2019年 11月 14日 (木)

再訪「フューチャー・デザイン」

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ふたたび今後の一層の知的作業に期待したい

   2016年の書評で、評者は「今後の一層の知的作業に期待」と書いて結びとした。ふたつの雑誌の特集をみる限り、評者の期待は裏切られなかったと受け止め、まずはこのことを喜びたい。

   その上で、さらなる期待を込めて、ふたたび一層の知的作業に期待したいと思う。評者が3年前に指摘した三つの論点については、まだ開拓の余地があるようにみえる。特に二番目の論点として挙げた、「その将来世代とは、どのような『理論』に基づき主張する人たちか」という点は差し迫った問題である。2016年の書評では、温暖化については、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)という専門家集団が、国際標準ともいうべき温暖化シナリオを検討しているものの、米国では温暖化リスクは過大に見積もられているという見解が依然一定の力を持っていると警告した。案の定、その後成立のトランプ政権のもと、米国での温暖化対策は逆行の様相を呈している。我が国の財政についても同様である。この3年の間に起きたことは、高い成長によって財政問題は解決できるという議論や、国内で借金が賄えているから、国の借金は心配には及ばないという主張によって、財政の持続可能性への危機感が押しのけられてしまったことである。仮想将来世代がいかなる理論に基づき意見を述べるかを考え抜くことなしに、フューチャー・デザインが自ずと望ましい決定をもたらしてくれると期待するならば、楽観的すぎる。

   自治体での実践においても同様の課題がある。仮想将来世代となる住民は、(例えば)2060年の町について、いかなる事実と見通しに基づいてイメージを膨らませるのだろうか。住民の自由な発想は尊重されるべきだが、同時に基礎的な事実を提示する専門家の役割がここにはあるのではないか。

   もうひとつ肝に銘じたいことは、現在と将来の利害のトレードオフという、中心的課題を見失わないことである。深刻なトレードオフを突き付けられたとき、人が引き続き仮想将来世代であることを喜んでいられるかどうかは分からない、と評者は思う。もしかしたら、人はそこで黙り込んでしまうかもしれない。しかしながら、本当のフューチャー・デザインは、この沈黙のうちからようやく発せられる一言からはじまるのかもしれない。

   西條教授は、ヒトは「将来可能性」という、たとえ現在の利得が減るとしても、将来世代を豊かにするような行動を取ること自体によって喜びを感じる性質を持つという仮説を提示している。沈黙のうちから発せられるその一言が、「将来可能性」を手繰り寄せる導きの糸になればよい。

経済官庁 Repugnant Conclusion

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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