2020年 8月 15日 (土)

つらい境遇の人々に徹底して寄り添う 凄まじき奮闘の記録

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制度の狭間と公務員の矜持

   家庭内暴力や児童虐待、シングルマザーの困窮など、福祉の最前線における課題は山積している。

   その課題を解決するために、当事者は、どのような制度があるかを調べ、その制度を担当する役所を見つけ出し、そこで書類を提出するなどもろもろの手続を行う必要がある。

   だが困窮する者に、そうした行政上のハードルをクリアして来なさい、と言って、それが出来るものであろうか。

   また、せっかくたどり着いて支援を受けるに至っても、困窮に至る根本原因が除去されるとは限らない。困窮者はたいがい複合的な課題を抱えているからである。

   生活保護はあの手続、精神疾患の治療はこの手続、DVから逃れるためにはこちらで、学習についてはあちらで...。「日常生活支援」という言葉には、こうした縦割りの行政を当事者の視点から包括的に支援する、という意味が込められている。

   山本氏が体現しているものは、究極のヒューマニズムであるとともに、究極の「おせっかい」とも言える。だとすれば「おせっかい」は捨てたものではない。否、お互いさまで成り立つ人間社会にあって、「おせっかい」なき社会生活は、実に無味乾燥なものになろう。そして現代は否応なくそうした時代になりつつある。

   そう思うと、公務員も、もっと「おせっかい」焼きになって良い。所掌の枠内で機械的に仕事をこなすことは美徳かも知れぬが、公僕とて一人の人間である。世のため人のために働いているからこそ、その仕事に人間的な彩を与え、人々の生活の流れをそっと後押しする。公務員各々がこうした姿勢を保てば、縦割り行政の弊は限りなく小さくできる。

   他所の仕事は知らぬ。公務員のそんな消極的姿勢の故に生まれる悲劇を、我々は今後いくつ見なければならないのか。霞が関に至っては尚更だ。

   行政の不作為の違法性を認めた判決は積み重なっている。自戒を込めて言う。行政官は心するべきである。

   究極の「おせっかい」による人助けに奔走する山本氏と、「おせっかい」にも本書の執筆を申し出た林氏。二人の生き様が公務員たるものの心構えに与える影響は、決して小さなものではないと評者は思う。

   若き後輩たちに一読を勧める所以である。

酔漢(経済官庁・Ⅰ種)



(8月2日追記)文中、山本実千代様のお名前の表記が間違っておりました。訂正いたしますとともに、評者より深くお詫び申し上げます。

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。
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