ブロードウェイ「ANYTHING GOES」80年前のアメリカ違和感なく演じる俳優たち
人生には旅が必要だ―とはだれの言葉なのかは忘れたが、生活に刺激を与えるのに旅はもってこいだ。この原稿をニューヨークからの帰国便の中で書いている。マスコミやエンターテインメント関連の仕事は毎日が夏休みの最終日といった脚本家がいたが、フリーランスの人間は本当の夏休みは自分でいつでも決められる。今回はある番組で一緒に仕事をしている人達の研修旅行に同行させていただいた。少々ややこしいが、要はひと足早い夏休みのようなものだ。
さて、その内容はというと、観光ではなく観劇が目的の旅行。本場ブロードウェイでミュージカル観劇だ。ということで、旅行の前に研修という文字がついている。舞台を手掛けているわけではない私にとっては、まったく都合がいい研修だ。だが、本物を知ることは重要。舞台セットの作り方や暗転の仕方など、日本で見る芝居も「ああ、ここからヒントを得ているのね」とかなり事情がわかってきて面白い。
日本の時代劇に感じるミスマッチ感がない!
トニー賞発表もあり、盛り上がっていたブロードウェイでの話を少々したい。今回は3本のミュージカルを見たが、そのひとつ、コール・ポーターの名曲とタップが見ものの「ANYTHING GOES」は、トニー賞で主演女優賞など3部門の受賞をしたが、おそらく日本で上演するのは難しいだろう。卓抜な歌と踊りと演技をこなせる女優が日本にいるかどうかはなはだ怪しいからだ。どんな舞台かご興味のある方は、オフィシャルサイトの動画でご確認を。
このミュージカルの初演は1930年代。幾度か再演されているが、2011年のいま観劇していて妙なことに気がついた。80年以上も前の時代設定なのに、演者の誰ひとり2011年の臭いを引きずっていないのだ。当時の映画などで見るあの雰囲気そのままで、まったく違和感がない。
日本の場合で考えてみてほしい。日曜日夜の大河や時代劇などを見ていると、とくに若手俳優の侍姿や着物姿にどこか違和感を覚えないだろうか。衣装に着せられている、かつらがまるで似合っていないなど、現代人が時代ものをやっていますよというミスマッチ感が出てしまう。理由は日本人の骨格が食生活やライフスタイルの変化によって変わってしまったことがあげられる。
ところが、ブロードウェイキャストは時代を隔てている印象がない。劇の時代を生きている感覚がすごく伝わってくる。衣装やメイクのためだけではないだろう。アメリカでもインスタントやファストフードが増えたとはいえ、食生活そのものは日本のようにガラリとは変わっていない。そのため、骨格も変わることはなく、時代ものをやっても違和感もなく演じられるのだろう。