2019年 10月 19日 (土)

写真より景色 松本千登世さんが箱根で学んだ5歳児のひとこと

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   クロワッサン(10月10日号)の「清々しいひと」で、ライターの松本千登世さんが観光地で聞いた男児のひと言にフォーカスしている。日々のふとした経験や会話から、筆者が強い印象を受けた人物を取り上げるコラムで、この号で24回目だ。

「いつになく梅雨寒が続いていた7月初旬のある日、箱根を訪れました。聞けば、時期的に少し早かったことに加え、例年よりも雨が多いせいで紫陽花の開花が遅れているとのこと。そのため目に鮮やかとまではいかず...」

   ゆったりした冒頭から、翌朝、帰京のため箱根登山鉄道に乗る場面になる。それにしても箱根1泊という慌ただしさは、メディアの世界で生きる宿命とでも言うほかない。

   その時季の登山鉄道は「あじさい電車」と呼ばれるそうだ。平日なのにホームは観光客であふれる。中に、若い両親と5~6歳の男の子という家族連れがいた。電車のドアが開くやいなや、彼らはいちばん前、運転席の近くに陣取った。主人公の登場である。

「男の子が車窓に張り付くようにして外を眺める一方、その背後で両親は少しはしゃぎながらそれぞれにスマホのカメラを構え、彼の後姿をかしゃかしゃと撮影」

   楽しそうな光景が目に浮かぶ。「仲のよい家族の微笑ましいひとコマをぼんやりと眺めていると、男の子が突然、こう言ったのです」

〈ねえ、こんなに綺麗なんだからさあ、写真なんて撮ってないで、景色観たら?〉
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1億総カメラマンの時代

「どこか大人びたひと言に、どきりとさせられました。確かに、彼の言う通り。『今』しかない美しい景色に触れたい。光の強さや角度、風の温度や湿度、音や匂いまでも全身で感じながら...感動とともに記憶に刻むほうが、より豊かなんじゃないか...」

   小さな男の子にそう諭された気がして、松本さんは思わず口元が緩んだという。

   最後の段落。筆者はインスタ映えやSNS発信を優先したがる昨今の風潮に触れる。いわば1億総カメラマンの時代。公共の場での礼を欠く態度、迷惑や危険を顧みない行為に「心がざわざわ、ざらざらするのを感じていました」と。

   今さえ、自分さえよければという価値観の中で育つ子どもたちは可哀そう。そう思っていた松本さんは、男の子の正直な、かつスルドイ指摘に救われたのかもしれない。

「彼は、ピュアな心でとても素直にとても自然に、正してくれた気がして。大げさ? いや、私たちは今、このひと言に学ぶべきだと思うのです」

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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