2024年 4月 19日 (金)

医療政策論議のステージアップに向けて新たな一石を投ずる書

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   ■『再考・医療費適正化―実証分析と理念に基づく政策案』(印南一路編著、有斐閣)

   前回の書評(「年金論議で羅針盤がひとつほしいなら手に取る書」)では年金を取り上げたが、社会保障改革の本丸は、年金よりもむしろ医療介護であるというのが、公共政策をかじったことのある人間の共通認識だと思う。年金の場合には、マクロ経済スライドの導入により、経済の身の丈にあわせて自動的に財源と給付をバランスさせる仕組みがまがりなりにも入っている一方、医療介護は経済規模に比して、今後大幅に伸びてくることが見込まれている。

   医療介護、特に今回取り上げた『再考・医療費適正化』(2016年)が論じている医療費がどうして増えるのか、高齢化が原因であるというのが一般の理解であろう。ただ、実のところ、高齢化では説明できないその他の要因がかなり大きいことが知られるようになってきている。

医療費抑制のための魔法の杖はない

   本書では、都道府県別の計量的な比較分析を通じて、医療費を増加させる原因を突き止めようとしている。本書が導く結論は、高齢化は増加の主因ではなく、医療費増加の最大の要因は医師数だったというものである。あわせて、病床数もある程度の影響力を持つ一方、平均在院日数の短縮化は(通念とは逆に)むしろ医療費の増加要因だという。他方、どの要因もさほど強いものとは言えず、(ここが大事なのだが)医療費抑制のための魔法の杖はないと述べている。

   著者の認めているところだが、本書の分析は、地域ごとの医療費の違いに基づく分析であるから、昨今話題の高額薬剤の登場のような医療技術の高度化など地域普遍的な要因による、医療費の増がどの程度効いているのかは、よくわからない。ただ、医療費の抑制が政策課題の一丁目一番地に挙げられている今日、本書の分析は大きな反響を呼んでいるようである。河野龍太郎氏が『週刊東洋経済』の書評で取り上げ、つづいて日本経済新聞の経済教室欄に印南氏による本書の概説が連載されるなど、広く世の中の関心を集めつつあるようにみえる。

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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