日体大の危機感「染みついた体罰・パワハラ体質」雑巾がけやお茶買いなど下級生いじめ

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   日本体育大学の谷釜了正学長は入学式で、1600人の新入生に異例の呼びかけを行った。「体罰、暴力、パワーハラスメントを是認するような考えは、即刻過去のものとして葬り去ってください」。強い危機感の表明だった。120年の歴史を持ち、多くのトップアスリートを輩出し、毎年300人近くの体育指導者を送り出す日体大のジレンマは深かった。一連の体罰事件で日体大出身者の関わりが明るみに出ていたからだ。そこで行った新入生へのアンケート結果はさら衝撃的だった。

   ほぼ3人に1人が高校時代に体罰を受けたり、見聞きしたことがあると答えた。学生の意識も体罰を容認していた。「強い選手を育てるには仕方 ない」「体罰はコーチからの愛情だ」「なくなる必要はない」…。谷釜学長は「指導者を出している責任がある。体罰、暴力の悪しき循環を裁ち切っていく」という。

   学生寮の朝は太鼓の音で始まる。上級生が下級生を点呼し、1、2年生は廊下の雑巾がけをする。理不尽な慣習も多い。女子バレーボール部が代々受け継いだマニュアルは、下級生がやるべきことが300項目もあった。「汗でぬれた床は素早く拭く。その時、監督がいるベンチに尻を向けてはいけない」「移動で『タクシー』といわれたら、1年生全員で停めにいく」 「お茶は1年生が自腹で買う」「病気で練習を休むときは、4年生全員に電話をする」…いま見直し中だという。当然だろう。

   スポーツ教育学の友添秀則・早大教授は「長いこと日本の風土だった。いま大きな意識の変革をしようとしている。小さな一歩だが、歴史的な瞬間だと思います」と話す。

大八木淳史の芦屋学園高校「練習と勉強両立のアスリートコース」

   もうひとつ、スポーツ進学と学校経営の闇がある。スポーツの成績が進学や就職を左右する。父兄からも「もっと練習させて」と注文がつく。これも体罰、暴力を生む理由だ。体罰から自殺者を出した大阪・桜宮高校もこれだった。

   兵庫県の芦屋学園高校は2年前、「アスリートコース」を新設した。スポーツで推薦入学を狙うコースだ。生徒数を増やしたい学校と好成績で進学を確保したい父兄。2つのプッシャーは指導する教師に行く。閉塞感は体罰を容認することになりかねない。昨年就任した大八木淳史・校長は元ラグビーの日本代表だ。教師へのプレッシャーが体罰につながることを心配している。教師と生徒にスポー ツ以外の選択肢を示し、視野を広げることから始めたいという。「多種多様な経験をさせることが必要だし大事だ」

   ダンス部顧問の市川裕子教諭も大会が近づくと厳しい言葉ががんがん飛ぶ。その市川教諭は生徒と毎日やり取りする部活ノートに新聞の切り抜きを貼らせるようにした。スポーツに限らず、ニュースから学力テストの結果まで。成績が悪いと練習でなく勉強をさせる。両立する生徒も出始めた。

   学校はまた生徒募集でもスポーツと学業に両立を明確にした。この高校には国際部門もある。英語教育にも強い。しかしなお模索は続く。

「選手引退年齢」水泳21歳、ラグビー28歳、Jリーグ26歳…その後の人生の準備

   友添教授は「スポーツで勝利だけを求め、利用していくあり方が問題」という。そして国谷裕子キャスターに「スポーツの引退年齢をご存知ですか」と聞いた。驚くべし。水泳は21歳、ラグビーでさえ27、8歳、Jリーガーは25、6歳という。人生80年の時代に、20代で引退してしまった後どうするのか。社会常識や学力を身につけるのは中高時代である。多様な教育の中でスポーツに邁進するのが本来と教授はいう。

   その通りだろう。しかし、勝ち負けがスポーツの本質であることは否定しようがない。体罰だって遡れば軍隊があり武士道がある。きれいごとでは済まないような気がするのは私だけだろうか。

ヤンヤン

*NHKクローズアップ現代(2013年6月13日放送「体罰 問われる『体質』」)

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