2024年 5月 19日 (日)

総務省、「1円スマホ」規制へ...新ルール案示す 「転売ヤー」問題は解消され、公正な競争となっていくのか?

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   「1円スマホ」といった携帯電話端末の極端な安売りの締め出しに総務省が動いた。有識者会議に新たな規制案を示し、今夏のうちに内容を決める方針だ。

   これまでの対策でキャリア(通信事業者)間の乗り換えが自由になる一方、顧客獲得競争は相変わらず熾烈を極めるなかで、過剰な値引きが問題になっていた。

   どんな仕組みになるのだろうか。そして、どんな問題があるのだろうか。

  • 総務省が、携帯電話の「競争ルールの検証に関するワーキンググループ」で規制の方向性を示した
    総務省が、携帯電話の「競争ルールの検証に関するワーキンググループ」で規制の方向性を示した
  • 総務省が、携帯電話の「競争ルールの検証に関するワーキンググループ」で規制の方向性を示した

回線契約とセットで、端末の割引を最大4.4万円とする案で検討

   総務省が2023年5月30日、携帯電話の販売ルールを議論する「競争ルールの検証に関するワーキンググループ」で、規制の方向性を示した。

   回線契約とセットで端末を販売する際、端末の割引を税込み最大4万4000円に制限することが柱だ。

   これには、少し説明が必要だ。現在の制限は2万2000円となっていて、一見すると割引額の「倍増」と受け取れそうだが、目指しているのは法外な値引きの規制と併せて実施するもので、単純に割引が拡大するというわけではない。

   これまでの経緯を振り返っておこう。2019年に電気通信事業法が改正され、「1円スマホ」などの過度な割引に規制が設けられた。回線契約とセットで端末を売る場合に、値引きは税込み2万2000円を上限とした。

   これにより、キャリアの間の値引き合戦は一時、影を潜めていたが、2021年くらいから再燃した。

   実際の販売代理店の現場では、どうなっているのか――。

   たとえば10万円の端末を、7万7999円値引きして2万2001円とし、そこから回線とセットの値引き上限の2万2000円を引いて「1円スマホ」になるといった具合だ。

   こうしたやり方自体は違法ではないが、端末だけの購入はキャンペーンの割引対象ではないため、端末だけを2万2001円では買えず、10万円になる――というケースもある。

   そして、回線契約の有無での差別は違法だ。総務省の覆面調査でも、こうした事例が多数確認され、端末だけの販売を拒否するケースもあったという。

   ようは、回線契約を前提に、実質的に法定限度を超えた値引きが横行しているのだ。

仕入れ価格を下回る価格設定は認めないように 規制対象の事業者の範囲も見直し

   このような実態を踏まえ、今回打ち出した案では、回線とセットで販売する端末の割引規制を強化する。

   これまでセット割引の基準になる端末の価格は、先に挙げた7万7999円値引きの例のように、事実上、無制限に値下げできた。だが、今後は、仕入れ価格を下回るような価格設定は認めないようにする。

   もっとも、この改正を適用すると、利用者の購入時の負担が増えることになるので、割引の上限はこれまでの2倍の4万4000円に引き上げる。

   規制対象の事業者の範囲も見直す。

   現状は楽天モバイルを含め大手4社やその系列事業者に加え、100万人超の利用者を抱える格安スマホ事業者(MVNO)が対象になっている。

   大手が割安な新プランを2021年春に一斉に始めたために、MVNOの競争力が落ちており、利用者500万人以上の事業者に限定する方向が示されている。

19年の法改正後、自由なキャリア乗り換えから競争激化 「転売ヤー」の標的にも

   実は、今回の見直しは、過剰な競争、行き過ぎた値引き合戦の解消という理由に加え、端末を転売して設ける「転売ヤー」対策も大きな狙いだ。

   過去、スマートフォンの値引き販売は、幾度となく過熱した。もともと転売もそれなりにあったが、2021年半ばごろから、携帯ショップなどで「1円スマホ」などの大幅値引きが再び拡大したのに目を付けた「転売ヤー」が、値引きスマホを買い占めてしまう事例が多発して問題になっている。

   その引き金が、前述の2019年の法改正だったというのは皮肉だ。

   この改正以前は回線と端末はセットが当たり前で、「2年縛り」といった回線を長期契約することを条件に、料金を値引きしていた。また、その端末を他社の回線で利用できない「SIMロック」も行われていた。だが、改正により、これらの「縛り」ができなくなり、顧客は自由にキャリアを乗り換えられるようになった。

   こうした自由化自体はいいことだが、キャリアとしては結局、顧客獲得のために「1円」などの安売り競争に走らざるを得なくなった。

   問題のもう1つは、2019年改正に伴い、ユーザーや消費者は回線を契約せずに、端末機を自由に購入できるようになったことだ。

   実際にスマホを使う人は、通常は回線の乗り換えとセットで購入するが、端末購入が自由になったことに目を付け、文字通り原価割れの破格の割安端末を大量に購入し、転売する例が横行している。

   また、端末のみの購入でなくても、回線契約の割安なプランが増えたことから、高価な端末を安く購入し、回線契約は早々に止める例も続出。ひいては、多数の人員を雇い、ショップの開店前から並ばせて、対象スマホを組織的に買い占める例まで報告されている。

過剰な値引きに歯止めへの期待も...通信料で儲けて、端末は安く売る構造は変わらない?

   今回の規制強化で、端末自体の値引きに一定の歯止めをかけることになるが、実際には、どの価格水準が妥当か、なかなか判断しにくい。家電の「バッタ屋」ではないが、格安仕入れなどは常にあり、値引き規制の実効が担保される保証はない。

   なにより、携帯の販売を担う販売代理店の経営は、キャリアが他社からの回線乗り換えなど契約獲得に応じて支払う販売奨励金に依存しているという問題がある。端末の値下げの原資も奨励金だ。つまり、携帯事業全体としては、通信料で儲けて端末は原価割れで売るという実態がある。

   ある業界関係者は「この構造にメスを入れない限り、公正な競争は実現できない」と指摘する。そんな日は、いつくるのだろうか。(ジャーナリスト 白井俊郎)

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