2024年 4月 26日 (金)

住み慣れた土地離れて迎える人生の終幕…増え続ける「介護移住」老親も家族も切ない選択

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   急速に進む高齢化社会のなかで、大都会の高齢者が地方へと移って介護を受ける「介護移住」が広がり続けている。大都会では高齢者施設の整備が追いつかず、東京では4万人が安い特別養護老人ホーム(特養)の空きを待っていて、遠方の住み慣れない土地でケアを受けざるを得ない現状だという。

   行政のなかには地方に介護施設を作る「遠隔地特養」の動きも出ているが、まだ緒についたばかりで課題も多い。老いて安心して暮らせる終の棲家をどうすれば手に入れることができるのか。

特養入所待ちの高齢者は全国で42万人―高地価の大都市部では困難な増設

   高齢者は75歳を過ぎると体調を崩すことが多くなり医療や介護に頼る。世界に例を見ないスピードで高齢化の波が押し寄せる日本は、2025年までに75歳以上の高齢者が60%以上増える地域として、東京、名古屋、大阪の3大都市があり、埼玉、千葉両県では倍増すると見られている。

   なるべく施設に頼らず、住み慣れた地域で在宅の生活を最後までまっとうできるように介護や医療の支援を充実させていく―これが国の基本方針らしい。都市部高齢者の特徴のひとつは、所得の高い人が少なくない一方で、生活の苦しい低所得層が圧倒的に多いこと。それらの高齢者にとっては国の基本方針など絵に描いた餅だ。

   国の支援で比較的安い料金で利用できる特養の入所待っている高齢者は全国で42万人にのぼるという。とくに3大都市圏では地価が高いことから用地の確保が困難なうえ、財政が苦しいなどの理由で施設の整備率は全国平均を下回っている。

   晩年を住み慣れない遠方の施設でケアを受けながら孤独な生活に耐える高齢者も、時折面会に訪れる家族も切ない思いに耐えているのが現実だ。都心から40キロ離れた茨城県取手市の特養に入所している父親を訪ねて、自宅の川崎市から2時間半かけてやってきた娘は、勤務先から休みをもらい1か月ぶりの面会だった。母親は別の施設に入っている。

   もともとは娘は自宅で認知症の両親の介護をしていた。しかし、夜中の徘徊が激しくなり施設に預けることにしたのだ。当初、安く入居できる特養を探したが、待機者が300人もいてすぐに入居でき状況ではなかった。次に民間の有料老人ホームとサービス付き高齢者住宅を探した。近いところはどこも月々の利用料が2人で30万円以上もかかり断念せざるを得なかった。行き着いた先は2人で20万円以下の取手市の介護施設だった。夫婦はバラバラだが、それもやむを得ない選択だった。

「遠隔地特養」でリロケーションダメージ…認知症やうつ症状

   そうしてなかで首都圏の自治体の中にはさまざまな悪条件下で新たな施設の整備に取り組む動きも出てきている。東京・杉並区は特養を今年(2013年)新たに70床、来年は161床オープンする予定だ。だが、待機者は1944人もいる。新たに都心に建設するのはもはや限界と考えた末、かつて区の養護学校があった静岡県南伊豆町の跡地に特養を建設することにした。

   行政機関がよその県内に高齢者施設を作るのは全国でも初のケースだが、これには越えねばならない厚い壁もある。現在の制度では、南伊豆町の施設に入居した場合、医療費や介護費用は杉並区が負担するが、生活保護を申請したり、75歳になって後期高齢者医療制度に移行したりすると静岡県や南伊豆町の負担になり、受け入れる自治体の負担が増えてしまう。

   厚労省は今年5月から都市部の高齢者対策について検討を重ね、介護移住の課題についても検討を行なってきた。このほど出された報告書には、県外から高齢者を受け入れる自治体の費用負担については制度改革が必要だと答申された。それでもまだ課題は残る。

   社会保障政策に詳しい中央大学の宮本太郎教授はこう解説する。「社会的階層性というのか、お金がないから地方を選択せざるを得ないとなると、これはまた問題だと思うんです。高齢者が馴染みがない土地に移住すると、リロケーションダメージ(移住することによる精神的悪影響)と言いますが、大きく環境が変わったときに認知症が進行したり、ウツ症状がでてしまうことが危ぶまれるんです。

   それでも、当人の意向というより、家族の状況を考えて空気を読んで『行こう』というかもしれない。さらに、移住先のサービスの質を考えると、極端な話、虐待が起きたり、不正の請求があったときに十分チェックできるのか心配になります」

   国谷裕子キャスター「地方自治体の住民でないゆえに必要なサービスを受けられないケースも出てくるでしょうね」

   宮本教授「認知症のお年寄りの集中介護サービスは移住してきた人は現実には受けられない。施設などの住まいはあるが、行政のトータルのサービスは受けられないという問題に繋がりかねません」

   そこで国や東京都、とくに猪瀬知事にはひと言いいたい。東京五輪招致に成功し、おもてなしの心で巨大な箱物をつくるのに狂奔するのも結構だが、慣れない土地で家族と離れ孤独に耐える高齢者、仕事の都合でたまにしか面会にいけない切ない家族が急増していることにも気配りを忘れないで欲しい。

モンブラン

NHKクローズアップ現代(2013年9月25日放送「安住の地はどこに~広がり続ける『介護移住』~」)

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