2024年 4月 20日 (土)

日銀新総裁、経済学者・植田和男氏に内定...岸田首相の真意とは? 極秘裏に進められたサプライズ人事の「舞台裏」

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   岸田文雄首相が2023年2月14日、4月で任期満了となる黒田東彦・日銀総裁の後任候補の人事案を国会に提示した。経済学者で元日銀審議委員の植田和男氏(71)。就任すれば、学識者では初の日銀トップとなる。

   その人事は極秘裏に進められた。

  • 日銀総裁人事、岸田首相の「思惑」は?
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人選は首相に近いごく少数のメンバーで 完璧だった「情報の保秘」

「絶妙な人選だった。副総裁を含めバランスが取れており、文句のつけようがない」

   自民党関係者がこう指摘する。

   複数の政府関係者によると、岸田首相が新総裁選びを水面下で始めたのは2022年のことだ。人選は首相に近いごく少数のメンバーで進められたという。

   岸田首相は重要な政策決定に際し、自民党の麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長に事前に内容を伝え、内諾を得ることが多い。

   3人は23年2月8日にも会食を持った。その場で岸田首相は「後任が固まった」と伝えたものの、誰かという固有名詞は頑なに秘密にしたという。

   首相が自民党や公明党の幹部に「後任は植田氏」と伝えたのは2月10日午後になってからだった。東京証券取引所での売買が終わるのを待ってから一斉に電話を鳴らした。

   情報はすぐにメディアにも伝わり、市場を含め大混乱に陥った。それまでの下馬評に、植田氏の名前はまったく挙がっていなかったからだ。

   官邸関係者は「情報の保秘は完璧だったね」とほくそえんだ。

日経の「雨宮正佳副総裁への打診」報道 岸田首相が即座に否定、他紙は追随せず

   日銀総裁人事をめぐっては直前まで情報が錯綜した。

「政府は雨宮正佳副総裁に総裁就任を打診」

   日本経済新聞が朝刊1面でこう報じたのは2月6日。雨宮氏は日銀が官邸に総裁候補として打診していた最有力候補だ。

   黒田総裁が主導した大規模な金融緩和は10年にわたって微修正を重ねた結果、非常に複雑な内容になっていた。量的緩和に始まり、長短金利を誘導する「イールドカーブ・コントロール」という、素人には理解できない手法に手を広げている。

「大規模緩和を継続するにしても、修正するにしても、現在の政策を正確に理解できる人物は一握り。外部人材では難しい」

   これが日銀の本音だった。

   日銀出身の雨宮氏は黒田総裁を支え、異次元緩和を何とか持ちこたえさせてきた立役者の一人。政策に熟知しているうえ、政界などにも顔が広い。日銀内外で後任候補の「本命」と見られてきた。

   しかし、日経の「打診」報道があっても、それに追随するメディアはなかった。官邸周辺などから「日経報道を追わない方がいい」という情報が相次いでいたからだ。

   当の岸田首相は2月6日、日経報道を「観測気球」とあしらってみせた。実際に、雨宮総裁案は早い段階で消えていた。

   雨宮氏は2022年中から周囲に「自分は総裁に適任ではない」と漏らし、官邸にもその意向を伝えていた。関係者は「黒田総裁とともに異次元緩和を推進してきた自分に、その修正を図る作業はできないとの思いが強かったようだ」と解説する。

「無名」指名で安倍派の批判かわす 総理の作戦勝ち?

   岸田首相にも雨宮氏を総裁にできない事情があった。

   新総裁の条件として掲げた条件の中に、米連邦準備制度理事会(FRB)など、海外の中銀トップと渡り合える国際性があったからだ。この点で、雨宮氏の評価は高くなかった。

   これに対し植田氏は、米マサチューセッツ工科大で金融政策の権威、スンタレー・フィッシャー氏に師事した。同時期にバーナンキ元FRB議長なども学んでおり、国際的な人脈が太い。

   さらに、岸田首相には植田氏を起用する利点もあった。

   2005年に日銀審議委員を退任している植田氏は、政界ではほぼ無名の存在。知られていないということは、敵視する人もいない、ということでもある。日銀総裁交替を機に、大規模緩和やアベノミクスの修正を警戒する安倍派などの批判をかわすのには適任というわけだ。

   複雑化した金融政策についても、新たな副総裁に日銀理事として金融政策を担ってきた内田真一氏を付ければ心配はない。

   岸田首相の読み通り、植田氏の総裁起用の一報が流れても自民党内から強い反対意見が出ることはなかった。

   「今回は総理の作戦勝ちだ」。首相に近い関係者はこう指摘している。(ジャーナリスト 白井俊郎)

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