違和感拭い去れないチョムスキーの米政府プロパガンダ論考
捏造が横行した第二次大戦
プロパガンダは戦意高揚に特に重要であり、歪曲された事実で汚名を着せられたのは日本民族だけではないようだ。
第二次世界大戦に米国を参戦させるため、英国の情報機関が捏造して仕掛けた世論操作について、著者はこう記す。「ありもしないドイツ兵の残虐行為がいくつもでっちあげられた。両腕をもぎとられたベルギー人の赤ん坊など、ありとあらゆる暴虐の結果が、いまでも歴史の本に載せられているくらいだ。」これを米国の知識階層が信じれば「その連中がイギリスによってでっちあげられた宣伝を広め、平和主義の国を好戦的なヒステリー集団に変えてくれる。」
この下りを読んで思い出すのは、John Dower著"War Without Mercy"、戦闘意欲を駆り立てるべく米国・日本で横行した人種差別的プロパガンダを詳述した書だ。侮蔑的な表現が日本人に向けられ、日本もまた「鬼畜米英」を国民に徹底していたわけである。
先の戦争で日本軍の一部にあった逸脱行為も、この文脈で理解するべきだ。日本と対峙した各国には、戦中戦後、世論操作のための虚偽情報を作る動機がありえた。逸脱行為の証拠の評価は、こうしたプロパガンダの存否、深度や状況を慎重に見極めた上で、それを割り引いて客観的に判断せねばなるまい。事は先の戦争の結果を否定するといった次元の話ではない。戦時の状況を振り返る最大の意義は将来の紛争防止だ。虚偽の事実によって大衆が好戦的に仕向けられる仕組みを真摯に反省することなく、国家間の紛争を防止できるはずもあるまい。