2024年 6月 3日 (月)

人、文化、芸術、情報が飛び交う「有楽町」で、次々に新しい事業が生まれるのはなぜか?【後編】/三菱地所の会員制ワーキングコミュニティ「SAAI」マネージャー・牧亮平さん

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面白い人が集まるのは「きれいな空間」より「有楽町のガード下」

――スペースごとに特色が異なっていますが、一体感がありますよね。今座っている一人がけのヴィンンテージの茶色いソファも「Bar変態」と調和がとれています。

牧さん この椅子やソファ、シャンデリア、消火栓もそうなのですが、ハード面の多くは、この区画を以前使っていたテナントさんから譲り受けたものです。ここは築50年のビル。単にスクラップアンドビルドで新しいものを購入するのではなく、もとあるものを生かしてわくわくする空間をつくろう、という意図があります。

もっと「きれい」な空間をつくろうと思えば、いくらでもつくれると思います。ただし、SAAIは面白いコミュニティをつくるのが狙い。面白い人は「きれい」なところには集まりにくい。それよりは、有楽町のガード下のような雑多な場所に集まる気がしませんか。あの雰囲気を残しながら、きちんと仕事ができて、ミーティングもできるようにと、機能性と「怪しさ」のバランスを取りながら設計されています。

というものの、コミュニティ運営やこうした新しいプロジェクトはやってみないとわからないのが常です。今思えば、こうしたコミュニティ機能が強いラウンジスペースと、PC作業などに集中できる執務スペースの割合は再考の余地がありました。コロナ禍でオンラインMTGができるスペースも求められるようになったこともあり、執務スペースはもう少し必要ですね。
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空間にマッチした茶色いソファ。窓際の背もたれのない椅子に座りMTGを行う人も多い

――ソフト面ではほかにどんな施策がありますか?

牧さん まずご紹介したいのは、SAAI独自のビジネスコンテスト「01Start」です。現在6期目が選考中ですが、社会を変えるようなビジネスを生み出すために、半年に1回広く募集をかけています。採択されると1年間無料でSAAIをご利用いただけます。

事業サポートも特徴です。SAAIの運営には、ゼロワンブースターという事業創造を専門に扱うコンサルティング会社があたっています。SAAIを本社として使っていただいているのですが、「01Start」の採択者はゼロワンブースターさんの伴走支援などの特典が受けられます。

ただし、ゼロワンブースターの50名弱の社員はみんなネックタグをつけていて、「01Start」の採択者でなくとも、「SAAI会員はゼロワンブースターの社員にいつでも話しかけていい」というルールにしてあります。一般的にインキュベーション施設というと、コミュニティマネジャーがいても2~3人ですが、SAAIは「50人全員がコミュニティマネジャー」。いつ何時でも事業創造のプロと壁打ちができる環境になっています。

それから今年も8月に開催予定の「01 Community Conference」というイベントも、私たちが旗振り役となって開催しています。狙いは、普段スタンドアローンになりがちな国内外のインキュベーション施設をつなぎ、各地で活動しているコミュニティマネジャーのノウハウや経験を共有したり、事業創造におけるコミュニティの重要さを再確認すること。
コロナ禍の2020年より年1回のペースで開催し、オンラインとリアルで1000人規模が参加しています。インキュベーション施設を担当する大手デベロッパーの担当者が横並びで討論するなど、なかなかないことです。昨年は「ボーダーレス」をテーマに、個がつながる意義について議論しました。

――最後に、有楽町再構築プロジェクトのビジョン実現に向けた、SAAIの今後の展望についておしえてください。

牧さん このビル(新有楽町ビル)が年内で閉館するため、SAAIは2つ隣の新東京ビルに移転することが決定しています。移転は10月の予定です。それに伴い、コミュニティスペースと執務スペースの割合も見直しています。

これまでは間仕切りがなく、オープンスペースが特徴でした。コミュニティを活性化させたいという狙いからですが、新SAAIでは少しばかり個室も用意する予定です。というのも、会員のみなさんの成長速度が非常に早く、SAAIに入って、半年ぐらいで「メンバーが増えたので、もっと大きい施設に移ります」ということがよくあるんです。メンバーが4人ぐらいになると、密なコミュニケーションが必要になるのか、個室が欲しくなるようなんです。

これは、企業の成長に貢献できたという意味では嬉しい反面、運営側としては心が痛い(笑)。なので、新SAAIは、メンバー間でミーティングができる秘匿性の高い空間と、オープンなラウンジが同居する施設を考えています。成長して羽ばたいていこうとする人たちも受けいれられる余地を、もう少し増やしたいですね。ゆくゆくは事業創造コミュニティとして、「事業創造といえば有楽町」といってもらえるような街、施設にしていきたいです。

もちろん三菱地所としては、MSDおよび有楽町のまちづくりという上位概念があります。「街の輝きは人がつくる」ということで、これからも人にフォーカスする施策を打ち続け、有楽町を盛り上げていきます。

――ありがとうございました。



【プロフィール】
牧 亮平(まき・りょうへい)

三菱地所株式会社
プロジェクト開発部 有楽町街づくり推進室 マネージャー

新卒で東急不動産株式会社へ入社。社内新規事業として会員制サテライトオフィス事業「Business-Airport」の立ち上げを行う。同社退職後、一年間の海外修行を経て、SAYU MILANO S.R.L. 取締役(現地代表)へ就任。イタリアミラノで日本をコンセプトとした複合商業施設「TENOHA MILANO」の開発、運営を行う。2020年2月に帰国し、三菱地所株式会社へ入社。現在、有楽町の再開発を担当し、会員制インキュベーションオフィス「SAAI」や複合商業施設「micro」を起点としたソフト面からの街づくりを行っている。座右の銘は「すべては人から始まる」でハードやシステムよりもそこにいるリアルな「人」を大事にしたい。

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