2024年 6月 18日 (火)

超円安時代を生き抜く「経済学講義」

   物価も賃金も上がらなかった「停滞と安定」の時代から、「変化と不確実性」の時代へと変わろうとしている。

   本書「世界インフレと日本経済の未来」(PHPビジネス新書)は、予測不可能な社会情勢を「経済学の知見」で読み解いた本である。

「世界インフレと日本経済の未来」(伊藤元重著)PHPビジネス新書

   著者の伊藤元重さんは、東京大学名誉教授。東京大学大学院経済学研究科教授などを歴任。安倍政権の経済財政諮問会議議員も務めた。テレビの夜の経済番組にレギュラーコメンテーター出演するなど、平易な語り口で経済を語ることに定評がある。

   本書も「日経MJ」などの連載を加筆・修正のうえ、1冊にまとめたもので、複雑な経済事象をわかりやすく解説している。

世界インフレの先に待つ、厳しい景気後退

   今回の世界的なインフレの特徴は、この先に厳しい景気後退が待っていることだと指摘する。米国を例に挙げて、以下のように説明している。

「インフレの大きな要因の一つは、コロナ禍で大きく落ち込んだ需要がリバウンド(反動)で拡大したことで、需給ギャップが生まれたことにある。その典型が労働市場で、労働需要の拡大に供給が追いつかず、深刻な人手不足と賃金上昇となったのだ。それに加えて、世界的な資源や食料の価格高騰が追い打ちをかけた」

   いずれリバウンドによる一時的な需要拡大は終わるので、この先、米国の景気後退が予想されるという。物価上昇が残ったまま景気後退が始まると、スタグフレーションに陥ることになる。そうならないように、FRB(連邦準備制度理事会)は早期にインフレの芽をつもうと、急速な金利上昇を仕掛けてきたのだ。

   インフレは、日本経済にどんな影響を与えるのか。

   財政視点からの論考が新鮮に響いた。日本の財政が足元で安定しているのは、金利が非常に低いからだ。10年の長期国債の利回りはゼロに近い。財政赤字が膨らんで政府の借金が増えても、その分の利子負担はほとんどゼロだ。

   インフレによる金利上昇は、財政運営にとって必ずしもマイナスではないという。その理由はこうだ。

「金利上昇で国債の利払いは増えるが、物価上昇によって税収も増えるからだ。それだけでなく、物価が上昇すれば、政府の債務の実質価値が目減りしていくことになる」

   預貯金の実質価値も目減りするので、退職した高齢者にとってインフレは好ましくないが、現役世代にとって、インフレは必ずしも悪いものではないという。

   インフレによって賃金は上がるし、住宅ローンなどの負担も軽くなる人も多いからだ。

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