自律航行技術が社会実装されれば、セーフティネットにもなる

自律航行プラットフォーム「AI CAPTAIN」を実装したEVクルーザー「エイトノットワン」
――その後も、広島県を舞台に実証実験に取り組まれています。
木村裕人 次の課題は社会実装です。この時、社会実装できるように旅客や物資を輸送できるサイズの実験艇を購入しました。それが、「AI CAPTAIN」を実装したEV(電動)クルーザー「エイトノットワン」です。
この「エイトノットワン」を使って、社会実装に向けた実証実験を行いました。2021年度の「D-EGGSプロジェクト」で関係構築ができていた大崎上島町とチームを組み、2022年度からは国土交通省の「スマートアイランド推進実証調査」に加わることになりました。
大崎上島と本土・竹原港を結ぶフェリーは、夜間・早朝の時間帯に運航されていませんでした。乗船員の人件費がかさむなど難しいからです。ならば、夜間・早朝に自律航行オンデマンド水上タクシーができれば、その問題が解消できるのではないかと考えました。
そこで2022年11月、夜間運航の実証実験を行いました。竹原港を自動で離岸し、障害物を自動で検知、回避しながら、約7キロメートルの航路を航行しました。人は乗っていましたが、船長や船員が全く操縦することなく離岸から約45分後、大崎上島に自動着岸しました。
さらに、2023年度には、広島県にもチームに加わっていただき、離島での生活がもっと便利で暮らしやすくなるよう、生協ひろしまの商品配送サービスを二次離島である生野島にまで拡大することを目指して、自律航行船による貨客混載の実証運航を行いました。
こうした取り組みを受けて、2025年1月から3月まで、大崎上島―竹原港間の定期航路で試験導入されました。運航は観光船などを運営する地元企業「バンカー・サプライ」で、同社の19トンの船に「AI CAPTAIN」を実装し、旅客(12人以下)・物資の運搬を行ったのです。
――こうした実証実験の成果が社会実装されれば、広島県の生活に変化をもたらしそうです。
木村裕人 ええ。今後、24時間運航が実現すれば、離島生活の利便性が大幅に向上するはずです。また救急患者がでた場合の搬送にも活用できます。船はそれ以外にも、災害時に物資輸送を行う代替手段にもなり得ます。それは2018年の西日本豪雨災害で道路が寸断された時にも証明されました。ライフラインでありセーフティネットの役割もある船の価値は、今後さらに高まるだろうと考えています。

ひろしまサンドボックス「サキガケプロジェクト」のロゴ
木村裕人 ひろしまサンドボックス「サキガケプロジェクト」の一環として、船を観光に生かすトライアルも実施しました。2023年1月、広島市の南にある宇品港のエリアで、スマホで呼べるオンデマンド水上タクシーの実証実験を行いました。
自律航行システムを搭載した船舶を用いて営業を行うのは全国初でした。具体的には、市営桟橋から、グランドプリンスホテル広島、桟橋をもつレストラン カリブを結ぶというサービスで、新しい観光体験を提示できたのではないかと思います。
それとは別に、さらに最近、海洋土木業界からもオファーがありました。離岸、着岸を自動で行い、定点で停泊させて工事をアシストする船への自動航行システムの搭載です。停泊する際にアンカーを人力で上げ下げするのに3~4人必要ですが、自動航行だと電子アンカーのような装置が使えて効率的だというわけです。