辻井伸行「ドイツ公演」出来映え ピアノ音色に観客が顔色変えた
器の大きいピアニストに
確かに『辻井ピアノ』は聴くたびに心洗われて目が潤むような思いにかられる。その魅力は、音楽好きで耳が肥えているドイツの聴衆をも捉えたらしい。コンクール優勝から3週間、彼はドルトムントの小ホールでの演奏会に臨む。「大して期待しないわ」とか「満足できなかったら帰るつもり」と話していた観客の表情が、辻井のピアノを聴くうちに変わる様子をカメラが写す。
最初、重苦しい空気に包まれていた会場は大きな拍手に包まれる。アンコールに応えて弾いたのはリストの「ハンガリー狂詩曲第2番」、コンクールの際に観客を最も盛り上げた曲だ。終わったときにはスタンディングオベーション。彼が目標とする「器の大きなピアニスト」へ向けて初の挑戦を乗り越えたといえよう。
スタジオに戻って国谷裕子キャスターから、器の大きなピアニストになって行くための課題は、と聞かれた辻井は「まだまだ表現力も勉強不足の部分もあるので磨いて、音楽以外のこともたくさん勉強して立派なピアニストになって行きたい」と言った。
スタジオゲストは指揮者の金聖響。辻井が14才のとき共演したという金は「楽器から出る音だけじゃなくて、体との接点のもち方がすごかった」と述べる。国谷が、辻井の飛躍する条件について尋ねると、指揮者は「コンクールに優勝してハードルが上がり、周りの期待も大きい。厳しい環境に置かれるけど、1つ1つの演奏会を最高のものにするという気持ちを忘れずに、今までと同じように一生懸命にやると思うので、何も心配してない」と答え、「今度、一緒にやりましょうね。ぜひ、お願いします」と呼びかけた。
スタジオ・コンサートのラストはショパンの「子守唄」。テレビでも『至福の音色』にひたることができた。
アレマ
* NHKクローズアップ現代(2009年7月2日放送)