「雇用調整助成金」の不正受給、累計670件が公表 絶たない不正発覚、経営基盤の弱い新しい企業が「コロナ禍」で手を染めた

   新型コロナウイルスの感染拡大に伴う雇用維持のため、従業員への休業手当を助成する「雇用調整助成金」などの不正受給で、全国の労働局が2023年8月31日までに公表した件数が670件に達することがわかった。

   このうち、2度公表された企業が3社あり、公表された実質の企業数は667社(個人企業含む)、不正受給金額は総額206億7947万円に達する。

   東京商工リサーチによると、前回調査(2023年6月9日公表分まで)から約3か月で151件が新たに公表された。今年3月に月別で最多の69件が公表されたが、5月以降も毎月40件を超えており、不正発覚が後を絶たない。2023年9月25日の発表

不正受給金額は、総額206億円超

   東京商工リサーチによると、各都道府県の労働局が公表した雇調金等の不正受給は、2023年8月31日までに670件に達した。支給決定が取り消された助成金は、総額206億7947万円にのぼる。このうち、本社と営業所などでそれぞれ公表された3社を除き、実質667社(個人企業含む)が社名を公表されている。

   月別の公表社数は2021年2月に初めて公表されて以来、1ケタ台で推移したが、22年6月(15件)から右肩上がりで急増。23年3月は最多の69件が公表された。【グラフ1参照】

   不正受給の内訳では、雇用調整助成金だけの受給が359件と、構成比で53.5%を占めた。このほか、パートやアルバイトなど雇用保険被保険者でない従業員の休業に支給される「緊急雇用安定助成金」は111件(構成比16.5%)で、両方の助成金の受給も200件で29.8%を占めた。

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グラフ1 雇調金不正受給公表件数・受給金額推移(東京商工リサーチ調べ)

   公表された雇用調整助成金等の不正受給670件を地区別でみると、最多は関東234件で、続く近畿119件とほぼ2倍の差があった。中部は113件、九州78件、中国50件、東北31件、四国28件、北陸9件、北海道は8件だった。企業数が多い東京、大阪、名古屋の3大都市圏が、69.5%を占めた。

   都道府県別でみると、東京都が87件で最も多かった。次いで、愛知県の77件、大阪府75件、神奈川県62件、広島県34件、福岡県31件、埼玉県25件、千葉県24件、三重県19件、京都府16件、宮城県と大分県が各15件で続く。

   今年6月9日までゼロだった徳島県と香川県でも公表があり、47都道府県すべてで不正受給が公表された。

業種別、最多に「飲食業」が浮上

   雇用調整助成金等の不正受給を公表された667社のうち、個人企業等を除く485社について、東京商工リサーチの企業データベースで分析すると、産業別では「サービス業他」が213社で最も多く、構成比で43.9%を占めた。

   次いで、「建設業」の59社(構成比12.1%)、「製造業」48社(同9.8%)と続く。「金融・保険業」を除く9産業は、6月以降に公表が増加した。【表1参照】

   細分化した業種別でみると、6月10日以降に26社増加した「飲食業」が66社で、前回調査で1位だった「建設業」の59社を上回って最多となった。

   このほか、コンサルティング業などを含む「学術研究,専門・技術サービス業」と人材派遣業などを含む「他のサービス業」が、それぞれ40社、冠婚葬祭や美容業、旅行業などを含む「生活関連サービス業,娯楽業」が38社で続き、コロナ禍の影響を強く受けた業種が目立った。

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表1 雇調金不正受給公表企業 産業別(東京商工リサーチ調べ)

   法人設立日から公表日までの業歴別でみると、最多が「10年以上50年未満」の216社で、全体の44.5%を占めた。次いで、「5年以上10年未満」が135社(構成比27.8%)、「5年未満」が87社(同17.9%)、「50年以上100年未満」が47社(同9.6%)だった。

   なお、業歴100年以上の老舗企業は公表されていない。【グラフ2参照】

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グラフ2 雇調金不正受給公表企業 業歴別(東京商工リサーチ調べ)

   東京商工リサーチが保有する企業情報全社の構成比と比べると、不正受給が公表された企業の構成比は「5年以上10年未満」で全体(構成比15.8%)を12.0ポイント上回り、他のレンジよりも際立って比率が高かった。

   設立間もなく、経営基盤が強固といえない新しい企業が、コロナ禍で不正に手を染めた構図が浮かび上がる。

   コロナ禍で、政府は企業の雇用維持を支えるため、雇用調整助成金の助成率と上限金額を引き上げる特例措置を実施した。緊急対応期間(2020年4月~22年11月)と経過措置期間(22年12月~23年3月)に支給決定した雇用調整助成金等は総額6兆3507億円に及んだ。

不悪質な場合は刑事告訴の可能性も...「信用失墜は避けられない」

   雇用調整助成金等の不正受給を直近の売上高が判明した214社でみると、「1億円未満」が84社で最も多く、構成比で39.2%を占めた。次いで、「1億円以上5億円未満」が79社(構成比36.9%)で続き、売上高「5億円未満」の企業が全体の76.1%と、約8割を占めた。

   不正受給が公表された企業は、売上規模が小さい傾向が特徴として出ている。一方、「50億円以上100億円未満」でも2社、「100億円以上」でも3社が公表された。【グラフ3参照】

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グラフ3 雇調金不正受給公表企業 売上高別(東京商工リサーチ調べ)

   コロナ禍で雇用を維持するため、雇用調整助成金に頼った企業は、中小企業から上場企業まで幅広い。迅速な支給のため手続きを簡素化したことも奏功し、雇用調整助成金を利用申請の企業数は大幅に増えた。

   しかし、一方で「申請誤り」や「不正の発覚」による支給決定取消は、各都道府県の労働局が遡って受給状況を調査した結果、23年6月末までに1852件、金額ベースで338億6000万円分が取り消された。

   不正金額が100万円以上のほか、悪質な事例と判断されると社名や代表者名、受給額などが公表され、特に悪質な場合は刑事告訴の可能性もあり、コンプライアンス(法令順守)的な信用失墜が避けられない。

   また、受給金額に違約金と延滞金を加えた返還のほか、5年間にわたり雇用関係助成金を受給できなくなるため、資金繰りにも重大な影響を及ぼしかねない。

   東京商工リサーチは、

「雇用調整助成金の財源は企業が負担する雇用保険料で賄われている。コロナ禍の支給増大で、保険料率は22年4月以降、1000分の3から1000分の3.5に引き上げられた。それだけに不正受給は許されるものではなく、制度維持のためにも対策強化が求められる」

   としている。

   なお、調査は雇用調整助成金または緊急雇用安定助成金を不正に受給したとして、各都道府県の労働局が2020年4月1日~23年8月31日までに公表した企業を集計、分析した。前回調査は6月29日発表。

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