「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~部下の心を動かした『胸アツ』エピソード」では、実際にあった感動的な現場エピソードを取り上げ、「上司力(R)」を発揮する方法について解説していきます。今回の「エピソード6」では、<「私たちの気持ちを全然わかってない!」総スカンを食らった新米上司が、左遷先で見つけたマネジメントの本質とは?>というエピソードを取り上げます。真面目で熱心な上司ほど陥りやすい、クイック・ウィン・パラドックスの罠プレーヤーとして結果を出し若くして抜擢された優秀な新任上司が犯しがちなのが、部下への成功体験の押しつけ型マネジメントと呼ばれるものです。真面目で職責意識が高い上司ほど、チームで目に見える業績を上げようと、「部下に、しっかり成果の出る仕事の方法を教えなければ」と考えます。そして、よかれと思い部下を熱心に指導し、陣頭指揮でひた走るものの...気づいて振り返ると、誰一人ついてきてくれていない...。あなたには、そんな経験はありませんか?この状況を理解するには、ハーバード・ビジネススクールでリーダーシップを教えるリンダ・ヒル教授が提唱した、新任管理職が陥りやすい「5つの落とし穴」がヒントになります。次のような上司の行動をさすものです。【(1)隘路(あいろ)に入り込む】狭い路地に迷い込んだように周囲が見えなくなり、自分で全てを解決しようとする【(2)批判を否定的に受け止める】部下の異なる意見を自分への批判と受け止め、聞き入れられなくなる【(3)威圧的である】管理職の自分に権限があるからと、一方的に命令や叱責を行う【(4)拙速に結論を出す】部下の意見や状況を顧みず早く解決しようと、決めつけて判断する【(5)マイクロ・マネジメントに走る】部下を自分の操り人形のように微に入り細に入り指示し、動かそうとするこうなると、部下の心は離れ、モチベーションが低下し、マネジメントは空回りし始めます。早い成果を出そうとの焦りが、かえって成果を遠のかせるジレンマ―クイック・ウィン・パラドックスの罠に、はまってしまうというわけです。部下を持つ上司の方には、思い当たる節もあるのではないでしょうか?こうした状況を、上司はいかにして打開すればよいか...。今回紹介するのは、そうした悩みを解決するために、ぜひヒントにしていただきたいエピソードです。熱血上司のA課長、初めてのチームを持ち奮闘!若手で、やる気満々のA課長。彼は、入社以来イケイケドンドンで突っ走ってきた熱血タイプ。同僚はもちろん、相手が上司でも役員でもお構いなしに、仕事で納得がいかなければつっかかり、激しいやりとりすら辞さない勢いでした。しかし、社内外を巻き込んで着実に仕事の成果を上げ、一方ではビジネススクールでMBAを習得するなど自己研鑽にも余念なく、社内でも次世代経営幹部の一人として注目を集めていました。そんなAさんは、30代になるや早々に抜擢され、最年少課長に昇進。配属されたチームで思う存分リーダーシップを発揮しようと、エンジン全開で着任しました。そして「みんな俺についてこい」とばかりに、一直線に突っ走りました。結果、部署の期間業績目標を続々と達成。勢いの止まらないAさんは「よっしゃー」とばかりに部下全員を引き連れ、打ち上げに行ったときのことです。二次会の居酒屋で、中堅メンバーとして活躍していた一人の女性部下が突然泣き出しました。Aさんは、彼女がチームの快進撃に感極まったのだと思い、嬉しくて「ありがとう」と彼女に握手を求めました。しかし、次の瞬間、驚くべきことが起こりました。「私たちの気持ちを全然わかってない!」 顔をめがけて飛んできたオシボリ!?手を差し伸べたAさんの顔めがけて、なんと彼女はオシボリを投げつけてきたのです。そして、こう叫びました。「Aさんは、私たちの気持ちを全然わかってない!」Aさんは一瞬何が起こったのか理解できず、頭が真っ白になりました。ただ、同席した8人の部下たちは、彼女の非礼を責めるどころか同情の様子。むしろ、Aさんへの全員の冷ややかな視線が、その場の意味を物語っていたのです...。Aさんは、一人で突っ走っていたのでした。結果を出してこそ仕事。目標達成すれば、チームの士気は高揚するもの。部下は結果の出し方を知っているリーダーの自分を信じて、ついて来てくれている...と、思っていました。しかし、それはとんでもない勘違いだったのです。Aさんは、管理職になってもイケイケドンドンの個人の感覚のまま。自分で動いて仕事をする現場のいちプレーヤーと、多様な部下を動かす上司とでは全く立場が違うことに、思い至らなかったのです。Aさんの課長としての言動が、絶大な圧力と破壊力をもって、部下たちの気持ちをなぎ倒していたのです。「あなたの提案はロジカルじゃないので、顧客に受け入れられないよ」「このフレームワークを使えば役員会も通るから、やり直ししてくれるかな」「締めまでもう時間がないので、私の立てた戦術でいこうよ」しかし、こうした一言ひとことが部下を追い詰めていたことに、Aさんは全く気づきませんでした。彼のしていたことは、実は部下の気持ちを考え、思いに耳を傾けることなく、自分のやり方を強要していただけだった。その不満が、宴席でオシボリを投げつけられるかたちで爆発したのです。この「オシボリ事件」を境に、Aさんはすっかり自信をなくしてしまいました。翌日から職場でのやりとりは針のむしろで、ちょっとした声かけすらぎこちなくなりました。結果、チーム運営はうまくいかなくなり、上層部からもマネジメント失格の烙印を押されてしまいます。本部の基幹組織にいたAさんでしたが、その後しばらくして異動を命じられます。チームのマネジメントに失敗した末の、いわば左遷...。Aさんは大きな失意のうちに、地方の小さな支所へと転勤していきました。そこでAさんを待っていたのは...。この続きは<「私たちの気持ちを全然わかってない!」総スカンを食らった新米上司が、左遷先で見つけたマネジメントの本質とは?【部下の心を動かした『胸アツ』エピソード「6」中編】>で取り上げていきます。※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)をご参照ください。※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。【プロフィール】前川孝雄(まえかわ・たかお)株式会社FeelWorks代表取締役青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶパワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人企業研究会研究協力委員、一般社団法人ウーマンエンパワー協会理事なども兼職。連載や講演活動も多数。著書は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks)、『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『50歳からの人生が変わる痛快!「学び」戦略』(PHP研究所)等約40冊。最新刊は『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)。
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