせて150兆円という巨額の目標を掲げた。

   このうち政府が20兆円の資金を確保するとして、23年度から「GX経済移行債」を発行して調達、炭素賦課金などのCP関連の収入を償還財源に充て、50年までに返済するとしている。

   具体的取り組みとして、原子力を含む22分野の行程表を提示。原子力や水素・アンモニアなどの「非化石エネルギーの推進」(6兆~8兆円)▽電気自動車や蓄電池などの「産業構造転換・省エネの推進」(9兆~12兆円)▽「資源循環・炭素固定技術」(2兆~4兆円)を挙げている。

世論の関心が他に集まり、懸案の政策課題が一気に進むも...地元理解などハードルは高く

   国論を二分する原発の是非、効果が定かでない排出量取引や炭素賦課金、巨大な金額ばかりが目立つGX投資......大きな政策転換が、多くの論点をほとんど素通りする形で決着した。

   ロシアのウクライナ侵攻に端を発するエネルギー価格高騰や電力不足などが「追い風」になった。

   安倍晋三元首相の国葬の是非、自民党と旧統一教会との癒着に世論の関心が集中し、秋の臨時国会の論戦もそうしたテーマが中心になった結果、原発・エネルギー政策の大転換は、安全保障政策の転換とともに、「思った以上にすんなり通った」(経産省関係者)。岸田政権の支持率は落ちたが、懸案の政策課題は一気に進んだのだから、皮肉な状況だ。

   ただ、原発は、停止中の再稼働一つとっても、地元理解を得るのは簡単でなく、ましてリプレースなど「仮に受け入れる地域があったとしても僅かな数と思われ、それでも新型炉開発などに巨費をつぎ込むのか」(反原発団体関係者)など、ハードルの高さばかりが目立つ。CPについても、脱炭素への実効性は未知数だ。

   経産省として積年の課題を大きく前進させたのは間違いないが、実行の道筋は容易に見通せないままだ。(ジャーナリスト 岸井雄作)

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