2019年 11月 14日 (木)

再訪「フューチャー・デザイン」

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「選好が変わる」というモチーフ

   「学術」「JS」の諸論文を通観して浮かび上がってくるのは、「選好が変わる」というモチーフである。平たい言葉でいえば、選好とは好みというほどのものである。世代間の文脈では、現世代と将来世代の利害それぞれをどの程度重んずるかということである。そして、フューチャー・デザインを通じ、参加者はより将来世代の利害を重んずる方向へと選好を変化させるというのである。ここで主張されていることは、将来世代に一票与えることで決定の重心が将来世代側にシフトするということだけではなく、決定に参画する個人の意見そのものが変容するということなのである。

   先にみた吉岡氏や原准教授の論文では、仮想将来世代を演ずることで、参加者はこれまでとは違う俯瞰する視点から物事をみるようになるのであった。そして、高知工科大の青木講師は、そのような変化の神経的基盤を発見することができる可能性を指摘し、その発見を今後の研究課題と設定している(「学術」「JS」)。一橋大の斎藤誠教授の論文(「学術」)は、端的に「仮想将来世代との対話で現在世代の選好は変わるのか?」と題されており、対話を通じて、時間割引率が変化し、参加者は未来の出来事をより重視するようになるのではないかと示唆する。

   経済学では、選好は不変とみなされるのが通例である。選好が安定的であることを前提に、価格や所得の変化に応じ、財の需要が変化する。経済学においても選好が変わることを織り込む理論はあるが、財への好みが変わることをいちいち許容しだすと、まともな議論ができなくなるため、普通は安定的な選好を前提に議論する。先だって、フューチャー・デザインを総合科学と形容したが、この総合科学たる所以の最たるものが、この選好が変わるというモチーフなのである。選好が変わるとは、価値観が変わるということである。このような問題は、個人レベルでは心理学や哲学、社会規模では社会学や政治学が扱ってきた課題である。

   この選好の変化というモチーフの追究を通じ、フューチャー・デザインの研究は、学際研究のひとつのモデルとして、科学一般に対しても意義を持つことになるかもしれない。

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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