2024年 6月 16日 (日)

敦賀原発2号機、原子力規制委が審査中断 事業者・原電の申請書、誤り続発で 重なる不手際、原発を操る資格あるのか?

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   日本原子力発電・敦賀原子力発電所2号機(福井県)の再稼働に向けた安全審査で、原子力規制委員会が審査を中断した。審査の申請書のうち、原子炉直下の断層に関する部分に誤りが続発したことから、修正して8月末までに出し直すよう行政指導した。

   原電敦賀原発2号機は、まさにがけっぷちに追い込まれた。

  • 敦賀原発2号機、原子力規制委が審査中断へ(写真はイメージ)
    敦賀原発2号機、原子力規制委が審査中断へ(写真はイメージ)
  • 敦賀原発2号機、原子力規制委が審査中断へ(写真はイメージ)

西村経済産業相「ラストチャンスと思って対応を」

   原子力規制委が2023年4月18日行政指導を正式に決めた。事業者の日本原子力発電(原電)が申請書を出し直すまで、審査が中断することを意味する。

   規制委は5日の定例会で審査の中断する方針を決め、11日に原電の村松衛社長らと面談して、こうした意向を伝達。原電側も「申請内容について8月31日までに一部補正を行う」と表明していた。

   これについて、西村康稔経済産業相は18日の会見で「ラストチャンスと思って、緊張感を持って誠実に審査に対応していただきたい」と厳しい表情で述べた。原発推進役の経産相から「最後通牒」を突きつけられたかたちだ。

審査の焦点は、原子炉直下の断層が「活断層」か否か 原電のミス、累計1300か所に及ぶ

   原電は、名前の通り、原発専業の「国策会社」だ。敦賀2号機と東海第2原発(茨城県東海村)の2基を所有し、電力大手5社(東京、関西、中部、北陸、東北)に電力を販売していた。しかし、2011年3月の東日本大震災で福島第1原発事故が起きて以降は、10年以上、両原発とも停止したままだ。

   この間、発電量はゼロだが、電力5社は契約に基づいて、年間1000億円規模の「基本料金」を払い続けている。5社は原電の大株主でもあり、取締役には各社の社長が名を連ねる。

◆これまでの経緯とは?

   一刻も早く再稼働させたいところだが、遅々として進んでいない。その経過を振り返っておこう。 審査の焦点は、原子炉直下の断層が地震を引き起こす「活断層」か、否かだ。規制基準では活断層上への原発立地は認められない。

   規制委の有識者調査団は2015年、断層を「活断層の可能性が高い」と結論付けた。ところが一方、原電は独自に実施した地質調査を基に反論した。――これが審査の争点で、活断層でないことを立証できなければ、廃炉になる。原電は15年11月、「活断層ではない」と主張して再稼働の審査を申請した。

   だが、19年に1000か所以上の記載不備が見つかる。20年2月には、敷地内の掘削調査による地質の観測記録を無断で書き換えていたことが発覚し、審査を約2年中断する。

   規制委は原電本社への立ち入り調査なども実施したたうえで、22年12月、信頼性のある資料を作る体制が整ったと判断して審査を再開。

   しかし、過去に提出された審査資料に、157か所の誤りが新たに見つかった。さらに23年3月、断層の最新活動面で採取したサンプルで作製したとしていた薄片試料の作製位置を間違えていたなど、8件の誤りが原電から新たに報告される。それに及び、今回の審査再中断という異例の判断に至った。

   累計の誤りは1300か所に達する。

   規制委の山中伸介委員長は4月5日の記者会見で「審査ができない状態が続くのは非常に好ましくない」と指摘したうえで、「これが基本的に最後の判断だ」とも強調した。

   また、あらためて提出される書類に基づき「不許可か許可の判断をする2択になる」と述べ、不備があれば再稼働を不許可にする、つまり、廃炉の可能性にまで言及した。

新聞社説、「安全性軽視」を厳しく追及 「原発推進」の産経は、審査ストップした規制委を批判

   岸田文雄政権が原発拡大に政策を転換したなかで、原電の不手際は、政権にとっても痛いところだ。世論もの目も厳しい。福島第1原発事故で思い知らされた原発という「危険な装置」を動かす事業者として、原電の適格性に疑いの目が向くのは、一連の経過を見れば当然だろう。

   大手紙の論調も、全体に厳しい。

   もともと脱原発の毎日新聞は23年4月20日の社説で、「安全性に関わる書類を整えられないような組織に、原発の運転を任せられるのか」と、原燃という組織に疑問符をつける。

   同じく東京新聞社説(4月11日)も、「安全審査の礎となる資料をおろそかにするということは、すなわち、安全を軽んじているということだ」と断じ、「原電には、底知れぬ危険性をはらむ原発を操る資格があるのだろうか。......資料を整えるのにこれほどの不手際を重ねて、どうして、運転では決して不手際はない、と言い切れるだろう」と指摘する。国民目線からすれば、当然の指摘だろう。

   一方、原発推進の日本経済新聞は、今回の行政指導について社説では取り上げていないが、データ書き換えが発覚した際の社説(2020年3月1日)で「規制基準に適合するかどうかを判断するのに重要なデータで、言語道断の行為だ。原発事業者としての資質を疑う」と書くなど、原電を批判してきた。

   日経新聞は今回の問題の一般記事でも原電に対し「安全性への意識や社内のガバナンスが欠如していた」などと指摘する。ただ、「原発を安全に運転できることを事業者側が示せなければ、原発の活用を前提とする国の脱炭素目標の達成にも疑問符がつきかねない」(23年4月6日2面)と、原発政策へのマイナスを心配する書きぶりが目立つ。

   さらに、原発推進の立場から、資料の不備を問題視している規制委にむしろ矛先を向けるという特異な論を展開するのが産経新聞だ。

   4月11日の「主張」(社説に相当)は「原電は資料の正確性向上に努めるべきだ」としつつ、「規制委の審査は、一方で当該断層の活動性の有無という最重要部分から遠ざかり続けている。......安全とは関係の薄い誤字までを誤りに含め、その数の多さを理由に審査の門戸を閉ざそうとするなら、さらに不適切だろう」などと批判する。

   産経は結論として、「規制委は事業者との上下関係を廃し、日本原電と対等の立場で科学論議を進めるべきだ」と、原電が、規制委のお上意識の被害者のように描く。ちなみに、産経は沖縄県・辺野古の米軍基地建設などについて、県と国が「対等の立場で科学論議を進めるべきだ」などとは、決して書かない。

原発、実質的に60年超の運転を可能とする法案を審議中で...原電に厳しい姿勢示した?

   岸田政権は、原則40年、最長60年までだった原発の運転期間について、震災後の安全審査で停止していた期間などを除外し、実質的に60年超の運転を可能にする法案を国会に提出し、審議中だ。

   今回の行政指導について社説で取り上げていない朝日は、原発再稼働に関する特集記事(4月25日)で、原電を筆頭に「審査をクリアできない原発ほど古くなっても運転できる道が残るという問題も浮上した」と警鐘を鳴らしている。

   運転期間延長法案のためにも、原電には厳しい姿勢を示す必要があったといえば、うがちすぎか。(ジャーナリスト 岸井雄作)

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