2024年 4月 20日 (土)

太平洋戦争開戦の「通説」に真っ向から挑む

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経済学者が「戦争論を抑える」ために何かできたとすれば

   牧野氏は、秋丸機関の研究成果は秘匿されるような中身ではなく、その内容は当時かなり広く一般にも知られていたものであることを明らかにした。そして、最新の経済行動学や社会心理学の理論をもとに、天皇に主権があるという明治憲法体制下で、政策決定の実際の意思決定が、陸軍・海軍・政府という天皇を補佐する機関の間で分立してきちんと統合されないままに、現状維持でのジリ貧よりも、非常に低い確率ではあるが有利に講和しうるという見方が有力になり、リスクの高い対米開戦を選択したと分析している。当時、経済学者が「戦争論を抑える」ために何かできたとすれば、現状維持を続けてもジリ貧にならず将来でもアメリカと勝負できるという「ポジティブなプラン」を経済学に基づき効果的に説明することだったという。

   なお、本文中、「昭和一六年夏の敗戦」(猪瀬直樹著 中公文庫)で「太平洋戦争開戦前に日本必敗を予測していた機関」として、今の世に知られるようになった「総力戦研究所」について、この研究所で昭和16年8月末に政府要人の前で行なわれた机上演習は、アクティブラーニングの一環であること、研究所の実態は研究機関というより高度な教育機関であり、演習成果を政策に生かすとことは全く考えられていなかったことなどを解説する。また、研究所の作成した他の資料では、長期戦にならない限りは対米戦に勝利の見込みがあるとしたものもあるとする。これらの総力戦研究所に関する記述には正直びっくりした。資料の充実などによる学問的な研究の深まりで、一般に言われてきた先の大戦にかかる歴史が書き換えられていることを実感する上でも出色の1冊だ。

経済官庁 AK

   【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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