東京電力を内部からぶっ壊せ!ようやく動き出した社内タスクフォース
福島原発のお膝元、浪江町で東京電力職員が住民の放射能汚染の調査に協力している。だが、住民の目は厳しい。「帰りたくても帰れないんだ。あれだけ安全だといったのに」。どうしたら信頼を取り戻せるか――社員の悩みも深い。
廣瀬直己社長の直轄で、9月(2012年)から社内横断のタスクフォースが立ち上がった。特別扱いだった原子力部門にメスを入れ、どこに問題があったのかを洗い出そうという試みだ。安全対策が不十分であったと、事故から1年8か月経って、ようやく東電が認めたのである。
メンバーの松本純一さんは記者会見でスポークスマンを務め、東電への風当りの強さを肌で感じていた。「社会との距離が離れてしまった。 事業者として十分な組織なのか」と思う。社内からの風当たりもきつい。かつて原子力部門に出向した社員は、「原子力のリスク管理は世界一だ。それを学んでこいといわれた」という。この過剰な自信は、失敗は許されない、安全イメージを壊さないと自らを縛っていた。新しい知見にも慎重。訓練も予定調和になる。重大事故を想定した訓練ができないなどを生んでいった。
それがいま、営業のメンバーが「営業の訓練にはシナリオなんかありませんよ。ダメを受け止めることからスタートするんです」という。「原子力のメンバーはそんなことも知らなかった」
大津波直撃の試算あったのに…安全対策担当に伝えず!「伝えても無視する体質」
チームはさらに経営にもメスを入れる。社外秘の資料にある200以上のリスクの分析から、「小さなリスク」の問題が浮かび上がった。ヒビ割れとかボルトの弛みとかいったものだが、実はこれらが稼働率につながるものとして重視されていた。稼働率から見ると、重大事故の優先順位は低くなる。安全対策は先送りされる。その象徴的なものが津波対策だった。実際の津波は想定の倍以上の13.1メートルもあったが、実は3年前に15.7メートルという試算もあった。この試算は経営陣には伝えられていたが、なぜか安全対策担当には伝えられなかった。
「もし伝えられていたら?」
「発生確率の低いものは足切りする」
「せめて電源を高いところに置く」
「(ウチの社の体質では)そうはならなかっただろう」
タスクフォースの姉川尚史・事務局長は「すでに十分という思いが強過ぎた。稼働率に目がいって、安全対策の先送り、備え不足という負の連鎖になった」という。
東電の改革監視委委員長を務めるデイル・クライン氏(元米原子力規制委員長)は、「日本はピラミッド構造で、下が自分で判断して行動する仕組みになっていない。製造業では現場の判断で工場を止めるところもあるが、原発は違う」と、日本の原発の特異な現状をいう。