伊藤穣一「異分野組み合わせる異才」世界が欲しがる男を作った勉強嫌いと借金まみれ
「おりこうな人間には予想外のことやチャンスが見えない」
伊藤は親の仕事の都合で幼いころから日本とアメリカを行き来しながら育った。勉強は大の苦手。何とか大学に入ってものの中退。転機がきたのは、父親の恩師だったノーベル賞学者の福井謙一の次の言葉だった。
「この世界は、大気の流れにしても株式市場にしても複雑な現象ばかりでまさにカオス。しかし、そこにはある一定の美しい規則性がある。カオスのことを勉強した方がいい」
これを聞いて考えがガラッと変わったという。実社会で自らカオス、混沌を学んでいった。そして見えてきたのが、予想もしないところにこそ、互いに組み合わせると新しいことを生み出せる人たちがいることだった。
そういう人たちを繋いで行くうちに、ITの世界的ネットワークを率いるリーダーになり、スティーブ・ジョブスに並び称されるほどの影響力を持つようになった。
国谷「異分野をコネクトすることがなぜイノベーションに繋がるのですか」
伊藤「今の世の中、想像できないことや予測できないことがしょっちゅう起きています。なぜ想像できないかというと、おりこうな人間が集まって企画を立て、言われる通りこなすちゃんとした人、ちゃんとした会社は、予想外のことやチャンスが周囲にあっても見えない、視野が狭いんですね。今のイノベーションで一番必要なのは、クリエイティビティ(創造性)でしょう。コネクターは固まった考えを壊すために違う世界に繋げていく。そうするとクリエイティビティが出てくるんです」
伊藤は今年8月、新たな挑戦に動き出した。混迷を深める世界で、ネットの爆発的な力と政治を融合し、新たな国づくりを世界中で仕掛けていきたいという壮大な挑戦だ。
番組では触れなかったが、その2か月前の6月にはアメリカの有力紙「ニューヨークタイムズ」の社外取締役に迎えられた。以前から既存のジャーナリズムに批判的だったが、その凋落の速さに危機を募らせ引き受けたらしい。
これらの挑戦の結果、どんな答えが出るのか大いに期待したい。
モンブラン
*NHKクローズアップ現代(2012年10月3日放送「『混とん』に飛びこめ!MITメディアラボ所長 伊藤穰一」