2024年 5月 5日 (日)

霞ヶ関官僚が読む本
"日本帝国の失敗"ものの中で印象に残った一冊 「戦略的」過ぎ「戦略性」を失う

普段しばしば耳にする「戦略」だが…

   ふと思い至ったのは、普段の仕事で、「戦略」という言葉をしばしば耳にすることだった。

   入省数年目の若い頃、こんなことがあった。「今般とある会議体を内閣官房に立ち上げる。ついては、そこで扱うべき案件のリストを各省から出してもらいたい。」という依頼があり、省の窓口部局に籍を置いていた評者がリスト案を作成した。省内の関係部局に事前の説明に回ったとき、ある先輩からこんなふうに諭された。

「ずいぶん総花的なリストだね。なぜこの時期にこんな会議を立ち上げるか分かってるのか? 〇〇さん(政権中枢の政治家)の意向だよ。なぜか分かるか? 夏に選挙があるだろ。それを睨んでいるんだよ。この選挙は△△が争点になるだろ? だから、この会議では、夏までに、△△について有権者に訴求するアウトプットを出さないといけない。事前に◇◇省や××業界とも調整する必要があるだろう。とするとタイムスケジュール的に一番現実的なのはこれとこれだ。その2つをリストの最初に持ってくるべきだ。そういう風に戦略を持ってやらないとダメだよ。」

   これが霞が関の優秀な人たちが考える戦略的な意志決定だ。落としどころを見切り、逆算して指すべき手順を検討する。今ある組織や仕組みを前提に、微調整を図りながら、詰め将棋のように一手一手着実に関係者の合意に導く。こういうソツのない仕事の進め方が今だにできない評者などは大いに反省しなければならない。

   けれど、これは平時の戦略だ。米国と戦争するのかしないのか、といった話は、もっと重大で、先の見えないものだ。みんなが合意できるような落としどころがあるのかも、今ある組織や仕組みの中でそれを導くことができるのかも、分からない。戦略的に進めようにも限界がある。何を決めるべきなのか、どんな価値基準に従えばいいのか、といったもっと根本のところに立ち戻ることが必要だろう。

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