2024年 5月 9日 (木)

流出保安官「正義」か「危険な兆候」か―週刊誌真っ二つ!おおいに結構

警鐘派―「文春」「新潮」「毎日」

   こうした英雄視する風潮に警鐘を鳴らすのは「サンデー毎日」。「許されざる『義挙』崩れ始めた文民統制」で、「生の映像情報は視聴者の感情に直接訴えるため、反応も感情的になりやすい。(中略)さらに、今回のような手法は権力による保秘強化につながりかねず、自由を縮減する恐れがあります。(中略)武器を持った公務員には、とりわけ厳しい自律が必要。そうした自覚を欠いていたのではないか」(大石泰彦青山学院大教授)と、保安官の行為を批判する。

   作家の佐藤優氏も、「保安官は辞職した後で、己の信念を主張するべきだった。武装した権力に一般人が抵抗できない以上、海保の『義挙』が、自衛隊や警察など同じ武装組織に広まることが最大の懸念です。武器を持った公務員に世直しを期待する国民はいないはず。政治の統制に従うという原則を徹底させなければならない」と、この風潮は、犬養毅首相を青年将校が暗殺した5・15事件で、市民らの助命嘆願で青年将校たちを軽い処分で済ませたために、2・26事件につながっていったときと似ているとしている。

   逮捕見送りが決まってから発売された「週刊新潮」「週刊文春」はどうか。文春は「『流失保安官』(実名)『覚悟なき英雄』の正体 あえて言う!この男は『正義』なのか」と、実名を出し、保阪正康氏と佐藤優氏にこう批判させている。

「保安官も海保も、警察・検察も、政府も菅首相も、『自分の責任』に無自覚すぎる。そして、海保という小さな組織に開いた穴は、この国の政府の大きなほころびに繋がる危険を孕んでいるのです」(保阪氏)

   佐藤氏はマスコミの責任に言及して、「悪いのはマスコミも同じです。国が隠す情報をリークした者を批判すると、自らの生きていく道を閉ざすことにつながるから、新聞やテレビの論調は無意識に擁護へ傾く。それがまた国民の判断を誤らせる。今回の行為は、明白な服務規律違反です」と言い切る。

   新潮は、実名はもちろんだが、グラビアで保安官の顔を公開している。なかなか凛々しい顔だ。タイトルは「見る前に跳んだ『海上保安官』の素顔」とややおとなしいが、身内の海保OBにこう言わせている。

「中国の無法な行いを世界中の人が見ることができたのは、大きな意味があった。でも、職務上知り得た情報を勝手に外部に漏らした行為の是非は、それと全く別のところで議論しなくてはならない。やはり、(実名)さんには何らかの処分が下されてしかるべきです。そうでなければ組織の規律は保てない」

   国内の景気対策はもちろんのこと、対中国・ロシア外交でも弱腰で失点を重ねる菅・仙谷内閣に、国民の不満は爆発寸前である。だからといって、一公務員の政権を揺るがす『クーデター』のような行為を許していいのか。重要なテーマだけに、新聞テレビと違って、週刊誌は「主張」をぶつけ合い、議論を深めていってもらいたいものだ。

元木昌彦プロフィール
1945年11月24日生まれ/1990年11月「FRIDAY」編集長/1992年11月から97年まで「週刊現代」編集長/1999年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長/2007年2月から2008年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(現オーマイライフ)で、編集長、代表取締役社長を務める
現在(2008年10月)、「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催。編集プロデュース。

【著書】
編著「編集者の学校」(講談社)/「週刊誌編集長」(展望社)/「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社)/「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス)/「競馬必勝放浪記」(祥伝社新書)ほか

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